First Love(前編)

りえぷぅ @riem124blue

1 物心ついた時にはもう、私にとって頼る家族は“親”よりも“お兄ちゃん”だった。 父は大きな楽器店の代表取締役、母も役員の１人。 忙しい両親の代わりに、いつも傍に居てくれたのがお兄ちゃん。 お手伝いさんもいたけど、入れ替わりが激しくて…でもお兄ちゃんだけはずっと傍に居てくれた。

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2 「おにぃちゃーん…ママは何時に帰ってくるんー？」 「ママ、忙しいねん。お兄ちゃんとえぇ子に遊んどこなぁ？」 「うん…おにぃちゃーん…おなか空いたぁ。」 「ほんなら、お手伝いさんの作ってくれたん、温めよな？」 「イヤやぁ…あのおばちゃん、おナス入れるからキライやねんもん。」

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3 「好きキライはあかんて、ママ言うてたやろ？食べなあかんやん。」 「おにぃちゃんも、きゅうり食べられへんやんかぁ。」 「おー…おん、せやなぁ…。」 「スーパーのお弁当がいい～！」 「あ～はいはい、ほんなら、一緒に行こなぁ？」 頭を撫でて、それから手を繋いで２人で歩いてく…。

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4 ―――――― 中学生になると、学年も、何組なのかも分からないような男子から呼び出されて告白された。 そんなことが何度もあったけど、お兄ちゃんよりステキやと思える人なんかおらんくて。 だから、いつも「ごめんなさい」って言ってた。 バスで高校に通ってたお兄ちゃん。

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5 もっと家の近くにバス停あるのに、毎日必ず私の中学校前のバス停で降りて、私と一緒にそこから徒歩で帰る。 お兄ちゃんは部活もしてたから、私は教室でお兄ちゃんが乗ったバスを待ってた。 その日もそうだった。 教室の窓の外から見えるバス停。 肘ついて、ぼんやり眺めてた。

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6 その時「何見てんの？」って教室の後ろの扉の方から声が聞こえた。 ゆっくり振り返って、声の主を確認。 あー…おおくら…、おおくら…なんだっけ？ なんかすんごいモテる人だ…。 ＊＊「…別に…。」 大倉「サッカー部に好きなヤツおるとか？」

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7 あー、そーいえば、サッカーしてるなぁ…。 ＊＊「いないよ…。」 別に呼んでないのに、大倉は勝手に教室入ってきて、私の前の席に後ろ向いて座る。右肘ついて顔を乗せて私の横顔を見てる。 大倉「ほんまにかわえぇな、自分。」 ＊＊「何それ。」 窓の外から目を外し彼を見る。

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8 大倉「めーっちゃモテんのに、告白片っ端から断っとるんやろ？」 ＊＊「…それが？」 大倉「好きなヤツがおるんかー…もしくは既に彼氏おるとか？」 ＊＊「別にいませんけど。」 大倉「ふぅーん…？」 なんなの…？ あ、バス…お兄ちゃんだ…！

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9 立ち上がるとお兄ちゃんがこっちを見て軽く手を上げた。 大倉「…嬉しそぉな顔…やっぱりおるやん、彼氏！」 ＊＊「彼氏じゃありません！兄です！」 言いながら鞄を抱えて、そのまま教室飛び出した。 大倉「＊＊ちゃーん、また明日なぁ～♪」

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10 後ろでそう聞こえたけど、振り向きもせずに、走ってお兄ちゃんの所へ。 横山「…そんな走らんでも…待ってるやん…。」 ＊＊「はぁ…はぁ…だって…、早くお兄ちゃんに会いたかったから…。」 横山「おまえなぁ…彼氏やないんやから…、」 ＊＊「彼氏みたいなことしてるやん！」

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11 ＊＊「妹のお迎えなんて！」 横山「…イヤやったらヤメるやん…。」 ＊＊「イヤや！ヤメたら一生口きかへんよ！」 横山「なんやねん…もぉー…ほら、帰るで？」 私の息が落ち着くまでのこんなやり取り。 お兄ちゃんの優しさだって、私は知ってる。 そんなお兄ちゃんが大好き！

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12 世間では、これをブラコンって言うんだよね。 後ろに着いて行こうとしたら、パッとお兄ちゃんの足が止まった。 見たら、私のいた窓の方を見上げてる。 横山「よぉ見えへんけど…あれ誰？男ちゃう？」 目線を追って見上げると、そこにはまだ大倉らしい人がこっちを見てる。

