元新潮社編集者・宮本和英さんが、出版業界の裏話を語る語る。

元新潮社編集の宮本和英さんの体験談 ①雑誌「nicola」大ヒット秘話 ②アントニオ猪木自伝出版裏話
アントニオ猪木 NICOLA 出版業界 新潮社
417
宮本和英 @kazmiyamoto
担当編集者が情熱を持って本を出す、それを出版営業→取次→書店→アルバイト書店員と受け継いで書店の棚に並ぶ。でもここの流れにおいて、その本を必死で売ろうという情熱が形になって現れない! 沢山の本の流通をこなすだけで手一杯になってしまう。そしてその本はどこかに埋没! そして返品。
宮本和英 @kazmiyamoto
著者から出版社に対して出る不満は、宣伝してくれない! 営業が動いてくれない!店頭に本がない! これらの不満は解消できません。それは仕組みがダメになっているから。個々の出版社のやる気の問題だけではないのです。この本を売りたい、中身が素晴らしいということを伝えられないのです。
宮本和英 @kazmiyamoto
出版流通の仕組みが個々の本の良さを伝えられないから、著者自身がtwitterなどで自らの熱意で直接世間に伝えることが意味を持ちます。その方が信用できる。あるいは一書店員が必死で薦めた本の方が、メディアの書評より信用されるのです。
宮本和英 @kazmiyamoto
今の出版業界は、本作りの熱意が見えなくなってしまう仕組みになってしまったのです。そうしたことを出版社の中にいて切実に感じてきました。
宮本和英 @kazmiyamoto
そして今、出版という行為自体が出版社の独占物ではなくなりました。多少の資金があれば誰でも本作りはできるし刊行もできるのです。編集に多少の専門性はありますが、どの印刷会社でも印刷製本を引き受けますし、販売もネットで出来ます。本作りの情熱をストレートに伝えることもネットで可能です。
宮本和英 @kazmiyamoto
出版界にはもともと「お客様」という言葉がありません。とても珍しい業界です。出版会では「読者」と言います。それは必ずしも本を買う人を意味しません。本は普通の商品とは違う文化的な物だから、商品扱いすることに何か抵抗があったのでしょう。でも購入者=お客様という意識がなくなると……
宮本和英 @kazmiyamoto
どこを向いて本作りをしていくのかいつの間にか分からなくなってしまうのです。お客が誰だか分からないで、商品は作れません。「読者」という言葉は綺麗ですが、大事なことから目をそらすことになってしまったのかもしれません。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験1 もう少し僕の実体験から具体的な例をお話します。nicolaを創刊した時、最初はホントに売れませんでした。宣伝予算もなく誰も知らない雑誌なのですから、いきなり売れるはずもありません。号を重ねて徐々に認知されていくしかない。でも売れてないと凄いプレッシャーがかかります。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験2 何号か出して、書店の販売データを目を皿のようにしてチェックしました。すると数字は悪いのですが、完売店がちょこちょこあるのです。2、3部配本されてそれが全部売れているといったレベルでしたが、僕にとっては唯一の「いい芽」でした。つまりお客さんが確実にいる!という手応えです!
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験3 その頃、営業担当と会議をして、こちらが販売策を色々提案してみるものの、彼らの答えはいつも「そんなことをやっても効果はないですよ」「過去にいろいろやってきたけど、結局雑誌の中身が良ければ売れていくんです」。営業担当者からこの言葉を聞いた事のない編集者はいないでしょう。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験4 彼らの考えが間違っているわけではありません。彼らの言う通りです。でもその視点からしか見ないようになると、「いい芽」を見逃してしまうのです。売れていないnicolaの「いい芽」は、完売店がチラホラあったことです。細かく見ていかないと気付かないほどのちっちゃな「芽」でした。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験5 売れてくれることを最も必死で願っていた創刊編集長の僕だから気付いたことといえます。その時考えたのは、このまま放っておくと……ちょっと疲れたので続きはまた後ほど。、
宮本和英 @kazmiyamoto
j実体験6 続き…その時考えたのは、このまま放っておくと、実売数が伸びなければ取次が配本部数を減らします。当然配本される書店数が減ります。売れていない書店への配本をカットし、完売店や比較的売れている書店へ配本数を増やして、結局完売店がなくなっていくだろうということです。
宮本和英 @kazmiyamoto
j実体験7 つまり唯一の、僕だけが気付いている「いい芽」がなくなってしまう!完売店とはいえ配本数をどんどん増やされたら当然売れ残りが出てきます。そして全体に数字が均されていって、全体の実売率がこの程度では配本数をさらに減らさなければならない、という状況に追い込まれます。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験8 そして廃刊への道をまっしぐら! そうしないために例えば大々的に宣伝する手がありますが、当時のnicolaではそんな予算を組んでもらえる状況ではありませんでした。必死で考えた僕の販売プランは、実はしごくまっとうなものでした。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験9 配本にあたって幾つかのルールを作りました(実行できるかどうかは営業と取次にかかっていますが…)。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験10 まず一書店あたりの配本数を最低でも5部以上にする。これは書店の平台に置いてもらうためです。知名度のない雑誌は1~2部の配本では棚に置かれてしまい、お客さんの目に触れることなくそのまま返品されてしまいます。だから5部以下の配本をやめさせる!
