黄昏町(柊)四十日目

柊 @hiiragi_r_t_d

【四十日目】 【魂15/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

[ハンドアウト]気が付くと、君は知らない民家の畳の上で寝転がっている。黄ばんだレースカーテンが揺れている他に、動くものはない。《開始地点[町]shindanmaker.com/541547》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541552 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「む………」 私は畳の上で目を覚ました。古めかしい電灯が吊り下がった、どこにでもある民家の一室。 心地良い風が吹き抜け、窓に吊られた透明な風鈴と黄ばんだレースカーテンを揺らす。 01 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

傍らにはカスカが、私の手を握り締めたまますやすやと寝息を立てている。 どうやってもその手が離れない。その上風が心地良いので、私ももう一眠りする事にしよう。 また風が吹き抜け、風鈴を鳴らす。 澄んだ音色と穏やかな寝息を聴きながら、私は再び眠りについた。 02 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「……おい！起きろ！ちょっと！」 「む………」 私は目を開く。 「お、起きた起きた。とりあえず…」 眼前、数センチの距離に真っ赤に染まったカスカの顔がある。 「どけ！」 私は、カスカに覆いかぶさるように眠っていたらしい。 03 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「アイズミって結構寝相悪いんだな。いつもこうなのか？」 「いえ、普段はここまでではないですよ」 「ここまでではって……なんか気になるな」 顔を赤くしながら頬を掻くカスカは、ぼろぼろの診察服に身を包んでいる。 「そういえば、カスカは未だにその格好でしたね」 04 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

不織布のような材質で作られた診察服はぼろぼろに擦り切れ、あちこちが破れている。 「ああ、そうなんだよな。……じろじろ見んなよ。恥ずかしいじゃねえか」 破れた診察服がはだけ、胸元があらわになっている。 「カスカに恥じらいがあったとは、驚きですね」 「うっせ」 05 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「ここならちょうどいい服が見つかるかもしれませんよ」 「おっ、いいね！」 「できるだけ動きやすい服にしましょう」 私はタンスから紺色のジャージを引っ張り出す。 「だっせー」 「ぬう……」 「アイズミには任せてらんねー。アタシに選ばせろ！」 06 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

カスカは腕まくりすると、そこらじゅうのタンスやクローゼットをひっくり返し始めた。 伸びる腕を器用に使って、片っ端から広げては畳んでいく。 その目が輝いているように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。 「おっ、このジーパン悪くねえな！」 07 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「ジーパンは動きにくいので避けた方が」「うるせえ！どんな格好しようがアタシの勝手だろうが！」 カスカはクローゼットから男物のTシャツと革ジャンを引っ張り出す。 「コイツなかなかいい趣味してんな！」 私には理解できない世界だ。 08 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

仕方が無いのでもう一眠りしようかと横になった私の顔面に、革ジャンとジーパンが叩きつけられる。 「アイズミ、これ袖と裾全部切っといてくれねえか？その間、アタシは隣の部屋を見てくるからさ」 カスカはそう言い残すと、隣の子供部屋と思しき部屋に入っていった。 09 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「…私には、棘も爪もないのですが」 勢いよく閉められたフスマの前で、私は途方に暮れる。 鬼の力を使えば裂けるだろうが、服自体が使い物にならなくなるだろう。 「……刃物を探しますか。」 私は台所に行くことにした。 10 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

台所の床には包丁やナイフが散乱し、乾いた血痕があちこちに残っている。 「これは酷いですね」 ひょいひょいと皿の破片を避けながら、私は一番汚れの少ない出刃包丁を拾い上げた。 カスカの体格を考えながら、ざっくりと裾を切っていく。 11 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「全部切るのでしたね」 袖はともかく裾を全て切ったら着る意味がないような気もするが、言われた通りに切っておいてやろう。 静かな部屋にざくざくと刃を入れる音が響く。 しばらく立つと、無事に袖無しの革ジャンと裾無しのジーパン…ホットパンツ？が出来上がっていた。 12 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

完成した物を届けに、私はカスカのいる子供部屋に向かう。 「カスカ、裾と袖は切っておきましたよ」 フスマを開けると、そこには当然ながらカスカがいた。 しかし予想外な事が一つ。 カスカは一糸纏わぬまま、下着に足を通そうとした姿で、こちらを見て固まっていた。 13 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

私はカスカの裸体から目を逸らし、服を部屋の隅に置く。 「あー……とりあえず服、ここに置いておきます」 「お、おう……ありがとな…」 カスカが怒ることもなく、四畳半の子供部屋に微妙な空気が漂う。 私はいそいそと退室し、台所を物色する事にした。 14 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

無事な缶詰を並べながら、私は先程の事について考える。 普段ならば、カスカが怒って私が笑い飛ばして終わる程度の事だ………普段ならば。 そう、いつの間にかカスカがいる事が普通になってしまっている。 15 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

それはよくない。風鈴屋ではああ言ったが、私はそもそもカスカを同行させようとは思っていないのだ。 私自身、一人の方が色々と都合が良いという事もある。しかしそれ以上に、カスカから感じる気持ち……私への好意が、居心地が悪いのだ。 16 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

私は今の所、誰とも付き合うつもりはない。……などというとまるでアスリートのようで「仕事が恋人」とでも言いそうな雰囲気だが。 実際は単に、ユキの事が忘れられないだけだ。 「未練がましいですよね…」 「何がだ？」 いつの間にか、カスカが隣に座っていた。 17 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「私が、ですよ」 「ふーん。そっか。それよりさ、どう？似合ってるかな？」 カスカは立ち上がると、くるりとその場で一回転する。 物騒な英文の書かれたTシャツの上に、髑髏の刺繍があしらわれた赤い革ジャン。下はホットパンツ。 「……ロックって感じですね」 18 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「あんましいい返事じゃねえな。こういう趣味の奴、知り合いにはいなかったのか？」 「いなかったですね」 「じゃあ教えてやるよ。こういう時は「カッコいい」って言えばいいんだぜ」 「なるほど。覚えておきましょう」 19 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「あとさ……その、さっきの事……」 「カスカ、缶詰食べますか？」 「貰うけど。その前に」 カスカはずい、と私に詰め寄る。 「アタシの…は、裸見ただろ。……どうだった？」 私は溜息をつく。……これだから、居心地が悪いのだ。 20 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「……どうもしません。私はユキの事が好きだ、と前に話しましたよね？」 「分かってるよ。でも気になるだろ？」 「客観的な評価を述べましょうか？」 「いらねえよ、そういうの。アタシはアイズミの意見が聞きたい」 私とカスカはしばらく、静かに睨み合う。 21 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

やはり、と言うべきか。先に折れたのは私だった。 缶詰をカスカの前に積み上げながら答える。 「……もう少し肉を付けた方がいいと思いますよ。あばらが浮いていては色気もへったくれもありませんから」 「じゃ、遠慮なく」 22 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「「いただきます」」 それから私とカスカは缶詰を食べた。随分久しぶりの食事は、五臓六腑に染み渡る。 カスカも気合を入れて食べていた。……そういえばカスカと一緒に食事を取るのは、初めてかもしれない。 「意外と行儀はいいのですね」 「そうか？普通だろ」 23 #hollytk