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13 私が見たのに気付いて、大倉は軽く手を振った。 確かによくは見えないけど、気のせいかニコニコしてるように見えた。 ＊＊「…どっかのクラスの男子。なんか話しかけられただけ。」 横山「…また告白されたん？」 ＊＊「そんなんじゃないよ。ほら、早よ帰ろ！」

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14 私はお兄ちゃんに隠し事はしない。 でもお兄ちゃんは、たぶん…してるんやろなぁ…。 お兄ちゃんがすごくカッコイイって言われてるの、知ってるもん。 それに優しいし、お金持ちの家の長男だし。 どうしよう…ホントは彼女いたりして…。 ＊＊「お兄ちゃん…彼女できた…？」

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15 横山「はぁっっっ？！」 ＊＊「お迎えイヤやったらヤメるって、ほんまは彼女できたから、ヤメたいんやないの？」 横山「アホか！できてへんわ！！」 ＊＊「ほんまにぃ？」 横山「嘘ちゃうて！」 ＊＊「ふーん…？…ほんなら、好きな人とかおるん？」 横山「はぁっっっ？！」

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16 ちょっと顔を赤くしたお兄ちゃん…あやしい…。 横山「そんなん、おるか！！おまえの世話で手一杯や！！」 うーん…あやしすぎる…。 ま、えっか…正直あんまり知りたないし。 ＊＊「…今日の晩ご飯何かなぁ…？」 横山「おまえ、あのお手伝いさんのご飯は食べれるんやな？」

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17 ＊＊「うん。光子さんのご飯はおいしいもん。」 横山「良かったな？茄子わからんようにしてくれて。」 ＊＊「おナス入ってへんよ！」 横山「おまえがわからんようにしてくれとるだけやって。」 ＊＊「嘘や！お兄ちゃんの意地悪！」 横山「…じゃあー…入ってへんとちゃう？」

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18 ―――――― 家に着くと、いつも通りに光子さんが出迎えてくれる。 ＊＊「光子さん！お料理におナス入れてる？！」 横山「おまっ、“ただいま”が先やろ！」 ＊＊「お兄ちゃんうっさい！ねっ、光子さん！」 横山「うっさい言うなや！もぉ～…。」

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19 光子さんはニコニコしながら「入ってませんよ？」って。 ほらねっ！ ＊＊「オナカ空いた！」 光子「夕食の準備できてますよ。」 ＊＊「やった！」 横山「こら！手ぇぐらい洗いや！」 ＊＊「はぁぁぁい！」 お兄ちゃんと並んで手を洗う。 お兄ちゃんにつられて、うがいも。

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20 ＊＊「お兄ちゃん、また背伸びたね？」 横山「そぉーかぁー？…つか、おまえも伸びたやろ？」 ＊＊「そーかなー？あっ、でも、その辺の男子よりは高いかも！」 横山「んー、まぁ今から伸びるヤツもおるやろけどなぁ…。」 ＊＊「私モテるし、モデルとかになろっかな？！」

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21 横山「自分でモテるとか言わんときや、もぉー…。」 ＊＊「えへっ♪心配？」 横山「あほか、もー！メシ食うで！」 無駄に大きなテーブルに、たった２人。 いくらでも料理を広げて食べれるスペースがあるのに、お兄ちゃんの隣にくっつくように座る。 小さい頃から、こう。

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22 ＊＊「いっただきまぁーす！」 横山「いただきます。」 光子「はい、どうぞ。」 ＊＊「いつも言うけどさぁー、あっ、これ、めっちゃおいしい！！…光子さんも一緒に食べればえぇのに！」 光子「有難うございます。でも私はただのお手伝いですから。」 ＊＊「ちぇーっ。」

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23 横山「我が儘言わんときや。光子さんにも家族いてはるんやから。」 ＊＊「そ、そうかっ…！子どもとかいるん？」 光子「えぇ、います。…離婚しましたけど、男の子が１人。」 ＊＊「そーなんだ………。」 じゃ…家で１人で待ってるのかな…。 思わず箸が止まる。

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24 横山「…なんや？食わへんの？」 私とお兄ちゃんが、お母さん盗ったらダメだよね…。 ＊＊「…光子さん、早よ帰ったげて？」 光子「あら…ふふ…大丈夫ですよ？」 ＊＊「でも…！」 横山「早よ食べや？光子さん、後片付けできひんやろ。」 ＊＊「あ…！そうか…！」

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25 急いで食べ出す私を見て、光子さんがまたクスクス笑う。 光子「片付けが終わったら帰らせていただきますね。」 ＊＊「ほんなら、片付け手伝う！」 横山「お仕事取ったらあかんやろ？」 ＊＊「取ってへんもん！お手伝いするだけやんか！花嫁修業！」 横山「花嫁修業て…、」