キャサンリン・パーク『女性の秘密:ジェンダー、生殖、そして解剖の起源』

Adam Takahasiさんによるキャサリン・パークの著作の紹介をまとめました。
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Adam Takahashi @adamtakahashi

キャサリン・パーク(Katharine Park)は『女性の秘密:ジェンダー、生殖、そして解剖の起源』(2006)で、主に「解剖学」の歴史に定位しつつ、中世から初期近代まで女性の身体をめぐる認識が、その時に参照される物語や社会制度と相互に絡み合いながら大きく変容したことを描いた。

2010-03-08 01:11:23
Adam Takahashi @adamtakahashi

中世においては聖女の解剖(holy anatomies)が行われた。女性の身体から物体が発見されると、それがマリアによるキリストの受胎と類比するものとして考えられたからだ。この時代の女性の身体の特権性は「女性の秘密」と言われる書物のジャンルを生み出したことからも例証される。

2010-03-08 01:13:35
Adam Takahashi @adamtakahashi

だが、神学や自然哲学の領分だった女性の生殖の問題が、医学が制度化されるに従って、男性の医学者の扱う問題になったと著者は論じる。特にルネサンス期になると家族の中で母親としての役割を果たす女性の身体(=子宮)というものが注目されて検死解剖が行われることになった。

2010-03-08 01:15:26
Adam Takahashi @adamtakahashi

当時子供を産むことはとても危険だったので出産により亡くなってしまう母親が多くいたが、あるフィレンツェの有力な一族で妻が亡くなった時に、夫が医者に依頼して解剖を行ったといった事例がある。その妻の「子宮は腐敗した血で満たされていて、それが死を招いた」という検死の結果が出た。

2010-03-08 01:17:11
Adam Takahashi @adamtakahashi

こうして明らかになるのは、中世において見られたような女性の神的な身体というものから、焦点は家族の中で「生殖・再生産」を果たす母親としての女性の身体に移り、またそこで子宮を解剖して「子宮が腐敗した血で満たされていたので、死を招いた」と診断する医者の役割が問題となったということ。

2010-03-08 01:19:45
Adam Takahashi @adamtakahashi

ガレノスの解剖学的著作が流通し医者が解剖学について活発な議論を展開するようになった。大事なことは十六世紀でも中世のような神的な聖女のような人たちが現れたが、そういった女性に生じていること自体は変わらなくても、彼女たちの身体がどのように考えられ、扱われるかが変わってきたということ。

2010-03-08 01:21:20
Adam Takahashi @adamtakahashi

『驚異と自然の秩序』の著者だから、この過程を「世俗化された」などと口走るような安易なことはしない。後期中世において、聖女の身体やその体内の物体はすぐに聖遺物となったが、十六世紀になると解剖結果を「証拠」として医者や自然哲学者たちが様々な説明を繰り広げるようになったと切り込む。

2010-03-08 01:22:39
Adam Takahashi @adamtakahashi

これを Park は、"the shift from wonder-working objects to anatomical evidence" という形で綺麗に定式化し、この移行によって解剖が女性の神的身体と特権的に結びつくような事態が終わりを迎えたのではないかと論じる。

2010-03-08 01:23:25
Adam Takahashi @adamtakahashi

『驚異と自然の秩序』で語られていたものが、「解剖(的なるもの)」と、それが現実的に行使される対象、及びそれを現実的に行使する主体との関係の変容という特殊な事例に定位して語られている。理論構成的にはフーコーの『臨床医学の誕生』『監獄の誕生』にむしろ近いと言える。

2010-03-08 01:32:12
Adam Takahashi @adamtakahashi

奇特にもフォローしてくださっている学部生の方で、社会構築主義(の呪縛)についてコメントされている方がいらっしゃったので、ジェンダー研究&科学史&(広義の)歴史にかかわる近年の名著の一つといえる K. Park (Harvard)の『女性の秘密』についての簡単な内容紹介でした。

2010-03-08 01:40:01