[改稿版]『当たって砕けて不連年』＃１０～１３

天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』＃１１－２

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昼休みが終わる前に俺は職員室に早引けの旨を告げ帰宅した。地口の家に二日目のお泊りだ。 それにしても何もないな。 暇だから活字でも覚えようと部屋の隅に置かれた新聞を拝借し、紙をめくる。 さて諸君がどの程度瞬間記憶能力に理解があるかは知らないが、いくつか能力の素晴らしさを教えよう。①

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まず、この能力があれば十秒足らずで広辞苑を読破できる。人からオススメされた小説もその場で読み、薦めてくれた人と話を弾ませることが叶う。暇があれば英和辞書を暗記して人間英和辞書にでもなってみようかな。 とまあ、暗記系の考査の問題にはまず困らないが、論述しなさいと言われると超困る。②

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記述の問題が出るたびに、どこかで見たような文章の寄せ集めみたいになってしまい、毎度カンニングを疑われてしまうのだ。 俺は既存の他人の手垢塗れの文章しか書き上げることができない。こういう点においては、少々厄介かもしれない。 そんな感じで、１部目の新聞はさっさと読み終えてしまった。③

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内閣の支持率が発足以降最低だとか、猫の最年長の年齢を更新しただとか、セリーグの勝ち投手の人のインタビューだとか、日本ダービーの話だとか、ある意味でためになるような内容がそこそこ入っていた。 まあ、正直内閣の支持率なんかはどうでもいいのだが。 どうせまた今年も変わるんだろうし？④

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来年は誰だろうか。 それにしても大人なんだから、せめて１年以上は持たせてくれよ。 こんな性格に難ありな俺だって１年以上続く関係の友達がいて、今も仲良しが続いている──── 「･･･あっ！」 と、俺は一つ、すっかり失念していたあることを思い出した。 泡が弾けるように発想した。⑤

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あの教室には、情報の授業で皆がコンピューター室に移動しているとき俺たちのクラスの教室には、風見鶏の他に。 保健室を追い出された、事故で腕を怪我した俺の一年来の友人、バナ…丁字路三咲が、HRで連絡されていた教室移動とは知らずに教室を訪れた筈だと。 そして。 地口寸志は、恐らく…。⑥

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*** ⑦

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普段通りに学校の一日の課程が済まされていれば、恐らく放課後とされる時間帯。 誰もいなくなった教室に、教室の中で最もみんなの電波が集中する教卓の上に地口は腰掛けていた。 行儀悪く教卓の天板に骨ばった尻を乗せ一番前の席の机に足を乗せて暇そうに指をぐるぐる回しながら何かを待っていた。⑧

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地口は目を閉じ意識を尖らせた。全身から送られる無数の電波から必要なものを取捨選択する作業だ。 これを行うことで地口は雑多な皮膚の感覚を、脳力として生かすことができる。皮膚の感覚が鋭敏というだけでは脳力が優秀ということにはならない。 敏感肌を有用にする力が、地口のキャパシティだ。⑨

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それにしても横様くんは地口を買いかぶりすぎだ。こんな脳力存在しなくても良いように世界が成立してる以上、地口は脳力がある時点で社会不適合者だ。 それに他者への読心は自分への毒心。だいぶ信頼してくれてるようだが脳力しか地口と横様くんを繋げるものはない。 絆なんて大それたものもない。⑩

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地口が横様くんと仲良く喋れているのは、事故があるからで。 このしょうもない脳力があるからなんだ。だから黒幕をやっつけて全てを解決したらボクと横様くんの関係はきっと、そこで終了だ。お疲れ様、という言葉と同時に、終わる。 そして打ち上げとかすることもなく、元通りの日常へと回帰する。⑪

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それが全てを終えるということなんだろう。 それはわかってる。 そんなことは、わかっている。 わかっているはずなのにボクはまだ横様くんに言わなきゃいけないことをほとんど言えていない。これが事故の核心に迫る事実だという確信があるのに。 こんな勝手な感傷を挟めば、嫌われてしまうのに。⑫

