『スエズ鎮守府VSラブホテル鎮守府合同演習～変態の夏、パンツの夏～』その４

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

翌朝。感動的な展開から最大級の落ち度が記録された事件から一夜明けたラブホテルに、目覚ましの音が響く。 「うぇ、気持ち悪い……」 何故か一晩中回転し続けていたらしいベッドを止めた俺は、隣で眠りこける望月のパンツを朝食代わりに頂きつつ立ち上がった。 #スエズ鎮守府

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シャワールームに入れば、何故かローションと中央がくぼんだ椅子、ビニールマットが。それを視界に入れないようにシャワーを済ませると、まだ寝ている望月を起こさないように着替える。 どうやら、クリーニングに出しておいた軍装を壁にかけてくれたらしい。全裸の浜風あたりだろう。 #スエズ鎮守府

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「……なんだこりゃ」 ポケットの中の違和感に手を突っ込んでみれば、中から掴みだされたのは大量のコンドーム。 それを見なかったことにしようとベッドの下に投げ込んでから、俺は代わりに望月のカバンから2枚ほどパンツを拝借してポケットにねじ込んだ。 #スエズ鎮守府

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実のところ、昨晩は敗北のショックでダメぬいに成り果てた不知火を慰めたり何だりしていたせいで、あまり眠れていないんだが……今日も今日とて、長い一日になりそうだ。 #スエズ鎮守府

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「――！」 「――！ ――！」 と、客室から廊下に出たところで何か声が聞こえた。しかも聞き覚えがある。 強い語調から、どうやら口論しているらしいが……声は1人だ。電話でもしているんだろうか。 #スエズ鎮守府

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やることもないので、俺はふらふらと声の方向へ進んでいく。 客室が続く廊下を抜け、曲がり角を幾つか経た先にあった扉を開くと、そこにいたのは3つの人影。 #スエズ鎮守府

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「誠士郎さんは凄いんです！ 優しいし格好いいし、あなたの提督よりずっと素敵ですっ！」 「聞き捨てなりませんっ！ 恭介さんはもっとずっと素敵ですっ！ 格好いい上に可愛いんですっ！」 言い合ってるのは二人の少女。共に緑青色の着物に身を包み、激しい舌戦を繰り広げている。 #スエズ鎮守府

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その間に立たされて困惑顔なのは、このラブホテルの主にして同業者の氷室提督だ。 どうやら娯楽室らしい部屋に入ると、彼は「おはよう、ございます……」と俺の口元を見るなり口ごもりつつ挨拶してきた。 なんだ、俺はパンツを食べてるだけだぞ。 #スエズ鎮守府

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「何の騒ぎだ」 望月の薫りが鼻から抜ける。多幸感の中で俺が問うと、彼は「俺にもよく分からないんですが」と頬を掻く。 「同じ名前の艦娘ということで、自分達の境遇を話していたところ……俺と神代さん、どちらが上かで揉めてるらしく」 「なんとまぁ」 朝からご苦労なことで。 #スエズ鎮守府

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「誠士郎さんは陸奥さんの心臓を移植されていて、その辺の人なんかよりよっぽど強いんですっ！ 硬い壁だって壊せるんですっ！」 「恭介さんは海軍の特殊部隊出身で、わたしの命を救ってくれた恩人ですっ！ この前も心臓潰されましたけど生き返りましたっ！ 実家だって名門ですっ」 #スエズ鎮守府

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「へぇ、艦娘の心臓を移植とはまた大変な目に」 「そちらこそ、心臓なんか潰されたら即死でしょうに」 「この仕事やってると色々あるもんなぁ」 「まったくです。体が保たない」 ははは、と2人で平和に笑い合う俺達の向こうで、龍鳳同士の戦いはさらにヒートアップしていく。 #スエズ鎮守府

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「誠士郎さんはいつも皆と夜伽を」 「恭介さんは部下の装備を自費で」 「誠士郎さんは他所の鎮守府と演習した時も」 「恭介さんはいつだってわたし達を心配してくれて」 「誠士郎さんは」 「恭介さんは」 「「わたしのことが大好きなんですっ！」」 #スエズ鎮守府

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2人の視線が同時にこちらを向く。 「「何故こっちを見る」」 こちらもハモる。 「そもそも、こんなラブホテルに暮らしてるなんて不純ですっ！ 不潔ですっ！ えっちですっ！」 「わたしの提督はあなたのみたいに、ところかまわず秘書艦のパンツを脱がせたりしませんっ！」 #スエズ鎮守府

