黄昏町(柊)二十二日目

また犬笛使っちゃう。 初日/一日目→http://togetter.com/li/849906 前日/二十一日目→http://togetter.com/li/861056 翌日・翌々日/二十三・二十四日目→http://togetter.com/li/862749
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@hiiragi_r_t_d

【二十二日目】 【魂8/力14/探索3】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、石肌(火耐性、力+1)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5) 【備考】犬笛(未使用/死亡で消失)を所持 #hollytk

2015-08-16 19:00:28
@hiiragi_r_t_d

「今日も夕焼けが綺麗ですね」 ここは民家の屋根の上。夕陽に照らされながらしばしの休息。 「さて、もう少し外れまで行ってみましょうか」 立ち上がった私は次の屋根へ跳ぼうと踏み込み……よろけてその場に座り込んだ。 01 #hollytk

2015-08-16 19:02:23
@hiiragi_r_t_d

気持ち悪い。頭がクラクラして、手足と尾が言う事を聞かない。 熱を持った頭を抱えながら、私は呟いた。 「ああ、喉が……渇きましたね」 02 #hollytk

2015-08-16 19:04:30
@hiiragi_r_t_d

私の体を襲う異常を分かりやすく一言に纏めると「熱中症」だ。 竜の尾は強力な異形だが、消耗も激しい。 そんな異形を常に酷使しながらの高速移動、さらに直射日光、水分不足。 これはむしろ、今まで熱中症にならなかったのが不思議かもしれない。 03 #hollytk

2015-08-16 19:06:08
@hiiragi_r_t_d

最後に水を飲んだのはいつだろうか? 学校で竜と合間見えてからは良い水場が見つからず、民家の水道も何故か断水していて喉の乾きは増す一方だ。 早く断水地域を抜けるために竜の尾を使って移動していたのだが、それが逆にトドメとなってしまったようだ。 04 #hollytk

2015-08-16 19:08:07
@hiiragi_r_t_d

「熱中症で死んだら、どんな異形が手に入るんでしょうね……」 次に生き返った時に、即身仏のようになっているかも知れない。 「ううむ、ミイラは……嫌だなあ」 自分がシワシワに萎んでしまった姿を思い浮かべ、私はぶるりと体を震わせた。 05 #hollytk

2015-08-16 19:10:15
@hiiragi_r_t_d

とにかく、ここにとどまっていてはジリ貧だ。 私は地面に降り立つと、影伝いによろよろと歩き始めた。 06 #hollytk

2015-08-16 19:12:19
@hiiragi_r_t_d

「水………水……」 水が無いというのは本当に辛い。人間に限らず地球の生き物には水が必要不可欠だ。 他の生物を捕食する必要の無い植物ですら、水は必要なのだ。 どんな異形を持っていても、こればかりはどうしようもない。 07 #hollytk

2015-08-16 19:14:43
@hiiragi_r_t_d

口の中がカラカラに乾き、目が霞む。 歩幅が縮み、膝がガクガクと震える。 永遠とも思われた日光からの逃走の末、私は一つの溜め池にたどり着いた。 08 #hollytk

2015-08-16 19:16:19
@hiiragi_r_t_d

民家や塀がぷつりと途絶え、燦々と降り注ぐ橙色の陽光が水面に反射して眩く煌めく。 私はよろよろとその池に歩み寄ると膝をつき、顔を直接水に突っ込んで澄んだ水をたらふく呑んだ。 09 #hollytk

2015-08-16 19:18:05
@hiiragi_r_t_d

「ふう……生き返る……」 人心地ついた私は顔を洗いながら周囲を確認する。 この池は湧き水のようで、どこからも水が注ぎ込んでいる様子は無い。 池の端から溢れ出した水はもったいない事にそのまま雨水管に流れ込んでいた。 10 #hollytk

2015-08-16 19:20:04
@hiiragi_r_t_d

私は十分に喉を潤し、さらに軽く頭と顔を洗ってさっぱりしたのでここから立ち去ることにした。 このような場所に、人間が来ないはずが無いからだ。 あまり、揉め事は起こしたくない。 11 #hollytk

2015-08-16 19:22:34
@hiiragi_r_t_d

くるりと踵を返し歩き去ろうとしていた私の手に、ポケットの中の空のスキットルが触れる。 ゴミ置き場で何かの役に立つかと思って拾ったまま、忘れていたのだ。 最後に水を汲んでいこう。そう考えて、私はもう一度溜め池に足を向けた。 12 #hollytk

