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風見鶏を駅まで送り、ヤツの目的が一人の女の子だということがわかった日没の道を戻る。結局見送った目的のひとつが満たされただけで、家でまた黒幕に襲われるかもしれないという懸念は解決されないままだった。風見鶏マジめんどいからナイフ捨ててくんねえかな。それならここまで 心配しねえのに。①
2015-08-15 09:48:45俺が頭をぐるぐる悩ませながら地口家に戻ると、「おかえり」と地口が黒瞳をこちらに向けて立っていた。前に比べ読心してくる頻度に見境がなくなっているというか遠慮なく俺に対しては地口は脳力を使ってくるようになった。今のことも恐らく読心されたのだろう。地口は目が合うとにっこりと微笑んだ。②
2015-08-15 09:50:59「大丈夫だよ。黒幕さんね、一度支配した肉体は二度と支配できないから」 「え?ああ…そうなのか?」 「うん」 と、それだけそっけなく返して地口は俺を置いて部屋に戻っていった。これ以上こちらから詮索する暇を与えないような態度で、真っ直ぐ押し入れに向かう。布団を敷きに行ったのだろう。③
2015-08-15 09:52:42そうだ。本日得た大きな収穫が地口の頭の中にあるのだ。黒幕の心を地口は読心した。 姿の見えない黒幕の、その一端を。④ pic.twitter.com/VaHRr9qxgd
2015-08-15 09:55:24先ほどの黒幕の支配が一度きりという情報は恐らく夕方の学校で読心した、黒幕の頭の中から得たものだろう。 それを信用すれば、俺はもう二度と自分の意志に反して地口の首を絞めることはないということだ。 そう思うと、少しほっとした。 そういえば地口はもうショックから脱した のだろうか。⑤
2015-08-15 09:57:02部屋に入ると、地口は卓袱台に水を二つ置いて正座で待っていた。 「それでは、本日の脳内整理のお時間といたしましょう」 地口はバラエティ番組の司会のように仕切りだした。 どうやら、本日の収穫も併せて事故の整理を行うのを毎日恒例の日課にするつもりらしい。 俺としても非常に有り難い。⑥
2015-08-15 09:59:31俺は地口の提案に「いいともー」と応じた。若干ノリが違ったのか地口は変な顔をしてきた。が、さして気にしていないようで普段通りの表情に戻った。 「カザミドリが仲間になったね」 「結局お前は最後まで渋い顔してたけどな。わがままで悪い」 「いいよ、横様くんがめんどくさいのは知ってるし」⑦
2015-08-15 10:01:57絶対気にしてそう。 容赦ない一言に俺がブルってると、地口は近所で偶然フクロウの赤ちゃんを見かけた時みたいな顔をした。 つまりすげーニヤニヤしてた。 「…なんだよ」 「横様くんって普段クールでかっこつけてんのに、キツイこと言われるとモロに顔に出るよね」 「俺のメンタルで遊ぶなよ」⑧
2015-08-15 10:03:17俺のツッコミにふふふ、とニヤニヤする顔を袖まで伸ばした指先で抑えていた。高身長イケメンのくせにもはや反応が女子だ。 オカマか。 「ボクと横様くんは、友達なのかな」 「ん?少なくとも俺はそう思ってるけど…あ、嫌だったらごめんな」 「嫌なはずないじゃん」 「そうか、なら良いんだ」⑨
2015-08-15 10:05:04俺が微笑むと地口はふと不安そうに目を伏せた。嫌じゃないといいつつ本当は嫌だったのかな。地口は俺の様子を伺いながら言葉を紡いだ。 「…横様くん、もし黒幕さんやっつけて全部解決して、ボクと横様くんがこんな感じにする必要なくなっても」 「友達だろ?」 俺は地口の言葉を遮って言い放つ。⑩
2015-08-15 10:07:16言葉を遮る行為は普段なら相手に嫌な思いをさせてしまうので控えるのだが、このときの地口の質問に、俺も少しだけ不安になったのかもしれない。でも、少なからず俺は地口のことを友達だと思っている。友達になれてよかったとも。 あ。 もしや風見鶏が言ってたのはこれか? 関係を悩んでいるって。⑪
2015-08-15 10:09:04地口は不安なのだろうか。 有難いことが受け入れられない性格ゆえにずっと友達になりたかった俺とこうしていることが信じられない。だからこそすぐ壊れてしまう関係だと思っている。今まであまりに思い通りに人生行かなかった者はこんな風になるのか。 いいことがあると不安になるなんて気の毒だ。⑫