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「鎮守府については、ぐうの音も出ない」 「いつの間にか矛先がこっちに」 再開される激闘の余波で、胃が痛くなる提督2人。 「わたしのほうが練度も上ですっ！」 「わたしだって、いつかちゃんとした指輪もらいますっ！」 「この前も誠士郎さんと一緒に寝ましたっ！」 「うぐ」 #スエズ鎮守府

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おっと、ここでウチの龍鳳が言いよどむ。その瞬間を見逃さず、ラブホの龍鳳の目が妖しくキラリと光った。 「……もしかして」 「な、何ですかその顔は」 「あなた、殿方に愛してもらったことがないでしょう」 その瞬間、ウチの龍鳳の動きが止まった。 「な、な……」 #スエズ鎮守府

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「処女」 ボソッと、ラブホの龍鳳が言う。その一言で、スエズの龍鳳の頬を汗が伝う。 「処女」 「うぐぅ」 「処ｊ」 「うぐぅうううううううっ！」 「おい、何でそこで俺を睨むんだ」 「恭介さんのせいですっ！」 待て待て、その理屈はおかしいだろう。なんでそうなる。 #スエズ鎮守府

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「恭介さんがいつまで経ってもわたしを押し倒してくれないから、こんなっ、ふぇ、ふぇええええええ」 終いには泣きだした処女の方の龍鳳が、俺の胸に飛び込んできた。それを何とか抱きとめると、頭を撫でてやりながら、俺はどうしたもんかと思案する。 #スエズ鎮守府

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「ほら、他の人達もいるんだからあんまり泣くな」 「だってっ、だってぇっ！ こんなの屈辱ですっ、あんまりですぅっ」 せっかくクリーニング済みというのに、軍装にずびずびやられると困るんだけど……というか、まさかコイツが自分の処女をここまでコンプレックスにしているとは。 #スエズ鎮守府

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「龍花、お前なぁ」 「素直に負けを認めない、向こうの龍鳳が悪いんです」 すました顔でそんな事を言うラブホの龍鳳――龍花の隣で、氷室提督が心底申し訳無さそうに頭を下げる。 本当に苦労しそうな人だ。ボケしかいない空間に、単身放り込まれたツッコミの苦労は察して余りある。 #スエズ鎮守府

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「な、龍鳳」 「ぅううう……」 「氷室さんもああ言っているし、そろそろ泣き止んでくれよ」 「……ぇ」 「ん？」 「名前……名前で呼んでくれたら、泣き止みます……」 「お前ねぇ」 呆れた声でそう言うも、龍鳳は俺の背中に回した手に力を入れるだけだ。 #スエズ鎮守府

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どうやら本気で折れないつもりらしい。 仕方ない。一見控えめに見える龍鳳だが、こうなっては頑固である。 「……放してくれ、サナ」 「はいっ」 ぱっと飛び退き、笑顔でこちらを見上げる龍鳳――サナ。 実はそもそも、そんなに泣いてもいなかったようだ。 #スエズ鎮守府

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相変わらず、彼女がこういう手を使ってくるのは……少し苦手なところであり、 「女の武器を無駄撃ちするなよな」 「緊急事態でしたから。でも、もう大丈夫。恭介さん、ありがとうございます」 そう言って幸せそうに笑うところは、少し魅力的なところである。 #スエズ鎮守府

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しかし、どうやら一言で元気は出たらしい。 普段の調子を取り戻したサナは、「わたし達もぎゅってしましょっ！」と氷室提督に飛びついていた龍花に人差し指を突き付ける。 「決着は今夜ですっ。女々しい口喧嘩なんかじゃなくて、空母らしく、正々堂々と！」 #スエズ鎮守府

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切り出したのはこちらの陣営。 スエズ鎮守府所属、軽空母龍鳳。サナという名前で呼ばれていた彼女は、普段の温和な表情とは違う好戦的な目つきで、同じ顔の相手に向かい合う。 手袋は投げられた。対し、相手もまた同じ表情、同じ声音で返す。 #スエズ鎮守府

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「分かりました。いいでしょう、お相手致します。誠士郎さんの目の前で挑まれた勝負、逃げるわけには参りませんっ！」 ラブホ鎮守府所属、軽空母龍鳳。龍花という名を持つ彼女は、そう言って傍らの恋人に微笑みかけ―― #スエズ鎮守府