[改稿版]『当たって砕けて不連年』#10~13

前回投稿分より挿絵追加・大幅改稿版のオリジナル小説『当たって砕けて不連年』まとめその③
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天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺は指紋がつかないようにハンカチで柄を少し持って、卓袱台の上に置いた。 「このナイフから、読み取れる限りのことを報告してくれ。それでお前が使える脳力を保有しているのか否か、俺が判断する。優秀なら使いたいからな」 地口の方を横目でちら、と見る。 非常に不満げに唇をとがらせていた。③

2015-08-08 20:23:02
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「地口は俺にモノに記憶が宿るとは思えない、と言っていた。だからもしもモノの記憶を読み取れるお前が仲間になってくれたら地口の情報の欠けた部分を埋めることができるかもしれない」 風見鶏への説得を聞いて、地口は得心いったようで気付いたように目を丸め真摯な眼差しで風見鶏の返答を待った。④

2015-08-08 20:24:51
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺は正直このナイフから読み取れるものなど無いと思う。 これを使い地口を狙ったのは風見鶏自身の肉体だ。指紋じゃ黒幕を特定できない。 どうする風見鶏秀。 風見鶏はにや、と頬の端を吊り上げた。 「いいだろう。よくわからんが、貴様らは力が欲しいらしいな」 やはり不遜に風見鶏は頷いた。⑤

2015-08-08 20:26:34
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「私の素晴らしさのあまり、脱毛するなよ?」 「脱帽だろ」 風見鶏はナイフを軸に、両手を左右対照に置いた。そして目にゴミでも入ったように眉に皺を寄せ、初めて目を開ける産子のように、痙攣するまぶたを開ききった。 「───────我は絶倫の観測者(レディコーダー)・・・・・・・・」⑥

2015-08-08 20:28:16
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

と、何かの詠唱めいた意味不明な文言を呟きはじめた。 そして風見鶏は、さっさとそうすればよかったのに普通にナイフを手にとりじーっと凝視する。 「右利きだ」 風見鶏は先程までのテンションとは裏腹に憑き物が落ちたように、いやまた違うクールな何かが憑いたのか、低い声で情報を与えてきた。⑦

2015-08-08 20:30:11
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「握り方は男のようだが、力の入れ方は一般的に見て女子中学生くらいの発展途上のものだ。握力は恐らく11キロもないだろう。それとナイフの扱いには慣れていないが、投球に腕があるようだな。ナイフはしっかり風を切っているが、殺傷能力のあるような切れ方はしていないな。刃が一切欠けておらん。⑧

2015-08-08 20:32:13
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

それにナイフに私の唾液がついている。あまり上品なヤツではないな。長い目で見てこの日本でナイフの刃を自ら舐めるなんて行動を女子中学生が取るとは思えん。悲惨な環境で育ったにしても…犯人は心神喪失かもしれん。私の舌が切れている理由が私は納得できたが───と、メモはしなくて大丈夫か?」⑨

2015-08-08 20:33:04
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

驚いた。 風見鶏の脳力のスペックの高さ。男の握り方だの女子中学生だの…犯人のモンタージュをそのまま作れるほどの緻密さ。あまりに大胆な情報の数々。 舐めてた。 というより風見鶏が痛いキャラだから脳力が埋没してると気付くことはこの一件で絡まない限り無かったと俺は心の底から感動した。⑩

2015-08-08 20:35:19
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

そんな俺の様子を感じ取った地口は、風見鶏の脳力を認めたようで、メモの心配をしてきた風見鶏に対して、説明した。 「大丈夫だよ。横様くんは一度聞いたことは一字一句紛うことなく記憶できる、瞬間記憶能力っていう、君や地口なんかより汎用性に優れた脳力を持ってるんです?」 「なにい!」⑪

2015-08-08 20:36:53
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

風見鶏はどうやら、自分のことをオンリーワンの脳力保有者だとでも思い込んでいたらしく、眦が裂けんばかりに見開いた。 「ああ、ちなみに地口も読心の脳力を持ってるんだ。だからお前が考えていることなんて軽くお見通しだぜ」 「な…なんだと…読心!?」 風見鶏はショックのあまり床に這った。⑫

2015-08-08 20:38:21
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「馬鹿な…そっちのがかっこいいじゃないか…!」 と地口の家の畳を悔しそうにガンガン殴り始めた。畳がだめになるんだけど、と地口は的外れな文句を言って風見鶏のナイフを爪で弾いた。 しかし、俺は先ほどの風見鶏の情報提供が引っかかっていた。 握り方は男のようだが力の入れ方は女子中学生?⑬

