オリジナル徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』第三章#2

坊主VSメカ坊主
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碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

オリジナル徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』第三章#2

2015-10-03 19:37:02
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

荒野を奇妙なキャラバンが往く。先頭を走るのは、リフトアップ改造された黒塗りの4WDセダン。その後部には、神輿めいた装飾が施されている。 そして……運転席に座る男達の頭は殆どが皆禿げ上がっていた。後列の車の外部スピーカーからは、特殊周波数へ変調されたジャミング般若心経が流れる。1

2015-10-03 19:45:52
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

彼らの大半は僧侶とその家族だ。『不運にも』徳カリプスを逃れた僧侶達に安穏は無かった。彼らの多くは不良僧侶であったが、全人類の解脱を目指す得度兵器にとって魅力的存在であることに違いはなかった。そして……彼らの敵は機械兵器だけではなかった。2

2015-10-03 19:52:17
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

徳ジェネレータの動力として、彼らは生存した人類からも狙われた。人々の安寧を齎す聖職者ではなく、バッテリーや化石燃料の代わりとして、廃仏毀釈めいた無慈悲な僧侶狩りが始まったのである。それは、徳エネルギーへの恐怖心が捌け口を求めた結果の人身御供であったのかもしれない。3

2015-10-03 19:56:37
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

無論、その身を人々に捧げた徳の高い達も多く居た。だが、全ての者がブッダになれる訳ではない。そして、そのような僧侶達は自らに振りかかる危難から逃れるために武装化し、流浪の旅を始めた。それがこのキャラバン即ち移動寺院であり、彼らはいわば機械化僧兵なのだ。4

2015-10-03 19:59:34
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「ナンムミョーホーレンゲーキョーナムミョー…」特殊変換された機械念仏によって得度兵器の目を欺きながら、武装移動キャラバン寺院『クーロン』は進む。付き従う車両の数は数十。それはまさにゲルマンめいた大移動であり、末法の具現の光景であった。5

2015-10-03 20:04:56
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

梵鐘トラックの大鐘を、小坊主が繰返しつき鳴らす。武装僧侶達は一斉に空を見上げた。サイバネティック琵琶法師レーダーが敵を捉えたのだ。車列は散会し、迎撃の準備を開始する。やがて地平の彼方から、三つの影が近づく様が肉眼でも確認できるようになる。6

2015-10-04 20:50:30
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「こいつは司令塔だ!!取り逃がすな!!」「仏敵滅ぶべし!!」車間通信が激増し、琵琶法師レーダーと連動されたマニガトリングが空へ向かって唸りを上げる。曳光弾の光の線に出迎えられながら、尚も三羽の怪鳥は接近する。7

2015-10-04 20:58:17
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「なぜ見つかった」「般若心経ジャマーが効いてないのか!!」移動寺院『クーロン』の武装はこの類の得度兵器との交戦を想定していない。三羽のうちの一羽が、悠々と車列の前方へホバリングする。『突っ込め!!』僧侶部隊のリーダーが即座に号令を下す。山伏が法螺貝を吹き鳴らす。8

2015-10-04 21:04:57
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「行動パターンが変化しているのか……」僧兵部隊の指揮官は、装甲本堂車で歯噛みする。複数経文による複合ジャマーは、人の徳を隠徳と成す欺瞞効果がある筈だというのに。「徳ジェネレータを死守しろ!!」 だが、その命令は既に無意味なものと成っていた。9

2015-10-04 21:12:29
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

広がった車列の左右後方に、残り二体のタイプ・ガルーダが飛来する。三羽は車列を囲む巨大な正三角形を作り……自らの徳エネルギーフィールドを解放したのだ。 ガンジー達が遭遇した七体の得度兵器。それを遥かに上回る出力の徳エネルギーの壁が、僅か3体の得度兵器によって展開される。10

2015-10-04 21:16:29
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

曼陀羅フォーメーション。高密度徳エネルギーの檻。その閉鎖空間の内側は、正に巨大な徳ジェネレータとなる。 「クソッ!!エンジンが!!」ドライバー僧侶がダッシュボードを叩く。まるでエンジンの回転数が燃料漏れでも起こったかのように下がっていく。11

2015-10-04 21:22:55
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

それは、キャラバン全ての車……内燃機関、外燃機関、バッテリーの一切の区別なく……に対して起こったことだった。車列はやがて足を止め。 そして、僧侶達の肉体から光が立ち上り、周囲に蓮の花が萌え出でる。12

2015-10-04 21:28:18
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

これはごく小規模な徳カリプスの再現。それ即ち、高功徳環境下における『連鎖』解脱現象である。 徳の比較的高い僧侶達の足元から生えた蓮の花は地面へと広がり……フィールドの中を覆わんばかりに生い茂る。そうして、巨大な光の柱が天へと立ち上る。13

2015-10-04 21:34:02
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「ここで、終わりなの……」キャラバンの中で最も破戒尼僧じみていた女は、天を見上げる。既に周囲に人間の姿はなく、大地には蓮の花が咲き誇る。……そして、女は目を見張る。自らが解脱する寸前。曇天を突き抜け、徳の光の柱が立ち上ったその先に。巨大な指のようなものを、確かに目にしたのだ。14

2015-10-04 21:39:46
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

最後の一人がこの世から解き放たれると、一面の蓮の花は光に溶けて消える。後に残されたのは、朽ち果てた無人の車列。三体の得度兵器は羽ばたき、その上空を幾度か旋回した後……再び、何処かへと飛び去った。15

2015-10-04 21:43:50