2015-08-15 10:11:33「確かにこの一件で絡まなかったらお前とこんな風にできなかったと思うけど、接してみるとお前結構面白いんだぜ。お前はもっと社会で上手くやってけるはずだ」 「社会ねえ」 「それに、俺お前にしか脳力の話してないしお前もないだろ?それだけ信頼しあえてるんだ。ここだけで終わりにしたくない」⑬
2015-08-15 10:13:29「……わかった」 地口は、憑き物が落ちたように全身の緊張をほどいた。俯いたまま地口は薄く笑っていたので、地口は俺の言葉に同意を示してくれたようだ。 と、いきなり俺の両腕を力強く掴んできた。それで真剣な表情で、揺るがない黒瞳で俺を見据えた。 「じゃあ結婚しようか」 「それは待て」⑭
2015-08-15 10:15:52「いつまで待てばいい?」 「来世までだ。何?風見鶏と打ち合わせでもしたの?」 恐ろしいことに地口の声が真剣だった。さっき風見鶏に幸せにしてやれよと言われたのを思い出す。 いや地口にそっちの気が一切ないことは最初にきっぱり否定されているので、演技のはずだが気まずいレベルの気迫だ。⑮
2015-08-15 10:17:11ふと地口はそんな俺の心を読んだように手の力をゆるめてにんまり微笑んだ。 「そうだねえ、ボクもこーゆー冗談は嫌いなんだよね」 「じゃあやるなよ!」 「てゆーか法律で同性婚は禁止されてます」 「ああ、そうか残念だな…とはならねーよ!」 「でもでも、来世なら結婚してくれるんでしょ?」⑯
2015-08-15 10:19:00だんだん地口が本気なのか演技なのかわからなくなってきた。 「ああ、来世お前が俺好みの美少女だったらな」 俺の言葉を受け何故か地口はしばらく昏い顔をしていたがすぐに目を細めた。 「やった」 地口は相変わらず冗談か判然としないガッツポーズをし、そういや話が逸れてるね、と言ってきた。⑰
2015-08-15 10:20:10「それでは第二回、本日の脳内整理のお時間といたしましょう」 「なんだ第二回って」 改めまして、でいいだろ。 わざわざ第一回がお流れになって第二回を開きました、みたいな感じになっちゃった。 「カザミドリが仲間になったね」 「…またそこからか」⑱
2015-08-15 10:21:27「それでは第二回、本日の脳内整理のお時間といたしましょう」 「なんだ第二回って」 改めまして、でいいだろ。 わざわざ第一回が流れて第二回を開きましたみたいになっちゃったが、やっと脳を整理できる。俺は居住まいを正し地口に先を促した。 「カザミドリが仲間になったね」 「そこからか」①
2015-08-22 09:12:28「うん。それでさっきテストと称してカザミドリの中二心につけ込んで得た情報だけど」 「そうだな、信憑性はあってもそれを繋ぎ合わせるものが何かわからないんじゃ…」 と、俺はノーヒントでは発想できないことを告げた。つまり地口が掌握している黒幕の脳の情報を宛てにしようという魂胆である。②
2015-08-22 09:14:27正直もうお手上げ。 なーんもわからへん。 無論、お手上げというほど考えてないのだが、人間目の前に答えがあるのにわざわざ方程式を組んで解いて目の前の現象を腑に落とそうとすることなどそうそうしない。よほど信じられないときだけだ。そして今の俺には立式を行う脳味噌も体力も残っていない。③
2015-08-22 09:16:08しかし地口は黒幕の心象を開示することなく、「そっか」と呟いただけだった。 ぐぬぬ…。 まあ、地口にも考えがあって黒幕の中身を無闇に話そうとしていない、ということなのかもしれない。 俺はめんどくさそうに布団にどっかりと横になった。まるで考えがまとまらない。相当今日は疲れたようだ。④
2015-08-22 09:18:55今日は脳内整理もしないほうがいいかもしれない。 と、地口は俺を横目で見ながら話しかけてきた。 「寝るの?」 「横になっただけ。今日は脳内整理する体力もなくて…」 「最近の横様くんは寝ても疲れがとれてないみたいだからね」 「むしろ夜に疲れがたまってるよなー、特に夕べなんか最悪だ」⑤
2015-08-22 09:20:32