八月最後の日、大阪でゾンビが出た。

ヤク物さんの深夜の連続ツイート日記風ゾンビもの、個人的なまとめ。ご本人に許可は取ってあります。タイトルに悩んで最初の一行にしてみた。  ☆続編 なんやかやあったが、まだ生きている。 http://togetter.com/li/873574 ゾンビなんて大っ嫌いだ http://togetter.com/li/879954 イモムシの夢を見ている http://togetter.com/li/951477  ここに人はいない。 http://togetter.com/li/990031 続きを読む
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@nezikure

50.最短で二日、彼の気配を感じながら部屋に居られるだろうか 顔見知りで、ほぼ毎朝挨拶して、年始の挨拶なんかも交わした相手だ 耐えられるだろうか 彼を『始末』できるだろうか?

2015-08-31 01:35:32
@nezikure

51.無理だ 彼の気配に耐えるのも、彼の横で生活するのも、彼を『始末』するのも 全部全部無理だ。 だが、彼に『隣室で死なれる』のも困る。 衛生が致命的に悪化する可能性がある。

2015-08-31 01:36:55
@nezikure

52.物音を立てないように、遮音性に優れたイヤホン(遮音性が高すぎて部屋の外ではとても付けられない、一万円以上したのに)を耳に押し込んで 自分の排泄物の匂いに耐えながら、思考を放棄して眠りについた。 睡眠は必要だ、何をするにせ、行動するなら…夜だろう。 素振りの疲労は救いだった。

2015-08-31 01:39:49
@nezikure

53.完全に日が沈んでから目が覚めた。 ココしばらくの健全な昼型生活は見る影もない。 薄暗い室内の中で、馴染んだ眼が蛍光グリーンの非常灯(有事の際の為に部屋中に複数設置)の淡い光を捉えて 現在時刻と部屋の状態を把握する。 午後23時、隣室は静かだ。

2015-08-31 01:44:13
@nezikure

54.着替えて、靴を履く。 木刀と悩んだが、手には実家から持ってきた鉈を提げている。

2015-08-31 01:46:44
@nezikure

55.腕は鉛の様に重かった。 音を立てないように留意した結果、着替えて靴を履くだけで30分以上かかった。 玄関のドアスコープ越しに外を見ると、電気と設備が生きているのか 18時以降自動で灯る電灯はついていて、六階の廊下は昼間の様に照らされていた。

2015-08-31 01:50:02
@nezikure

56.鍵を開けていく。 後五個

2015-08-31 01:51:08
@nezikure

57.呼吸は静かで、適度に落ち着いている。 後四個

2015-08-31 01:51:57
@nezikure

58.道場にいた時に近いだろうか、これから『体を動かす』準備は出来ている 後三個

2015-08-31 01:52:39
@nezikure

59.玄関の扉に貼り付けた鏡に自分の顔が映る。 涙と鼻水と、寝ている間に吐いたのか、吐瀉物に塗れて酷い顔をしている。 後二個

2015-08-31 01:54:05
@nezikure

60.『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』 後一個

2015-08-31 01:54:43
@nezikure

61.鍵は全て開けた

2015-08-31 01:55:52
@nezikure

62.当然ながら六階は静まり返っていた。 フロアの東西にある窓は締め切られていて、防火扉も施錠されている。 防火扉を除けば唯一の出入口であるエレベーターは、隣人が操作したのか十階に登っている。 これなら、一回からアレらが登ってくることは無いだろう…恐らく。

2015-08-31 01:58:51
@nezikure

63.部屋の中にあった空のペットボトルを二本、玄関の隙間から壁に向けて投げつける。 隣人が音に反応するなら、無視する事は無いだろう。 しばしマヌケな音がして、六階の廊下に静寂が戻る。 隣人の気配は無い。

2015-08-31 02:00:56
@nezikure

64.今度はガラスのコップを投げる、砕ける音 隣人の気配は無い。

2015-08-31 02:02:23
@nezikure

65.「✕✕さん、いますか」別人のような声が出た。 「✕✕さん、いますか」聴いたことのない様な声だ。 「✕✕さん、いますか!」自分の口から出ている声とは思えない。 「✕✕!!✕✕!!いるのか!!」電話越しに聴いた母の様な錆びた声だった。

2015-08-31 02:04:20
@nezikure

66.六階の廊下に踏み出した。 空気が粘質で、ぬるく感じられ 鉈の柄が指に張り付く感覚だけが冷たい。 フルタングから露出した鋼材はドライアイスの様だ。

2015-08-31 02:07:10
@nezikure

67.隣室の扉は開け放たれていた

2015-08-31 02:08:52
@nezikure

68.隣室に侵入る。 靴は脱がない。 間取りは同じだった。

2015-08-31 02:10:21
@nezikure

69.電気はつけっぱなしだった 何もかもが壊されて、そう多くない家具は全て床に倒れている。 食器は砕け散り、雑誌は引き裂かれて散らばって 砕けた薄型テレビにはレコーダーが突き刺さっていた。

2015-08-31 02:12:50
@nezikure

70.全開になった窓の両端で、らしくないくらい可愛らしいデザインのカーテンが揺れていた。

2015-08-31 02:15:55
@nezikure

71.『旅行が趣味だ』と言っていた気がする 実際、長期の休みの後にはお土産を貰ったりした。

2015-08-31 02:16:47
@nezikure

72.真夜中に情けない悲鳴が聞こえて慌てて様子を見に来たら 人生初の自炊を試みて、冷蔵していた生肉が 冷蔵庫の中で緑色になっていて腰を抜かしている姿を見て 『ダメな奴だなぁ』と笑ってしまった記憶がある。

2015-08-31 02:18:15
@nezikure

73.『旅行の費用を貯めるのに、食費を減らそうと思って…』と 『成れないことをするもんじゃないですね』と こちらより歳上なのに、恐縮して、バツが悪そうにしていた 人の良さそうな笑顔を覚えている。

2015-08-31 02:19:44
@nezikure

74.窓に近づくのは怖くなかった。

2015-08-31 02:21:21