宮本和英さん(nicola創刊編集長/月刊シリーズ)が見た出版業界

新潮社を退社しフリーの編集者となった宮本和英さんが実体験をもとに出版業界の現状とその問題点を連続ツイート中。
16
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験14 さらに、完売店に対して、通常は次回から配本数が増やされていくのですが、そこに2割増しまで、というルールを提案しました。僕はあくまでもまず完売店を増やしていこうと考えていたので、やみくもに完売店への供給を増やされてその書店の実売率を落としたくなかったのです。

2011-01-07 03:32:17
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験15 完売店があるといことが、僕の発見した「いい芽」なのですから、その「芽」を大きく育てていくことで、ブレイクスルーしようと考えていました。仮に全体の実売数があまり増えていなくても、完売店の数を増やそうと狙ったのです。それはきっとイメージを変えます!

2011-01-07 03:36:19
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験16 こうしたルールを決めてもそれを実行してくれる営業担当者がいなければ画に描いた餅です。雑誌営業のベテラン達は素人の僕のこのルール提案に乗り気ではありませんでした。「君がそんなことをしなくても、取次だって効率配本を心がけているんだから」と。

2011-01-07 03:40:16
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験17 僕が提案した配本ルールは、出版社からの指定配本という事でどの出版社でも出来るわけではありません。でもS社は営業がその煩雑な作業をやってくれれば可能だったのです。つまり面倒な事をやりたくなかったのでしょう。確かに彼らの言うように雑誌に力があれば売れるはずなのですから。

2011-01-07 03:45:17
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験18 その時僕に幸運が訪れました。週刊誌編集部から若手のU君が雑誌営業に異動してきたのです。編集と営業の人事交流が始まり彼はその第一号。U君は営業プロパーの思想に染まっていなかったので、僕の提案を素直に理にかなっていると賛同してくれ、煩雑な作業を厭わずやってくれたのです。

2011-01-07 03:51:10
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験19 僕がU君にもう一つ頼んだのは、調査店販売データに、調査店のうち実売率100%の書店が〇%あり、実売率99~80%の書店が〇%とい79~50%の書店が〇%という表を付けてもらったのです。

2011-01-07 03:57:07
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験20 そうやって号を重ねていくと、はっきり数字が良くなってきました。完売店が増えていくのです。勿論、編集サイドの努力も色々あったのですが、それはここでは置いておきます。とにかく完売店の占める割合が確実に増えていき、全体の実売率も着実に上がって行きました。

2011-01-07 04:03:59
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験21 つまり雑誌に力がある(「いい芽」がある)ということを、配本ルールを厳格に適用することで目に見える形(数字)にして見せた訳です。雑誌に力があっても、その「いい芽」を見ようともしない連中は、簡単に「雑誌に力がなかったんだ」と決めつけてしまうのです。

2011-01-07 04:10:32
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験21 販売データの数字が良くなってくると、周囲から「nicolaに勢いが出てきた」という声が上がるようになりました。取次の対応も変わってきます。実は実売数はまだそれほど上がっていたわけではないのですが、関係者がnicolaの「いい芽」を見てくれるようになったのです。

2011-01-07 04:14:38
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験22 最初は僕だけが気付いた「いい芽」を、多くの人達が認め始め、売れていきそうな雑誌に、書店も取次も営業も広告部も乗ってくれるようになりました。良い方向へ雑誌が回転し始めたのです。この一連の成功は、U君が煩雑な作業を厭わずにやってくれたことに尽きます。彼に感謝でした。…続く

2011-01-07 04:20:04
宮本和英 @kazmiyamoto

私もよく経験しました。RT @hdymon 新しい出版企画の前に立ちはだかるのは、実は出版社の営業というポジションの人。判断基準は類書の部数という人がすごく多い。よって類書のない本は通してもらえない。この悪循環に私も苦しめられた。

2011-01-08 01:22:33
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験B アントニオ猪木さんが引退した時、僕は「猪木寛至自伝」(文庫版「アントニオ猪木自伝」に改題)を出しました。その初版部数を決める際に、営業は〇千部と言います。僕は〇万部と考えていたので、その開きの大きさに吃驚し、〇千部の理由を聞くと、過去の猪木関連本の実売数を調査してみて…

2011-01-08 01:32:51
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験B 過去の関連本の実売数を調査してみて一番売れていなかった本の数が〇千部だからだという。「営業的に分析してみた結果だ」と言われた。その言葉にカチンときた。それは分析ではない。猪木さんが遂に引退し初めての自伝という要素は考慮されず、誰が書いたか知らない売れなかった本が基準?

