印刷物と写本と国家管理

印刷物と写本と国家管理
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原田 実 @gishigaku

古い写本が残らないのは中国だけでなくすべての文明に共通と言われても日本列島やヨーロッパには7~8世紀までさかのぼる古い写本が現存しているのに中華ではほとんどない(漢籍でも古い写本は日本列島伝来か西域出土)というあたり古典籍が残りにくい環境だったことは否めないかと

2015-10-21 16:46:20
原田 実 @gishigaku

刊本についていえば早くから紙と印刷技術が普及した中華では印刷物はほぼ当初から国家の管理下に置かれた…もっとも地下出版もさかんで『水滸伝』などは何度禁書になっても流通し続けていたし中華民国が毛沢東の著書を禁書にしても地下出版によって読みれ続けた(今は反毛沢東本が地下出版だそうだが)

2015-10-21 16:53:03
原田 実 @gishigaku

日本でも江戸時代に印刷技術が普及すると幕府はその管理を進めたわけで江戸時代の出版には著者名と版元名が明記され、一冊ごとに刊行責任を明確にするための版元の捺印とお上が刊行を許したことを示す奉行所等担当役人の捺印が義務付けられていた。

2015-10-21 16:58:19
原田 実 @gishigaku

おかげで日本の出版物は奥付がしっかりしているわけで(たまに誤植や意図的な嘘を交えたものがあるけど)書誌研究者にはありがたい次第。戦後になっても1960年代くらいまでの本で奥付に「検印廃止」と印刷されたものがあるのは江戸時代以来の習慣のなごり。

2015-10-21 17:00:40
原田 実 @gishigaku

戦国~安土桃山時代の歴史について書かれたものは大名の先祖の恥とか鎖国政策への批判につながりかねない内容(キリシタンもの、山田長政ものなど)を含みがちなので幕府の禁書の対象として目をつけられがちだった。そこで生まれたのが実録物というジャンル。

2015-10-21 17:03:42
原田 実 @gishigaku

実録物は印刷ではなく写本の形で流通。つまり著者も書写者も匿名でつまりは版元?は刊行物ではなく由来不明の写本が手に入ったのでそれを売っただけとしらをきれるようになっていた。

2015-10-21 17:06:26
原田 実 @gishigaku

で、この実録物に目を付けたのが和田喜八郎さんで著者・書写者の署名がない写本の末尾に「孝季」と書き込むだけで(実際には実在しない)『東日流外三郡誌』の作者・秋田孝季の手になる写本や自筆著書ができるわけでこれこそ孝季が実在した証拠ということに

2015-10-21 17:09:42
原田 実 @gishigaku

古田武彦先生はこのようにして提供された秋田孝季の筆跡のぶれが大きいことに着目し、それによって孝季の筆跡の変遷を追えるのではという構想を説かれたことがある。

2015-10-21 17:12:04