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今までたくさん言いどもって、そのたび横様くんは待ってくれたけど───さっさと話せと内心苛々していた筈なのに。 「ダメだな」 地口の低い声が教室に響いた。怨、怨、と耳鳴りのように壁に反響しながら、地口の耳へと入り込む。骨伝導というらしい。これで地口は小さな物音すら聞き漏らさない。⑬

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ふと一階の階段から上履きの底のビニル質が床をこすり付ける音がした。 どうやら、下駄箱に仕込んだ地口のラブレターは読んでくれたみたいだね。 ちなみにこの教室は三階。一階からここまで上がるのに結構時間かかんだろうなー、ってまた指をぐるぐるする。 と地口の左耳に男の声が聞こえてきた。⑭

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「本当に地口寸志からなのか？地口の名を騙った別人じゃないのか？」 「ないな、俺にはわかる。これは地口の字だ。私は彼の字をこの目で見たことはないが確かにこの手紙から地口がシャーペンで書いたという歴史を感じ取れるぞ」 「さすが。その異能…絶倫の観測者（レディコーダー）と言ったか？」⑮

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……………んー。 一人で会話してるんですけどう…。 地口超怖くなってきた…帰りたい…。 「しかし地口か。ヤツがどうして俺に手紙を書いてくるのだ？もしやずっと俺と友達になりたかったとかか？可愛らしいな」 なりたかねーよこのガマグチヨタカ。 できればお近づきにもなりたくなかったし。⑯

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「フフしかし文を下駄箱に入れるとは、緊張しているのかもな？エスコートせねば。この絶倫の観測者が！」 死ね。 と、ついに一人で会話していた痛々しい男が教室に現れた。 「よ。地口寸志。私に──この艶福を懸けた愚者（アンハッピーアグネス）に如何様な相談かな？」 「通り名変わってる！」⑰

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「地口くん？安心してくれ。私は君の味方だ。君と私は出会った瞬間から絆に繋がれた朋友なのだからな！」 コイツに馴れ馴れしく友達面されたのにたまらなく苛立つ。 そう思うと、今まで地口が横様くんに対して行ってきた馴れ馴れしい態度が相手にこんな感情を抱かせていたのかに気づき、ますます。⑱

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「地口に」 地口は横様くんには言おうとも考えなかったセリフを、撒き散らした。 「友達なんか、必要ないです」 その台詞を受け先ほどまでべらべらと口走っていた中二病のコイツは、呆気にとられたように、ぽかんと口を開けた。 丁度いい感じに喋りやすい空気になったので、地口は勝手に喋った。⑲

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「地口がてめーを呼び出したのはね、どういうつもりなのかお尋ねしたいからなんだよ ─────────カザミドリ、ヒイデ」 名前に漢字をどのように当てるのかさえ興味の無いコイツの名前を、地口は初めて呼び。 真っ黒い両目で睨めつけた。 ⑳ pic.twitter.com/fAwYNW7Oyp

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『当たって砕けて不連年』＃１２－１

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普段通りに学校の一日の課程が済まされていれば放課後とされる時間帯。持ち帰った昼飯をたいらげ、精神的疲労が回復しつつあるのを感じた。 これなら午後サボらなくてよかったと思ったが、やはり背筋をずっと真っ直ぐしてると草臥れる。 ひとまず俺は地口の家の電話を借りて丁字路に電話をかけた。①

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しかし、おかけになった電話番号は現在使われておりませんなど瞬間記憶能力でアドレス帳がいらない俺にとって聞き捨てならない言葉が帰ってきた。 あん？ 俺が打ち間違える訳ないだろ？ そこで気づいた。 俺が携帯を塩水で失ったのと同様に、アイツもあの海で携帯を壊したのだと。 恥ずかしい。②

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仕方なくもう二度とかけないと思ってた彼の家電にかけた。 母親が出たらどうしよう。俺はこう見えて結構人見知りしてしまうタイプなので、１コール、２コールの間に彼に用があることを伝える旨を含んだ丁寧語の羅列を頭の中で回転させた。 するとプッという発信に応じる音が受話器から聞こえた。③