[改稿版]『当たって砕けて不連年』＃１０～１３

天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「なあ風見鶏、一つ聞きたいんだが」 「なんだ！」 急にうるさい。 うるさい。 俺はできるだけシリアスな内容だと伝わるように、抑えた声のトーンで尋ねた。 「お前、黄金水とやらで広範囲の情報を得ようとしてたんだって？地口から聞いた」 「…………………」 何故か風見鶏は、黙りこんだ。⑨

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顔を見ると冷や汗を大量にかいて土気色だった。 「風見鶏？」 「す…すまん、あれだろう。机の上に水をこぼした件だろう？」 「いや、それは気にしてないっていうか」 「本当にすまん！実は家に招かれたときそのことを叱責されるのかとも考えていたのだ、謝罪せずにごまかそうとしていたのだ！」⑩

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「落ち着けよ、気にしてないって」 「いやいや！貴様が許したとしても私が許しがたいのだ！これから仲間になるのに何たる無礼！ああ愚か！愚か！」 「だから気にしてねえっつってんだろ！！！！」 屋外で思わず大きな声を出してしまった。 風見鶏は俺の声のでかさにビビったような顔をしていた。⑪

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「許しとか仲間とかどうでもいいよ、俺の話聞けや！！」 「す、すまん…聞こう！零したのを責める訳ではないのだな！？」 「そうだよ！！その水だよお前！」 ちょっとしたキレ芸みたいになったまま俺は尋ねた。 「お前何調べてたんだ？広範囲を探る必要があったってことは、何か探してるのか？」⑫

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風見鶏は俺の真意を探るように探偵のように目を細める。 「それを聞いて、どうする？」 どうする…って。 俺はその意図してなかった質問に頭がまっさらになった。これまで地口と二人で事故を追うことも仲良しこよしで来れたから、仲間同士何もかも情報を分け合うものだという認識でもあったのか。⑬

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「別にどうもしない…ただ」 俺は最初に風見鶏が俺の机に水をかけたと聞いた時を思い出す。 「今の俺達にはちょっとの不自然な行動も看過できないもんでね」 最初に風見鶏が黒幕が昨夜奇襲してきたタイミングで、俺の机に水をかけたと聞き黒幕を疑った。 しかし別に風見鶏は黒幕じゃなかった。⑭

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だとしても、風見鶏の正体がわかったかと言えばそんなことはない。 何故水をかけてしまうことになったのか。 何故水から広範囲の情報を得ようとしたのか。 その情報をどうするのか。 黒幕じゃないからといって、黒幕に通じていない可能性がないわけじゃない。 「ほう」 風見鶏は不敵に笑った。⑮

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「なるほど、どうやら納得のいく説明しなければ、貴様達の仲間にはなれないらしい。ひどいやつだな、横様。私にはこれが一番効くって、わかっておるのだろう」 いいだろう、と風見鶏はため息をついた。そして届かないものを切なく眺めるように、憧れるように、一人の人間の名前を口にした。 ⑯

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「……海千、急愛。」 pic.twitter.com/fP8IVN1WlX

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「…かいせん、せかい？」 「ああ、私は海千急愛という、一人の黒髪のロリをずっと探している。」 「女の子って言えや。その海千さん、お前の何だ、妹？」 「いや…私に家族はおらん。海千急愛は、他ならぬ私の誤った選択によって、永遠に失われてしまった尊き磔刑の聖女(マイフェアレディ)だ」⑰

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風見鶏は目を閉じる。 「海千急愛の名は貴様に教えるつもりはなかったが少し状況が変わったのだ。先程晩餐の折貴様達が言っていた寸志の両親が殺された日。ちょうどその前日から彼女は行方不明になった」 「は？」 「だから貴様らと共に事故を追っていけば私はいずれ彼女に辿り着くかもしれない」⑱

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話がややこしくなってきた。 えーと、つまり？ 風見鶏には海千急愛という好きな女の子(推測)がいて、その子が地口の両親が殺された日の一日前(マジか)に行方不明になっている。その行方不明のきっかけを作ったのが風見鶏自身(？)で謝るため(だろうな)に探しているってことか？ うーん…。⑲

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「これは私の問題だ、貴様らは気にせず目的の行動をしてくれればよい」 頭をうんうんさせる俺を見て風見鶏は笑いながら言った。 おお、風見鶏。なかなか大人じゃないか。 「それより貴様は、寸志のことを気にかけてやれ」 「…地口の？」 そういえばさっきも言ってたな…関係を悩んでるとか。⑳

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俺が思い当たらないでいるともう駅近くまで着いてしまった。日も大分没し紫色の影が緋色の空を飲んでいた。と、鈍すぎる俺に風見鶏は定期を取り出しながら諭すように言った。 「寸志は貴様と念願叶って友達になったものの、いささかちょうど良い距離感というものがわかってないのかも知れん」(21)

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風見鶏は紫陽に髪を輝かせながら振り返りった。 「幸せにしてやれよ」 「結婚式前のお父さんかてめーは」 「ハハハ！それではさらばだ！」 と、ダイナミックにジャンプして改札を飛び越えてしまい、急いで戻り定期をタッチした風見鶏はたった今電車が発車した音の響くホームへと消えた。(22)

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さりげなく家族がいないと言った風見鶏は、一人の少女を見つけるという謎の目的のために奔走している。 地口は両親の仇を見つけるため…なのだろうか？両親が死んだことは気にしてないと言っていたが。 風見鶏秀。 地口寸志。 あいつらのことを理解するには、まだ少し時間がかかりそう…(23)

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…だったはずなのにな。 (24)