てれふたるの『ドキッ☆窒素だらけの化学講座〜歴史も絡むよ〜』

時は深夜—— 化学が苦手と言う青少年達の前に一人の男が現れた。 男の名は「@terephtal3」……レポートを無視して、彼の化学講座が始まる。
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てれふたる @terephthal3

アーク法はその名の通り、アーク放電によりN2+O2→NO2の反応を起こす方法です。見るからに非効率で、もちろん現在は使われていません。この方法は水力発電による電力供給の豊富なノルウェーでのみ実用化されました。

2011-01-04 05:15:47
てれふたる @terephthal3

ノルウェーは河川の勾配が大きく水量が多いので、地形的に水力発電に適していたようです。ノルウェーは現在も電力のほぼ100%を水力で賄っているようです。この豊富な電力は、後に第二次世界大戦と原爆製造に関わってくることになります。

2011-01-04 05:18:32
てれふたる @terephthal3

この話は本筋ではないので省略しつつ。原爆製造には重水D2Oが必要ですが、これがなかなか貴重な代物で、同位体を分離してこなければいけません。同位体の物性は同じと習ったのにどうやって、と思われるかもしれませんが、軽水H2Oと重水D2Oは実はかなり違います。

2011-01-04 05:25:03
てれふたる @terephthal3

ノルウェーの電力は水の電気分解にも使われ、その際に多量の重水が得られました。(重水が主目的だったかどうかは分かりません。すいません。)第二次世界大戦中、この重水を巡って様々な駆け引きや作戦が実行されることになります…。

2011-01-04 05:32:58
@thousandmilesxm

ノルウェーの おもしろい

2011-01-04 05:33:51
てれふたる @terephthal3

もう1つの石灰窒素法はやや複雑です。これは生石灰CaOとコークスCを電気炉で強熱して得たカーバイドCaC2を窒素と反応させ、カルシウムシアナミドCaCN2を得るというものでした。CaCN2は水と反応しアンモニアNH3になります。

2011-01-04 05:35:02
てれふたる @terephthal3

なぜ電気炉か?それは反応に必要な2000度という高温が、従来の燃焼では得られなかったからです。電気炉は酸素を必要としないので、断熱的にいくらでも(電熱線が切れるまで)加熱することができます。

2011-01-04 05:40:03
てれふたる @terephthal3

やはり電力が必要です。これはテネシー渓谷やナイアガラの滝の水力発電所が供給しました。もっとも、ハーバーボッシュ法登場後は競争力を失い大量解雇が続いたそうなのですが…。この事態を打開しようとしたのが、ニューディール政策のTVA計画です。

2011-01-04 05:47:30
てれふたる @terephthal3

石灰窒素CaCN2はそのまま肥料として用いられますが、同時に農薬でもあります。CN2-が水と反応して毒性のNH2-CNを生成します。これは植物にとっても毒なのですが、1週間程度で分解されます。従って、肥料散布後しばらくしてから植物を植えるという使い方をします。

2011-01-04 05:51:49
てれふたる @terephthal3

カーバイドCaC2も有用です。カーバイドは水と反応してアセチレンを生成します。この炭素原子の由来は石炭コークスなので、無機炭素を有機炭素に変換できたことになります。石炭化学工業としてアセチレンが用いられます。

2011-01-04 05:54:16
てれふたる @terephthal3

空中窒素固定法ではありませんが、近代において火薬に用いる窒素(=硝石)をどのように得ていたのか振り返ってみましょう。硝石はもちろん鉱石としても得られるのですが、その鉱床は珍しく、1809年にチリでチリ硝石鉱床が発見されて初めて鉱石から供給されるようになりました。

2011-01-04 06:00:31
てれふたる @terephthal3

それまでは、土壌を掘り返して得ていました。フランスには硝石採取人という職業があり、国王よりあらゆる家に立ち入って床下や穴蔵の土を採取することが出来る特権が与えられていたそうです。方法は簡単で、土壌を掘り返して煮詰め、硝酸カリウム結晶を得るというものです。

