稲川淳二のつぶやき怪談　2015年9月21日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「それからあの爆発した車があるでしょ、 あれなんかいつまで経ってもガソリンの匂いがしますよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

私は廃車を眺めながら、 （そんな匂いがするのかぁ） なんて思ってましたね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「たまに警察から回ってくる車があってね、 ほら、ペシャンコの事故なんかあるじゃないですか」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ご主人は指さしながら、 「あの事故車なんかね、雨が降ると腐った血の匂いがしますよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「大量の血がシートに染み込んでいたり、 床に染み込んじゃうんでしょうね」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「それが雨に濡れるもんだから腐ったイヤ～な匂いが、 プーンと匂ってくるんですよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

なんて言うんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

私もさすがに、 （そういう車はイヤだな） って思って、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「そりゃたまんないですねぇ」 と言いながら聞いていたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そしたらそのご主人がしんみりと語り出すんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「去年ねぇ、ウチの作業員がね、ここでもってイヤな物を見てんですよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「何を？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「作業を終えて、ここの事務所に戻って来た時ですがね」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「凄いんですよ。脂汗流しながら、皮膚なんか鳥肌ボチボチになって、 大の大人が震えてるんですよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「よっぽど怖かったんでしょうね」 私は廃車を見つめながら、ご主人の話を聞きましたよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その作業員の人。 その日は解体の仕事で忙しかったんだそうです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それであれこれやっているうちに、 時間も遅くなって暗くなってきたんですね。 おまけに雨も降り出したんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

急に暗くなったし、ある程度やってキリつけたし、 （今日は終わりにしよう） と思って事務所に帰りかけたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

敷地には何重にも、山のように壊れた車が山積みされているんです。 その間を歩いて事務所に帰って行ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

雨がザーッと降り出している。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それがいろんな車の鉄板に当たって、 チョッピン、バタタバターッ、ピチョ、ピチョ、 と様々音がして気持ち悪いんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

するとその音に混じって、シャッカ、シャッカと音がする。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（あれ？） と音の方を見ながら、 「あれって、ワイパーの音じゃねえかぁ？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

もう一度聞き耳を立てて聞くと、 シャッカ、シャッカ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

やはりワイパーの音が聞こえる。