世界大学ランクでの東大の順位

世界大学ランクでの東大の順位、佐藤俊樹先生のツイートを中心に
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佐藤俊樹 @toshisato6010

10/22の朝日新聞「(ニュースQ3)今年の世界大学ランク、東大が「アジア首位」守れず」という記事(asahi.com/articles/DA3S1…)、取材して聞いたらしい話がいろいろ紹介されているんだけど。

2015-10-24 03:38:25
佐藤俊樹 @toshisato6010

THE誌の大学ランキングは、総合評価の順位や点数だけでなく、その内訳ももちろん公表されている。だから、わざわざ「どうして?」ととりあげるのならば、まずそうした数字のレベルで、何が起きたのかをもっと掘り下げるべきだし、掘り下げられると思う。

2015-10-24 03:39:17
佐藤俊樹 @toshisato6010

具体的にいうと。 THEランキングでの、過去5年間の東京大学への評価と内訳は以下の通り。去年に比べると、「国際化」(=International Outlook)の点数も下がっているが、 ow.ly/i/dW6Jm

2015-10-24 03:44:13
佐藤俊樹 @toshisato6010

主な要因はどう見ても「論文被引用数」(=Citation)が大幅に低下したことだ。 この項目に対応する中身が1年で大きく変動することはまずない。低下の原因はTHE誌が指標の計算法を変えたことだ、と考えるべきだろう。

2015-10-24 03:45:03
佐藤俊樹 @toshisato6010

だから、変え方が妥当ならともかく、そうでないなら、大学としては「コメントは控えたい」というのが正しい対処だと私も思う。というか、私が広報でも、そう言う。 だから、なぜそれが記事では「言葉少なだった」と形容されるのか、私には理解できなかった。

2015-10-24 03:46:16
佐藤俊樹 @toshisato6010

さらに、THEの順位では、各項目は同じ重み(ウェイト)で評価されているわけではない。「国際化」のウェイトは7.5%だ。つまり、THEランキングは本来、「国際化」の程度では大きく左右されない。研究教育能力に主な焦点をあてている。その点ではむしろ良識的だと思う。

2015-10-24 03:46:43
佐藤俊樹 @toshisato6010

で、昨年からの変動の内訳は下の表の通り。 「評価比率」が評価の重みづけ(ウェイト)。「寄与分」は、今年は総合評価で5点下がったわけだが、どの項目がどの程度関わっているかを点数で示したもの。それを比率で表わしたのが「寄与比率」。 ow.ly/i/dW7lD

2015-10-24 03:49:38
佐藤俊樹 @toshisato6010

一目瞭然だが、「国際化」の影響はわずか3.2%。ほとんど関係ない。それに対して「被引用数」の影響は84%で、圧倒的に大きい。もう一つ注目されるのは、「研究」(=Research)の低下で、これが13%効いている。「国際化」と比べて、影響の程度は4倍だ。

2015-10-24 03:52:18
佐藤俊樹 @toshisato6010

去年からの変動で、本当に問題にすべきものがもしあるとしたら、むしろここだろう。 ちなみに、同じく順位が大幅に落ちた京都大学も、内訳は下の表の通り。こちらも「被引用数」の計算法が変わったのが主な要因だ。 ow.ly/i/dW7SS

2015-10-24 03:55:47
佐藤俊樹 @toshisato6010

「国際化」の影響は「被引用数」の1/14以下しかない。 さらに5年前と比べた場合の、東京大学の評価の変動は以下の通り。これはこれで興味ぶかい(なお、変動分の合計は各項目の点数の変化の絶対値を足して、「寄与比率」の分母にした)。 ow.ly/i/dW8hG

2015-10-24 03:59:27
佐藤俊樹 @toshisato6010

まず確認できるのは、「国際化」はやはりあまり影響しない。要するに、東京大学のような大規模な研究大学にとって、国際的な評価においても、「国際化」はそもそも重要な要素ではない。例えば、教員や学生数の国内/国外比率で、順位が大きく変わることはほぼない。

2015-10-24 04:02:01
佐藤俊樹 @toshisato6010

「研究」に関しては去年よりは下がったが、5年前と比べるとむしろ上がっている。低下しているのは「教育」(=Teaching)の方だ。全変動のうち24%の影響を、評価を下げる方向に与えている。中期的にみれば、一番深刻な問題はここかもしれない。