2015-08-08 20:40:18
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

投球の腕はあるがナイフを扱い慣れてない? ナイフを舐める女子中学生? 黒幕は……女子中学生なのか? それだと動機がわからない。ただの陰謀論なら無関係な人を狙う理由にならない。見境無く運転手に事故の重みを植えているなら邪魔な俺を狙う説明になるが地口の両親を殺した理由にはならない。⑭

2015-08-08 20:42:23
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺がモヤモヤしていると風見鶏はワクワクしながら俺の方を見てきた。 「横様よ、私はテストに合格できたのか?不合格か?」 「ああ、そうだった」 「忘れら…!?」 「ごめん、正直テストに意味はないんだ。ただお前を利用しようと思っただけだが…予想以上に使える脳力で、お前が欲しくなった」⑮

2015-08-08 20:44:06
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺は風見鶏に右手を差し出した。 「風見鶏、俺達ある事故を追ってるんだ。それでお前の力を貸してほしいんだが、お願いできるか?」 風見鶏はしばらく言葉の意味をわかりかねているようで顔をしかめたが俺の目を見て「なるほど」と呟いた。そして風見鶏は右手を重ね、俺の右手をしっかりと握った。⑯

2015-08-08 20:46:13
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「よかろう。貴様らの力になってやる!礼はいらんぞ」 「ああ」 お互い右手を離すと、風見鶏は気持ち悪くにまにまし始めた。どうやら風見鶏も、こんな感じで友達と呼べる人と手を握ったことはなかったのだろう。そして、しばらく自分の右手を見ていた風見鶏は、俺の方を向いて、歯を見せて笑った。⑰

2015-08-08 20:47:27
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「なあ、横様よ」 「なんだよ、風見鶏よ」 「さっきの貴様の台詞だが、すごく中二臭いぞ。改めろ」 「やっぱてめー帰れ!」 俺は生まれてからのこの17年間で、初めて人の家の卓袱台をひっくり返した。⑱

2015-08-08 20:50:05
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』#13-3

2015-08-08 20:50:45
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

風見鶏は着替えを持ってなかったのでこれまでの事故のことを話しながら晩飯を共にし、そろそろ帰ると言い出した。 しかし、風見鶏も支配されたのでまた黒幕に狙われるかもしれない不安が渦巻いた。また支配されて家族の首を絞めたり、風見鶏はナイフを持ち歩いてるので事件を起さないか心配だった。①

2015-08-08 20:51:27
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

近所に一切の気配りなく「さらばだ!」と叫んだ風見鶏に、近くまで送るよ、と俺は呼び止めた。 その反応が意外だったのか、風見鶏はびっくりした。 「おお、何だ横様?なにか中二臭いことでも企んでるのではあるまいな」 人が心配してやってるというのに。 しかもお前に中二とか言われたくねえ。②

2015-08-08 20:53:12
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

後ろの訝しげな顔の地口には筒抜けであろう内心の愚痴をぐっとこらえた。 「ほら、これから仲間になるわけだろ?もうちょっと親睦深めたいじゃん。それにお前地口の家来るの初めてだから帰り方わかんねえだろ?」 だから送るって、と言い終えたところで、風見鶏が目を見開いているのに気がついた。③

2015-08-08 20:56:08
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

というか、しまった、みたいな顔をしていた。 しかしそれも一瞬ですぐに不敵に微笑む。 「フン、どうやらまだ私の脳力への理解が足りんようだな横様?」 「ん?」 「私は絶倫の傍観者。一度私が訪れた経歴のある道を辿るだけですぐ家につくだろう!全く間抜けた男よ!」 「間抜けはどっちだよ」④

2015-08-08 20:57:10
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

と、後ろで嫌そうな顔をした地口がピシャッと告げる。 「地口の家は学校から近いんだよ、カザミドリのやり方で歩いてたら学校につくんじゃない?」 「はっ」 「ねえ横様くん。やっぱお見送りしてあげた方がいいよ。ボクは洗い物して待ってるから」 「あ、ありがとな地口。じゃあ行こうか風見鶏」⑤

2015-08-08 20:59:04
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺は風見鶏の肩を掴んで外に引っ張る。風見鶏は見事に論破されたショックをまだ引きずっている様子で、項垂れていた。 おい行くぞと続けて肩を叩いてようやく「ああ…」と重く返した。確かこいつは電車通学だから、駅まで送ることにした。 さっきの風見鶏が一瞬見せた反応が、ひっかかったまま。⑥

2015-08-08 21:01:21
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

地口の家から歩くとすぐ駅まで続く大きな道が現れる。このまま道をまっすぐ行けば帰れるが俺はついていった。 歩いている間あれだけ騒がしかった風見鶏は静かで、普段の中二はキャラなのかもしれなかった。 俺は風見鶏がまた黒幕に狙われる心配があって見送ると言ったが、実はもう一つ理由がある。⑧

2015-08-08 21:03:21
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