2015-08-16 19:24:32
@hiiragi_r_t_d

「意外と汚いな…」 まず最初に、スキットルの中を綺麗に洗わなくてはならなかった。中に入っていた煙草の吸殻や灰が、プカプカと流されていく。 ついでにお気に入りの犬笛も、綺麗に洗っておこう。 13 #hollytk

2015-08-16 19:26:17
@hiiragi_r_t_d

ゴミ置き場から持ち出した物を全て綺麗に洗い終わった私は、スキットルに綺麗な水を汲むために少し移動を…… がしゃん。 どこかで聞いた音が、足元で鳴った。 14 #hollytk

2015-08-16 19:28:11
@hiiragi_r_t_d

私は足元に絡み付いた鎖を見て、深く反省する。 こんな良い水場に、人間が来ないはずが無い。 そして人間が来る場所なら……バケモノ対策も万全だ。 鎖が強く水中へと引き込まれる。 15 #hollytk

2015-08-16 19:30:12
@hiiragi_r_t_d

私は慌てて掴まる物を探したが、周囲には草むらがポツポツとあるだけで建物や電柱はずっと向こうだ。今から尾を伸ばしていては間に合わない。 「さて、運試しだ」 私はとりあえず尾で周囲の草に掴まって時間を稼ぐと、懐から先程洗った犬笛を取り出した。 16 #hollytk

2015-08-16 19:32:12
@hiiragi_r_t_d

このままでは尾が力尽きるか、草が引きちぎれるか、とにかくそう遠くないうちに私は水底へと引きずり込まれる。 誰か来てくれると助かる、いや、誰か来てもらわないと困る。 私は息を大きく吸い込むと、笛を思いきり吹き鳴らした。 17 #hollytk

2015-08-16 19:34:28
@hiiragi_r_t_d

ビイイィィィイィィィイィィィィィッ! 思ったより大きな音に、近隣の屋根から一斉に鴉が飛び立つ。 ビイィイィィィィイィィィィィィッ! 草の根が切れ、ズルズルと少しずつ、しかし着実に私は水底に引きずり込まれる。 18 #hollytk

2015-08-16 19:36:11
@hiiragi_r_t_d

足、腰、腹、背、肩と私の体が少しずつ水中に沈む。 もはや水面から出ているのは顔と、土を掴む両手と尾だけになっていた。 ビィィィィィィィィッ!ビイイイッ! 短い笛の音を残して、ついに私の頭が水面下へと引きずり込まれる。 19 #hollytk

2015-08-16 19:38:15
@hiiragi_r_t_d

水面下で息苦しさをこらえながら私は考える。 先程の笛の音はどこまで聴こえただろうか? その範囲に同類は何人、人間は何人いただろうか? そのどちらが先に、ここへたどり着くだろうか? 20 #hollytk

2015-08-16 19:40:05
@hiiragi_r_t_d

水中で耳を澄ませていると、複数の足音が聴こえた。 これは…ハズレかもしれない。普通、異形持ちは一人で行動する。複数人でいたとしても、死ねばはぐれてしまうからだ。 だからこの町で複数人の足音を聞いたら、それはきっと人間だ。 21 #hollytk

2015-08-16 19:42:16
@hiiragi_r_t_d

それでも、もしかすると引き揚げてから処刑しようとするかもしれない。 そうなれば、隙をついて逃げ出す事もできる。 そう思った矢先に、私の尾をゴツゴツした、分厚い手が掴む。 それと同時に、両手を柔らかい、小さな手が掴んだ。 22 #hollytk

2015-08-16 19:44:19
@hiiragi_r_t_d

この手の感触、これは明らかに、戦う人間の手ではない。 困惑する私の尾に激痛が走る。分厚い手に突然異常なほどの力が込められ、尾の骨を握り砕いたのだ。 その手の持ち主はその怪力でそのまま私を引っ張りあげ、もう片方の腕を振るって私の足に絡み付いた鎖を断ち切った。 23 #hollytk

2015-08-16 19:46:29
@hiiragi_r_t_d

「おい、大丈夫かあんた」 びしょ濡れでへたり込む私に男が話しかける。 逆光で顔はよく見えないが、よく鍛えられた身体を包む血に汚れたコート、そして右手には夕陽を受けて鈍く光る刀。 どう見ても、堅気の人間ではない。 24 #hollytk

2015-08-16 19:48:19