黄昏町(九板)十日目

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@hiiragi_r_t_d

【十日目】 【魂14/力1/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2) #hollytk

2015-10-16 21:44:02
@hiiragi_r_t_d

「はぁー……」 わたしはぼんやりと歩いていた。チョコレートを探したり猫を追いかけたりしているうちに、あの煙突は見失ってしまった。 あのバリケードから先へ行く事もできない。なのでわたしは仕方なく、来た道を戻っていた。 01 #hollytk

2015-10-16 21:45:40
@hiiragi_r_t_d

「異形といっても、不自由が多いですね……」 わたしはパナマ帽の上から額の眼を撫でながら呟く。 あの後も道端の猫や虫を相手に試していたのだが、さっぱり動きを止められる様子は無かった。 「バケモノライフ、もう少し自由なものだと思っていました」 02 #hollytk

2015-10-16 21:47:09
@hiiragi_r_t_d

『非日常』にもそこに生きる人々がいて、そこにはルールがある。ルールがあれば不自由もある。当たり前の事なのだけれど。 「はぁー……」 少し、がっかりする。 そもそも、わたしに眼が一つ増えたくらいでそう劇的に変われるわけもない。 「はぁー……」 03 #hollytk

2015-10-16 21:49:31
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うつむきながら歩いていたわたしの耳に、聞き慣れたエンジン音が飛び込んでくる。 鏑木君と彼の愛車だ。 わたしは頭を振って憂鬱な考えを振り払ったあと、くるりと振り向く。 「こんにちは、鏑木君。また会いましたね」 「うん、こんにちは。元気そうだね」 04 #hollytk

2015-10-16 21:51:17
@hiiragi_r_t_d

「ええ、まあ。なんとかやってます」 わたしは適当に返しながら、額の眼に力を込める。じんわりと熱を持った黒い瞳が、パナマ帽越しに鏑木君を見据える。 「そっか。……あ、これ食べる?」 鏑木君は何事もなかった様子で、懐から取り出したカロリーメイトを差し出す。 05 #hollytk

2015-10-16 21:53:32
@hiiragi_r_t_d

……上手くいかなかった。わたしは落胆しながら、カロリーメイトを受け取る。チーズ味だった。 「えーと、もしかしてチーズ味は嫌いだった?」 わたしの落胆に気付いた鏑木君が、懐からプレーン味を取り出す。 「チョコレート味の方が好きですが、別に嫌いではないですよ」 06 #hollytk

2015-10-16 21:55:20
@hiiragi_r_t_d

わたしは包装を破り、パサパサした塊を噛み砕いた。どこにいても変わらない、乾燥した食感。 「これはどこで?」 「ああ、車でしばらく行ったところに誰もいないコンビニがあるんだ」 「なるほど」 二人の間に静寂が流れ、もそもそとカロリーメイトを食べる音だけが響く。 07 #hollytk

2015-10-16 21:57:18
@hiiragi_r_t_d

「喉渇いたよね。いる?」 食べ終わった頃合を見計らって差し出されたペットボトルのお茶で喉を潤してから、わたしはふっと思い付いた事を聞いてみる。 「鏑木君。もしもわたしがバケモノだったら、どうしますか?」 彼はまだ、わたしの帽子の下の眼に気付いていない。 08 #hollytk

2015-10-16 21:59:55
@hiiragi_r_t_d

「人がバケモノに?よく分からないんだけれど……」 死んだことのない彼には、そこはピンとこなかったようだ。 「バケモノとは一緒にはいられないよね。だって怖いじゃないか」 怖い。予想し、待ち望んですらいたはずの言葉。憧れた『非日常』の主役に必要とされる言葉。 09 #hollytk

2015-10-16 22:01:36
@hiiragi_r_t_d

その言葉を聞いたわたしは、何故か少しだけ悲しくなった。 「バケモノは怖いですか?」 「まあね。殺されちゃうわけだし」 どうせ、殺されても死にはしないのに。 わたしは衝動のままに、パナマ帽を脱ぎ捨てる。 「なら、鏑木君も死んでみますか?」 鏑木君が息を呑む。 10 #hollytk

2015-10-16 22:03:18
@hiiragi_r_t_d

「九板さん、その眼は」 愕然とした表情の鏑木君を、額の眼が無感情に見つめる。 今なら、成功するような気がした。 わたしは額に力を込める。額の眼が熱を持ち、くろぐろと輝き始める。 その様子を呆然と見つめていた鏑木君の体が、ギチリとこわばる。 11 #hollytk

2015-10-16 22:05:34
@hiiragi_r_t_d

「え、何、体が」 困惑する鏑木君の前で、わたしは成功の喜びに打ち震えていた。 「これが、バケモノの力……」 今まで成功しなかったのは、目を合わせる必要があったから?それはまだ分からない。 でも今、確かにわたしは鏑木君の動きを止めた。 なら、当然その先も…… 12 #hollytk

2015-10-16 22:07:20
@hiiragi_r_t_d

「鏑木君、分かりますか?これがバケモノです」 「九板…さん?」 「ええ、わたしです。わたしがバケモノ。望んでいた事です。なのに」 どうしてこんなに、悲しいのでしょうか。 「……やめです」 わたしは額の眼を閉じる。開放された鏑木君が、その場でへたりこんだ。 13 #hollytk

2015-10-16 22:09:09
@hiiragi_r_t_d

目を合わせればオリジナルと同じように使える……殺せる。それが分かれば充分だ。わざわざ最後まで試す必要は無い。 「……さようなら、鏑木君。次に会ったときは、殺しますね」 わたしはあえて、殺すと言い切る。 「だってわたしは、バケモノなのですから」 14 #hollytk

2015-10-16 22:11:12
@hiiragi_r_t_d

わたしはパナマ帽を拾い上げて額の眼が見えるように軽くかぶり、その場を後にする。 「ま……待って!」 「……チーズ味」 わたしは振り返らずに、小さく呟いた。 「大好きでした……さようなら」 15 #hollytk

2015-10-16 22:13:11
@hiiragi_r_t_d

──────── 【十日目】 【生存】 【魂+1】 【魂15/力1/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2) 16 #hollytk

2015-10-16 22:13:30
@hiiragi_r_t_d

[町]住宅地に足を踏み入れた途端、通りの向こうから乗用車が君を目がけ勢いよく走ってきた。《異形1つ以下なら保護される【魂+1】異形2つ以上で轢死【魂-2/異形『半透明(探索+3、力-3)』を入手】》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541547 #hollytk

2015-10-16 22:13:48