2015-10-24 04:03:00
佐藤俊樹 @toshisato6010

一教員として率直な意見をいえば、最近5年間でみれば、東京大学は短期的には「研究」能力を向上させ、「国際化」にも努力してきたが、それは「教育」能力の低下をもたらしている、と考えてよいのではないか。

2015-10-24 04:03:32
佐藤俊樹 @toshisato6010

人的・予算的にずっと現状維持どころか、前年度より削られつづけるしくみまであるのだから、当たり前といえば、当たり前の結果だ。 ただし、「だから大学にどんどん金をつぎ込め」とは、私は考えていない。だが、「何を優先的に守るべきかを、冷静に検討し、実行していくべきだ」とは考えている。

2015-10-24 04:05:05
佐藤俊樹 @toshisato6010

その辺は、社会保障のしくみをどう守るかと同じ問題だと思う。 まあ、研究科内で話題になったので、自分でもざっと分析しただけだから、誤解や見落としがあるかもしれない。データは公開されているから、興味がある人は自分自身の目と手で調べることをお勧めする。

2015-10-24 04:05:46
佐藤俊樹 @toshisato6010

今年のTHE順位で、なぜ東京大学や京都大学の「被引用数」の点数が特異に低下したのかは、timeshighereducation.com/news/ranking-m…をみれば、大体推測がつく。 英語によるモノカルチャー化の進展だけでなく、

2015-10-24 04:07:22
佐藤俊樹 @toshisato6010

大学予算の深刻な問題にもなりつつある、電子ジャーナル関連産業に振り回される現在の大学の姿、が透けて見える点でも、いろいろ考えさせられる。 なお、THE誌の解説によると、

2015-10-24 04:08:08
佐藤俊樹 @toshisato6010

The citations help to show us how much each university is contributing to the sum of human knowledge. だそうである。

2015-10-24 04:08:39
佐藤俊樹 @toshisato6010

この文を読んで、「なるほど、私は「人間human」じゃないんだー」と思ったww。 でも、これって、まさにcolonialismそのものじゃないろうか。

2015-10-24 04:11:13
佐藤俊樹 @toshisato6010

社会科学が再帰的な社会での反省の営みだとすれば、まさにそれゆえに、当事者の言語に決定的に拘束される。反省された結果が当事者に伝わらなければ、反省する営み自体が無意味になるからだ。 当事者に伝わることまでふくめて社会科学なのだ、とも言ってもいい。

2015-10-26 00:43:34
佐藤俊樹 @toshisato6010

それは、外部観察という立場をとれる自然科学と、内部観察たらざるをえない社会科学との、決定的なちがいの一つでもある。当事者の言語との関係性が、二つの科学では根底的にことなる。もちろん、当事者の範囲は複数ありうるし、多重にもなりうるが。

2015-10-26 00:43:58
佐藤俊樹 @toshisato6010

別の言い方をすれば、当事者の言語は英語でも日本語でもありうるが、どの言語であれ、当事者の言語と自らの関係を社会科学は考えざるをえない。「世界に開かれた」みたいな言辞で自らを包む前に。 "human knowledge"の意味も、そういう問題だと思う。

2015-10-26 00:44:20
佐藤俊樹 @toshisato6010

(せっかくなのでTHEランキングを例にとれば笑。実は前年の2015年次までの「引用数」は、そうした面も、ある代理変数を使って調整して、点数に反映させていた。決して無視していたわけではない。その調整の程度を今回から弱めたことで、「引用数」の点数が大きく変動したようだ

2015-10-26 00:45:22
佐藤俊樹 @toshisato6010

代理変数だから、もちろん調整のあり方が正確だとはいえない。けれども、その表面的な不正確さを消そうとして、もっと根本的な面で欠落を生んでしまう。残念ながら、よくある「改善」=改悪のケースだ。指標が根源的にもつ代理性を引き受けるのを忘れてしまう、という。

2015-10-26 00:45:57
佐藤俊樹 @toshisato6010

逆に言えば、私は大学ランキング自体には決して反対ではない。そして、少なくとも前年までのTHEの順位も、特に不適切だとは考えていない。先の代理変数についても自分で少し検討してみたが、良い代替案は思い浮かばなかった。総体的には、よくできた指標だと思う。

2015-10-26 00:47:06