2011-01-08 02:20:37
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験B 勿論、今まで経験のない本の部数をどうするか、類書を基準にするのは当然ですが、それで済ませてしまうのではなく、そこからその本の企画のプラス要因、マイナス要因を挙げて検討すべきことだと思います。 類書の実売数の最低数を基準にするのがルールならもう自動的に決めればいい…

2011-01-08 02:25:09
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験B 営業としての判断はないのと同じことになります。ただ自動的に「類書の最低部数を、わが社の初版部数とします」と宣言して終わりでしょう。その時は最終的に私の要望に近い部数で決まりましたが、必死でとってきた企画を凄く貶められた気持ちンになったものです。そういうっことを重ねて…

2011-01-08 02:28:36
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験B そいうことを重ねていくと、だんだんやる気がなくなっていくのが人の常ですね。しかし本の初版部数を決めること一つとっても、仕組みとしていい形になっていない、一か八かになってしまった出版事業の仕組みがダメになっているのだと思います。

2011-01-08 02:31:22
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験23 三日前から話が少し離れてしまいましたので、元に戻します。僕が考えたnicolaの煩雑な配本プランを実行してくれたU君のことを、僕は営業部内で折に触れ褒め称えました。こうした営業の作業が目に見える形で成果に結び付くということを、他の若手営業部員に知ってもらいたかったし…

2011-01-11 01:44:18
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験24 nicola以外の伸び悩んでる雑誌でも大いに応用できる事だったからです。勿論、営業部内でU君の評価はとても高まったのですが、彼のやった事が波及することはありませんでした。そして間もなく彼は編集部門に異動されてしまいました。当時そのことで僕の落胆は大きいものでした。

2011-01-11 01:48:49
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験25 このことは僕の中で、出版社営業に対する根本的な失望になりました。比較的最近の事ですが、ネット書店を担当している若手に、月刊シリーズのネット書店の販売データをまとめてほしいと頼んだことがありましたが、まったく無視。やる気がないのか、僕をなめているのか、全く?です。

2011-01-11 01:53:31
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験26 もう少し昔だったらどやしつけてやるのですが、そんなもんだろうというこちらの諦めで、何も言いませんでした。こう呟いていくと、いかに出版社の営業部門がダメかとひたすら非難になってしまっていますが、彼らが出版点数の増加でオーバーワークになっていて、個々の本をきめ細かく…

2011-01-11 01:56:30
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験27 フォローできなくなっていることも事実です。編集部門と違って勤務時間のほとんどを煩雑な作業に追われています。昔は営業で残業している人など一人もいませんでしたが、今は違います。

2011-01-11 01:58:40
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験28 さて、僕が雑誌部門から出版部へ異動し書籍を手掛けるようになったのは今から16年前ですが、その頃、S社の営業の凄さを感じた事があります。現在の出版事情とは異なる条件下でしたが、出版社営業の本質のような事がよく分かる例だと思います。それを呟きます。

2011-01-11 02:02:38
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験29 書籍部門に移って直面したのは、まず原価計算です。活字の本ならば個々の本でそう大きな違いはありませんが(まあ初版部数次第です)、僕は写真集を仕事の中心にしていたので、造本プラン、用紙選定、カラーかモノクロかの印刷製版など諸々の計算をしなければなりませんでした。 

2011-01-11 02:07:52
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験30 僕の資材・印刷の選び方次第で原価が物凄く変わってしまいます。写真集というのは、ざら紙のような安い紙に一色刷りで本にする事も出来れば、同じ写真を、発色の良い高価な紙に多色刷りで豪華本として本にする事も出来ます。要するに編集者がどう考えるかでどうにでも出来るのです。

2011-01-11 02:13:58
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験31 要するに、造本資材の知識、印刷手法の知識が求められます。そういうことを計算してくれる営業製作部門がありましたが、編集者として自らが基本設計できなければ、やはりまずいよね。そんなわけでせっせと製作部門や装丁部門、印刷所の担当者に教えを乞いながら、必死で勉強したのです。

2011-01-11 02:21:07