ぼさぼさにされてしまった頭を振り振り顔を上げると、愉快そうな笑みを浮かべた顔がある。視線が交わるとその眉根が少し寄せられた。「いやー、そんな残念そうな顔せんでくれよー」どうして彼女がそれを知っているか、は聞かない。そういうものなのだ。彼女は。 #籠屋
2015-10-30 00:49:13しばし二人で笑いあって、そして小さく息を吐く。いつもの我が家だ。いつもの彼女だ。だから、切り出してみることにする。 「……あのさ、ものは提案なんだけど……」 ――いや、止めよう。止めておこう。別に今でなくてもいい、ことだ。籠屋は小さく首を振って、彼女の肩に額を預けた。 #籠屋
2015-10-30 00:49:57(鳥屋)
戸口の鍵を開け、暗い廊下を過ぎて、その部屋へ。もうこの道筋を何度繰り返したことだろう。とっくの昔に忘れてしまった。黙ったまま戸を開ける。ち、ち、という声。鳥屋の肩に軽い羽音を立てて降りてきたのは、あの鳥――ちどりとめじろへの伝言を託した、あの鳥だった。 #鳥に纏わる掌編
2015-10-30 00:51:51――ああ、ちゃんと帰って来てたんだな。答えるように鳴いた鳥の小さな頭を撫でてやる。くすぐったそうにかぶりを振った鳥が再び肩から舞い上がる。落ち着いた先は――白い手の甲の上だ。かすかな衣擦れの音を立てて、彼女が歩み寄ってくる。 #鳥に纏わる掌編
2015-10-30 00:52:08何も言わぬ先に、二重廻しの胸元へ彼女が身を預ける。何かの匂いを嗅ぐように息を吸って、そのまま頭を摺り寄せる。その輝くような髪を撫でてやる。彼女の手の中の鳥が不思議そうにふたりを見上げた。そこでやっと鳥屋は笑って―― ――ただいま、と言った。 #鳥に纏わる掌編
2015-10-30 00:52:44(ヒキフネさん)
枕元に散った髪の色が、だんだんと白みを帯びていく。朝が来るのだ。静かに身を起こして、水を一口――アレ、不寝の番とはご殊勝な。面白がるような声のした方へ流し目をくれつつ、冷たい水を一息に飲み下す。「起きたくて起きてたわけじゃないのさ」 #曳舟荘
2015-10-30 00:54:15「…家につくもの、っていってもねエ。最初っからここで、誰かを待ってた訳でもないのに…」そう言いながら煙草盆へと伸びた手を、ふ、と細い手が抑えた。――お眠りなさいまし。抗議の声を上げようとしたその首筋に、白く優しい指が触れた。「ちょっと、」 #曳舟荘
2015-10-30 00:54:39――ね、お休みなさいましよ。嗜める調子の声だったが、その指はどこまでも優しかった。耳の付け根をくすぐって、頬を撫でて。瞬きをして、やれやれ、と言うように三毛猫は目を閉じる。 ――あたしはここにおりますから、ね、お前さま。 #曳舟荘
2015-10-30 00:55:39後書き
これで6回目の空想の街、存分に楽しませていただきました。
そして花の目覚め・海の目覚め、氷涼祭、明りの樹、ハンツピィの宴と、街の四季を全部体験したことになるのかな、と思ったり。
うちの登場人物たちもそれなりに顔が馴染んできたようで、皆さんにご愛顧いただけて大変うれしかったです。
(ほぼ無計画だったために)今回は他の参加者の皆様とのコラボの割合が大きかったのですが、本当に楽しませていただきました。最後には全体を貫くテーマのようなものが見えてきたのも、不思議なことですが。
今回はすれ違うだけだった方とも、またどこかでコラボできたらいいな、とそう思っています。
最後になりましたが、参加者の皆様、読者の皆様、そしていつも楽しい企画と厚いサポートをしてくださる運営様へ、心からの御礼を申し上げます。
ありがとうございました。
街が皆さまにとって帰るべき場所でありますよう。