ヨハネ受難曲(BWV 245)のコラールと自由詩を読む
鎮痛な曲調ではじまるのだが、「悲しみの夜は終わりの時を迎える」と宣言し、途中から勝利のファンファーレへと切り替わる。これはもちろん、受難の後には死に打ち勝って復活することの表現である。
2015-09-20 22:31:05Mein teurer Heiland, laß dich fragen
親愛なる救い主よ、問わせてください
いまやあなたは十字架に打ち付けられて
自ら「果たされた」とおっしゃいました
私は死から自由になったのでしょうか
あなたの痛みと死によって
天の国を継ぐことができるのでしょうか
すべての世の救いはもうここにあるのでしょうか
あなたは苦しみによってもう何も言うことができません
けれども首を垂れて
語らずに「そうだ」と語ってくださいました
イエスよ、あなたは死に
そしていまや永遠に生きています
最後の死の苦しみのうちより
私はどこにも去りません
罪を贖ってくれたあなたのところ以外には
おお愛する主よ
あなたが得たものをどうか私に与えてください
他には何も望みません
この「果たされた」と「復活」の二つの間の時について問いかけるバスアリアとコラール。キリスト教を信じる者は"死んだのち来たるべき世が来たら復活する"と信じるわけだが、今生きている世界は、イエスによる救済が「果たされた」後であって、まだ「時が来ていない」、この問いかけの時間にある。
2015-09-20 22:39:18「私はもはや死から解き放たれたのか?」という、信仰についての確信を得るための問いかけである。イエスが項垂れて息を引き取ったのを、肯いたと受け取る詩である。
2015-09-20 22:44:54バスアリアの後ろで歌われるコラールは、ペトロの悔恨のシーン、母をヨハネに委ねるシーンに続いて同じものより。「あなたが得たもの(=蘇りと永遠の命)を与えてください、他には何も望みません」と歌う。
2015-09-20 22:45:32バスアリアとコラールの後、ヨハネ伝にはない地震と聖人の復活の奇跡についてのマタイ伝のテキストが挿入され、この出来事をテーマに歌うテノールアリオーゾ、イエスの死を悼むソプラノアリアが続く。
2015-09-20 22:51:50Mein Herz, in dem die ganze Welt
私の心よ、世界のすべてが
イエスの受難にみな同じように苦しんでいる
太陽は悲しみの布に覆われ
幕は裂け、岩は崩れ
地は震え、墓は割れる
みな創造主が冷たくなってしまったのを見たからだ
私の心よ、おまえはそこで何をするのか
Zerfließe, mein Herze, in Fluten der Zähren
流れ去りなさい、私の心よ、涙の潮の中へと
至高の者を称えるために
世と天にこの苦しみを騙りなさい
「あなたのイエスが亡くなりました」
このセクションは予言成就を強調するヨハネ伝の展開の中に劇的な展開を付加するため、おそらくバッハ自身が追加したと言われている。地震の衝撃的な音の描写から、悲しみを歌うアリオーゾとアリアが続くわけだが、第一部でペトロが「激しく泣いた」テキストと同様、ここに"涙"が欲しかったのだろう。
2015-09-20 23:00:03十字架降架と兵士が脇を槍で刺す話が入り、それを見た者(=ヨハネ)は「真実である」と証する。なお、「主は彼の骨をことごとく守り、その一つさえ砕かれることはない」は詩篇34篇20節、「彼らは自分たちが突き刺したものを見るだろう」はゼカリヤ書12章10節より。
2015-09-20 23:09:04O hilf, Christe, Gottes Sohn
救いたまえ、キリスト、神の子よ
あなたの苦い受難によって
私たちがいつもあなたに従い
すべての悪行を避けますように
あなたの死とその起こりを
実り豊かに考えられるように
いかに貧しく、弱くても
あなたに感謝の捧げものを贈ることができますように
ここまできたら第二部冒頭のコラールが帰ってきて、訊問から受難までの一区切りが完結する。あとは、埋葬の記事がきて、「安らかに」の合唱と「審判の日に私を目覚めさせてください、願いを聞き入れたまえ」のコラールがきて、終局となる。
2015-09-20 23:14:48Ruht wohl, ihr heiligen Gebeine
安らかに眠ってください、聖なる身体よ
私はもうあなたを悼んで泣くことはありません
安らかに眠り、私にも安息を与えてください
この墓はあなたのものに定められ
どんな苦しみに囲まれることはなく
私に天の扉を開き
地獄への道をふさいでくれるのです
Ach Herr, laß dein lieb Engelein
ああ主よ、どうかあなたの愛する天使たちに命じ
最後の時には私の魂を
アブラハムのひざの上に運ばせてください
この体をその寝室で
安らかに、苦しみも痛みもなく
審判の日まで休ませてください
そして来たるべき日に私を死から目覚めさせてください
私の目があなたを見ますように
この上ない喜びの内に、おお神の子よ
私の救い主よ、恵みの王座よ
主イエス・キリストよ、私の願いを聞き入れてください
私は永遠にあなたを称えます