「が」とか「や」とか
(7.2a) この帽子や陶子さんやかぶっとった帽子ねん。 ○? (7.2b) この帽子や陶子さんやかぶっとってん。 ×? (7.2c) この帽子や陶子さんやかぶっとった。 ×?
2015-09-23 14:12:42(7.2d) この帽子をちゃ陶子さんやかぶっとった帽子ねん。× (7.2e) この帽子をちゃ陶子さんやかぶっとってん。 ○? (7.2f) この帽子をちゃ陶子さんやかぶっとった。 ○?
2015-09-23 14:12:55私は能登弁がよくわからないので「?」が多くなっています。[2] で書いたような理由で「陶子さん」につく「や」の使い方が適切かどうかも気になりますが、ここで問題にしたいのは「この帽子」につく助詞の方です。
2015-09-23 14:13:07どちらにしても「や」に関しては、標準語の「が」からの類推で、係助詞としては目的格にも使えるが、格助詞としては目的格には使えない、ととりあえず考えておくことにします。
2015-09-23 14:13:21ただし、(7.2f)のような動詞文が、独立した文としてありうるのかどうかはわかりません。一般的な終助詞をつけて自然な話しことばになるなら「○」、古典語の係り結び文のように、文末に特定の形が必要となるなら「×」ということになると思います。
2015-09-23 14:14:33「や」「をちゃ」のような焦点化機能をもつ助詞を使った場合、文末を「ねん」「げん」「てん」など、特定の形で締めないといけない、というルールがもしかするとあるかもしれませんが、よくわかりません。
2015-09-23 14:14:46このうち「が」は準体助詞なので、係助詞「や」とは係り結びの関係を作りうると想定されます。それによって、文は擬似的な名詞文になると考えられます。
2015-09-23 14:15:30たとえば、前記(7.2b)の文の原形として、次の(7.3a)のような形を仮想して、これが文として成り立つものとすると、これは(7.3b)のように、前後の成分を入れ替えても成り立つものとなります。
2015-09-23 14:15:44このような前後の成分の可換性は、名詞文特有のものと考えられます。(7.3b)は名詞文ですが、それと等価な(7.3a)も、擬似的な名詞文と見ることができます。
2015-09-23 14:16:35最後に「っちゃ」と「をちゃ」を比較します。よくわからないところもありますが、基本的に「っちゃ」は名詞文、「をちゃ」は動詞文を作るものと推定されます。
2015-09-23 14:17:01(7.4a) この帽子っちゃ陶子さんやかぶっとった帽子ねん。○? (7.4b) この帽子をちゃ陶子さんやかぶっとった帽子ねん。× (7.4c) この帽子っちゃ陶子さんやかぶっとってん。 ? (7.4d) この帽子をちゃ陶子さんやかぶっとってん。 ○?
2015-09-23 14:17:15いずれにしても、[6] で書いたように、「ちゃ」は、「っちゃ」と「をちゃ」という二つの形をもち、それぞれ別の語のような側面を見せる、ということができます。
2015-09-23 14:17:33それでいながら、[5] で書いたように、どちらの「ちゃ」も、「や」とは対照的もしくは相補的な働きをする点で共通する、ということもできます。
2015-09-23 14:17:44以上で「ちゃ」に関連する考察を終わりますが、助詞のなかでも「や」の性格が比較的わかりやすいのに対し、「ちゃ」の性格はわかりにくい、と私には思えました。
2015-09-23 14:17:57もちろん、ここで書いたことは、限られたデータに基づく憶測にすぎないので、能登弁を本格的に調査したら、もっと違った仮説が得られるものと思います。ここでは、いま私に考えられることを考えただけです。
2015-09-23 14:19:25