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験11 次に配本される全体の書店数を絶対に減らさないこと、逆に増やして欲しいということ。これは、それまで5部以下の配本店で売れ行きの悪い書店への配本を切ってしまうことを防ぎたかったからです。つまりそれまで5部以下の配本店にm配本数を増やすためのルールです。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験12 1~2部しか配本されていなかった書店も、5部以上配本して平台に並べてもらえば売れるようになるかもしれません。その機会を失いたくなかったからです。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験13 さてそうすると、全体の配本数を増やさなければならないのでは?と思われるでしょうが、大書店などには必要以上の部数が配本されているので、その余計な分を減らして他に回してもらえばいいのです、そうすれば大書店の実売率も上がってきます。全配本数を増やさずに効率を上げるわけです。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験14 さらに、完売店に対して、通常は次回から配本数が増やされていくのですが、そこに2割増しまで、というルールを提案しました。僕はあくまでもまず完売店を増やしていこうと考えていたので、やみくもに完売店への供給を増やされてその書店の実売率を落としたくなかったのです。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験15 完売店があるといことが、僕の発見した「いい芽」なのですから、その「芽」を大きく育てていくことで、ブレイクスルーしようと考えていました。仮に全体の実売数があまり増えていなくても、完売店の数を増やそうと狙ったのです。それはきっとイメージを変えます!
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験16 こうしたルールを決めてもそれを実行してくれる営業担当者がいなければ画に描いた餅です。雑誌営業のベテラン達は素人の僕のこのルール提案に乗り気ではありませんでした。「君がそんなことをしなくても、取次だって効率配本を心がけているんだから」と。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験17 僕が提案した配本ルールは、出版社からの指定配本という事でどの出版社でも出来るわけではありません。でもS社は営業がその煩雑な作業をやってくれれば可能だったのです。つまり面倒な事をやりたくなかったのでしょう。確かに彼らの言うように雑誌に力があれば売れるはずなのですから。
宮本和英 @kazmiyamoto
実体験18 その時僕に幸運が訪れました。週刊誌編集部から若手のU君が雑誌営業に異動してきたのです。編集と営業の人事交流が始まり彼はその第一号。U君は営業プロパーの思想に染まっていなかったので、僕の提案を素直に理にかなっていると賛同してくれ、煩雑な作業を厭わずやってくれたのです。
残りを読む(13)

コメント

M-鈴木 甲15 @kapitan_black 2011年1月8日
成程、毎月主に戦史戦記SF架空戦記ばかり買っている一市井の立場から見ても書店/出版の衰退が気にかかる処、硬直マニュアルだけはあらゆる場面で弊害だと肝に銘じることしきり
月戌🐔🐍🐷㌠ @_moondoggie 2011年1月8日
初版部数のお話は、色んな業界の企画・商品開発と営業のせめぎあいにも通じるものがありますねー
セルフ執事 @SF_yomi 2011年1月8日
つまり、POSシステムを提供できたプログラマーが一番偉いって事ですね。プログラマー万歳。
sana @801 2011年1月8日
当時、北別館でショボショボ絶版100冊CD-ROMのOCR作業バイトしてましたー。社風に合わないとか色々叩かれてましたがその後ぐんぐん部数が伸びたのは、やはり編集者の地道な努力があったからなんですね。
dieinvip @dieinvip 2011年1月8日
出版社の営業って何してるんだろうね。本って商品の性質上、編集者が数撃ちゃ当たる式のやり方だったり、いい本を作れば売れるっていう考え方だったりするのは仕方ないと思うけど。一旦モノが出来上がっちまえばそれをどう売るかは他の商品と変わらない気がする。
滄(saw)@save yourself @saw_dc_ah 2011年1月9日
私も出版業界の最末席にいますが、版元出版社の営業さんの腰の重さはいつも編集部の愚痴の種です……。
てら~き(声:藤田淑子) @terra3_Gn8 2011年1月9日
いつごろからだろう。よろず「開発・製造」でこういう話を聞く気がする。 RT @kazmiyamoto: 私もよく経験しました。RT @hdymon 新しい出版企画の前に立ちはだかるのは、実は出版社の営業というポジションの人。判断基準は類書の部数という人がすごく多い。よって類書のない本は通してもらえない。この悪循環に私も苦しめられた。
伊藤一馬 @itokazuma 2011年1月9日