2011-01-04 06:03:24
てれふたる @terephthal3

硝石採取人に国王から特権が与えられるほど、硝石(=火薬の原料)は国家にとって重要だったのです。しかし、もちろんこれは効率の悪いものでした。フランス革命後に、近代のバイオテクノロジーともいえる鉱石丘法が発明されます。

2011-01-04 06:07:45
てれふたる @terephthal3

硝石丘法は次のようなものです。土と草と糞尿を混ぜると、尿中の尿素(NH2)2COが分解されてアンモニアができ、バクテリアの働きにより亜硝酸HNO2に還元されます。更に酸化され硝酸になると、草に含まれていたカリウムと塩形成し、硝石KNO3ができます。

2011-01-04 06:15:12
てれふたる @terephthal3

この方法を軌道に乗せるために、最初は5年間寝かせます。その後は土と草と糞尿を補給すれば毎年硝石が収穫できます。ナポレオンの戦争では硝石丘法由来の硝石を用いた火薬が使われました。尿の火薬です。ナポレオンは尿で勝利したのです…。

2011-01-04 06:18:17
てれふたる @terephthal3

硝石が火薬原料として重要なのは日本でも変わらず、年貢として納められることもあったそうです。硝石丘法は幕末の日本にも伝わっています。

2011-01-04 06:20:59
てれふたる @terephthal3

窒素は食糧供給の肥料として必須であり、また火薬原料としても重要でした。それまで苦心して得ていた硝石ですが、1909年のハーバー・ボッシュ法の発明は、化石燃料を肥料や火薬に変換できるようになったことを意味します。人類の非常に大きな進歩でした。

2011-01-04 06:24:55
てれふたる @terephthal3

ハーバーボッシュ法は僅か数年の内に、当時の技術水準では不可能とも思われる数多の難題を解決して開発されたことから、化学史上の奇跡の1つとも言われるそうです。難題の1つは、高温高圧に耐える反応容器。また水素脆性と呼ばれる鉄製容器の劣化でした。

2011-01-04 06:29:41
てれふたる @terephthal3

鉄はその製法上、少なくない量の炭素が含まれます。ハーバーボッシュ法原料の水素は、この炭素を還元し鉄製容器を脆くします。反応容器は内圧に耐え切れず、最終的に爆発します。冶金技術者のボッシュはこの問題を、炭素含量の少ない軟鉄を内側に用いるなどの工夫により解決しました。

2011-01-04 06:34:12
てれふたる @terephthal3

ハーバーは空中窒素固定にオスミウム触媒が使えることを見出しました。しかしオスミウムは非常に貴重で、その後に現在も使われるFe3O4-Al2O3-K2O触媒が開発されました。レアメタル→卑金属の流れは、100年前にもあったのです。

2011-01-04 06:41:24
てれふたる @terephthal3

ところで、ハーバーは化学兵器の父とも呼ばれます。初めて塩素ガスCl2を実戦使用し、その夜に妻クララはピストル自殺します。その後はノーベル賞で名誉回復したものの、ユダヤ人であることからドイツを追われスイスで客死します。

2011-01-04 06:46:10
てれふたる @terephthal3

毒ガスを主導的に開発したことについては、彼がユダヤ人であったことが関係しているとも言われます。ユダヤ人がドイツで理解を得られる方法…それが積極的に軍事に加担することだったのでしょう。人類史上に残る功績を残しながら、その生涯はなんとも悲しいものです。

2011-01-04 06:48:31
てれふたる @terephthal3

ハーバーボッシュ法は「水と空気と石炭からパンを作る方法」ともてはやされました。またドイツ皇帝はハーバーボッシュ法の発明を聞いて第一次世界大戦開戦を決意したとも言われています。

2011-01-04 06:51:02
てれふたる @terephthal3

ハーバーボッシュ法は自然界の窒素循環に多大な介入をしました。現在地球上の窒素バイオマスの半量はハーバーボッシュ法由来とも言われており、これは簡単に言えば僕の体の窒素の半量は工場由来ということです。

2011-01-04 06:54:37
てれふたる @terephthal3

その他人類の使うエネルギーの数%はハーバーボッシュ法に使われるだとか、窒素供給は全てハーバーボッシュ法に頼っているだとか、ハーバーボッシュ法についてはとにかく色んな表現がされます。

2011-01-04 06:57:15