ストレイトロード:ルート140(14周目)
- Rista_Bakeya
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町外れの空地に屋台が出ていた。水と燻製肉を売る店だという。「この道を行くと長旅になる。非常食を持って行け」隣の町までの道中に難所も怪物の巣もあると知って始めた商いらしい。「作り方教えて」藍は屋台の裏を疑いの目で見ていた。「お嬢さんには難しいよ」「子どもには見せられない方法なの?」
2015-08-07 20:10:28宿の近くの食堂で夕食をとっていると、店の隅から藍の様子を伺う不審な客に気づいた。不動の姿勢はとても食事中に見えない。油断した隙に何かを起こす気なのか。「どうしたの」「…いえ」藍に無用な疑いを抱かせないよう手元に視線を戻した私が見たのは、肉料理の付け合わせの量が倍に増えた皿だった。
2015-08-08 20:17:27紙切れに記された要望を一通り読んだ私は大きな失敗に気づいた。藍が買い物を依頼した理由を誤解していたのだ。次の目的地への移動に備えると聞いたのに、揃える品は道中に出没する怪物の捕獲という強気な目論見を堂々と示している。そして藍の失敗は私が何も見抜けずただ従うと思っていることだろう。
2015-08-09 19:49:21どこかの野球場で選手達が審判に詰め寄る。走者アウトの判定は口論に転がされ二転三転、遂に乱闘へ発展した。「本当のこと言えばいいのに」藍は中継画面を楽しそうに観ている。「あの人多分何も見てない。砂埃で目を潰されてた」二色の集団の板挟みから救出された審判は目を気にしているように見えた。
2015-08-10 19:24:52日没直前の丘には既に人が集まっていた。地元の者だけでなく私達のように他所から来た客も多いようだ。「いた!」夜が互いの顔を隠した頃、藍が突然天頂を指し、周囲を驚かせた。ざわめきはすぐ歓声に変わる。夜空を駆ける無数の瞬きは私も初めて目にする、まさしく流星群と呼ぶに相応しい光景だった。
2015-08-11 20:23:38古書店に入った藍が戻らないので様子を見に行くと、隅で色褪せた本を読んでいた。「なかなか面白い話よ」今やどこでも見られる怪物達の、最初の目撃証言かもしれないという。脇から覗き見た本文は噂話の記録という体裁をとっていた。よく読むと、真剣に主張した誰かが周囲から冷遇された様子が窺えた。
2015-08-13 06:53:09140文字で描く練習、691。冷遇。 書いてはあったものの送信を忘れていたようです…久々にやってしまった…
2015-08-13 06:54:04研究施設には機密が多い。夜間は宿舎の外を出歩くなと再三言われた。しかし藍は私がベッドに潜る音を待ってから起きて、迷わず扉を開けた。「こんな時間にどちらへ?」「ただの散歩」眠れないという呟きも嘘だろう。私に止められた程度は企みが露見した内に入らないのか、藍は堂々と部屋を出て行った。
2015-08-13 19:56:34140文字で描く練習、692。露見。 ゼファール以外にバレてなければ…って書いてしまうだけで怪しく見えるけど、本当のねらいは分からない。
2015-08-13 19:56:40ある人物との会話を携帯端末で録音した藍は、帰りの車中で早速それを再生した。しかし数分後に端末を投げ出した。「全然聞こえない!」子供の笑う声が邪魔だと言う。試しに冒頭を聴いてみたが、私には証言者の言葉だけが明瞭に聞き取れた。「何その顔。笑い事じゃないのよ?」藍の顔がひきつっている。
2015-08-14 19:42:16夜明けの光が海上の砲台を照らすはずが、避難所からは何も見えなかった。怪物の群れを海岸で迎え撃つはずの軍は藍の予想通り、暗い内に相手の奇襲を受けたらしい。「大砲は全部海の中ね」制空権は敵の手中にある。だから風の魔女に助けを求めていたのに。「あの隊長のやり方気に入らないの」藍は笑う。
2015-08-15 20:29:20140文字で描く練習、694。制空権。 今回のお題は7回シリーズ!まずは折本のイラストを手掛けたみど(@middlechronica)さんから。 空飛ぶクリーチャーと人類の戦い、だけじゃない世界の物語。先は長い。
2015-08-15 20:29:27疲労と渇きに苦しみながら山頂に到達した私達が見たのは、乱暴に引き倒された石塔の残骸だった。何を祀っていたのかも分からない。「何か動いてる」藍が折れた柱の陰を指した。大きな卵が転がっている。遠い昔の人々が神に用意した玉座は今、彼らの子孫を山から追い出した怪物の揺りかごになっていた。
2015-08-16 21:16:37140文字で描く練習、695。祀る。 ラ(@raaaaaaaaaaaa14)さんからでした、ありがとうございます。
2015-08-16 21:16:45宿の庭先に村の女性達が集まり針仕事をしていた。不思議な紋様の布や鮮やかな紐から祭りで踊り手が着る装束を作るという。「これ全部手作業?」「当然。本番だけが祭りじゃない、準備の伝統も継いでいかないと」唸る藍の隣で、完成品の飾り紐が風に揺れていた。人が袖を通せばさぞ踊りに映えるだろう。
2015-08-17 19:38:11140文字で描く練習、696。装束。 Marty-Rather(@MarkyRather)さんからいただきました。 何事もまず準備から。裏方なしには始まらない。
2015-08-17 19:38:48藍は質問に答えるより沈黙を選んだ。真夜中に宿の廊下を通る者はなく、秒針の動く音だけが室内に反響する。二人が向き合ったまま時間だけが過ぎて行く。辛抱強く待っていると、秒針が一秒に二拍、踊るようなリズムを刻み始めた。この部屋に時計が二つあることに気づいた時、藍が堪え切れず吹き出した。
2015-08-18 19:18:37140文字で描く練習、697。秒針。 シノサキ(@shino_666)さんからの出題でした。 アナログだから作れる空気ってありますよね。
2015-08-18 19:18:43今頃藍は着飾った姿で宴の中心に立ち、誰かに手を引かれて踊っているのだろう。書類不備を理由に入場を断られた私は、古城に面した池の畔で彼女の帰りを待っていた。「あなたの分まで楽しんでくるからね」零時を報せる鐘の音を聞いた頃、水面の月をさざ波が覆った。私は風上を仰がずにいられなかった。
2015-08-19 19:24:35