@kazmiyamoto 成功につながった「地道な努力」の一例として、とても参考になりました。面白い。
小石 克 @nekote 2011年1月9日
出版を新聞に置き換えても通じる話かも
f。 @_ffff 2011年1月9日
nicola創刊号から買ってた自分としてはなかなか感慨深いものがあった。というかこれ読むまでは宣伝とか結構してて最初から売れていたという印象しかもってなかったww>nicola
med @medtmt 2011年1月9日
もっともな話だし、実際に上記の活動が実を結んだのだろうけれど、営業側の意見も聞かないと不公平だと思う。 営業だって、もっと自社からの発売点数が少なければそれぞれの商品に注力できるのかもしれない。 両者の意見が出てくると泥仕合にもなりかねないけれど、それでも一方だけしか存在しないよりはいい。
きりしまにしぐち@提督稼業絶賛放置ちう! @kirishima2813 2011年1月9日
これはあらゆる製造業や流通業にも言える事。マンネリ化した「営業」と保身に走る経営上層部の挟み撃ちに遭い、いつも「煮え湯」を飲まされるのは製造・開発側。会社組織内の「縦割りシステム」の疲弊が今の業界の不振の温床。
yuchimr @y_uchimr 2011年1月10日
後日談を追加しました。
ミィム@糖質制限中 @happylab 2011年1月12日
売れれば増やし、残れば減らす現場の仕組みが実感としてよくわかる。これが出版営業の「当たり前」になればいいのだが…。
撃壌◆ @gekijounouTa 2011年1月14日
他の人も言ってるけど、それぞれの立場から見た話も聞きたいな。営業もリスクを避ける癖がついてる訳だし。編集から見た成功例、失敗例。営業から見た成功例、失敗例。これは編集からみた成功例として大変興味深い。
tu-ta @duruta 2011年1月18日
サティシュ・クマールさんの前々回の来日に関わった時、彼の代表的な著書の『君あり、故に我あり』(講談社学術文庫)が数ヶ月前に断裁処分したと言われて、唖然とした。少なくとも訳者に確認したら、彼の来日予定は確認できたはず
ナカイサヤカ@翻訳と英語と出版 @sayakatake 2013年1月31日
僅かな経験だけど、営業が熱心で良い出版社さんとは気持ちよくお仕事できるんですよね。そして「こんな本は日本にないから出したい」と言う本だと棚の類書もないからなかなか出せないないのですわ。
hatano @_hatano_ 2013年1月31日
ものを作る人間で営業を呪ったことのない人間はいないんじゃないかなぁ。
neologcutter @neologcut_er 2013年1月31日
雑誌だと返本率気にしないといけなくなるからねえ。電子出版に移り変わっていくのも時代の流れであり、無理ないんじゃないかなあ。
ナガテユカ@「ギフト±」15巻発売中 @nagate_yuka 2013年4月14日
うーん、なんだかすごく説得力がある・・・φ(゚Д゚ )フムフム…
牛山豚児 @ushiyamaT2 2013年7月2日
ポンコツ編集者としては、いかに営業を口説き落とすか(納得させるか)、そのために編集が身につけにゃいかん知見を教えてくれてる良まとめでした。周りにいる、営業に愚痴るばかりの脱サラそば屋みたいな連中にも読み聞かせてやります
ゆずこせう@へバーデン結節 @yuzukoseuG 2016年2月13日
「いい芽」を営業任せにせず自分で掘り起こしていって丹念に育てた__これはいろんなところに通じるなあ。
スイカ羊 @suika_sheep 2016年2月13日
これって物書きにはかなりホラーだと思うわ。 ꒰๑;°ヮ°꒱
めなぞ~る♪ @menazor 2016年2月13日
いい話だ・・・。興味深い。まあ営業の方からすれば、毎月何千と新刊が出る中で、一つ一つの本の可能性の精査などしていられない、という話かもしれないが・・・
anq☆ @anqmb 2016年2月15日
よその業界のことではあるが、特定の成功事例を見ていると、なんでこんなに販売現場が硬直しているのかと思わされる。しかし、このような硬直した対応を取らないと大変だ、と内部では感じさせられる空気と少数の悪例が、営業部の側にもあるのだろうな。
酔仙亭響人 @suisenteikyohji 2016年2月24日
これは雑誌の話だが書籍の成功事例はやっぱり話題性(例『花火』)によるものなのだろうか?営業上の策がある?
原子力☢️塩太郎 @pmx003_the_o 2016年2月24日
元編集者として非常に「あるある」なんだけども、営業が頑張って成功する事例(これだって新人営業のU君が頑張った話でも一応ある)は当然ある。ただ、そもそも編集者の数だけ営業がいるわけじゃないので、全体として下降傾向にある部数の中で売上を維持するために、単純に出版点数が増えてしまっていて、営業が「一冊一冊を大事に売る」ことが出来なくなってるんだよね。最初からビッグタイトルだってわかってるものを除いて。編集者はある程度作業を外注できるけど、営業はそうはなかなかいかないから大変だと思うよ。
kaind @kaind_ 2016年3月1日
愚者は経験で語る…か。
ログインして広告を非表示にする
ログインして広告を非表示にする