ニンジャカタナ 『Location No.93』 #9

@Fw009による小説ニンジャカタナ 『Location No.93』の#9まとめです。 連載中アカウント @NJkatana 続きを読む
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ニンジャカタナ! @NJkatana

もとよりリーゼの認識者としての適正は低い。これは彼女の生まれ育ったコロニーの技術進化の方向性が、多元連結機関に頼り過ぎていなかったことに起因する。彼女のコロニーでは多元技術はあくまで動力発生源程度の役割であり、そのエネルギーを利用した別分野の技術こそが連合の求めた技術だった。23

2015-10-28 21:35:36
ニンジャカタナ! @NJkatana

連合が求め、リーゼの祖父と両親が命を賭けて秘匿したその技術の結晶こそが、この機械人形ヒンメルであり、重力偏向システムだ。そして、その重力偏向システムをこの世界で最も熟知し、完全に支配下に置く唯一にして最後の生き残り――それが彼女、アンネリーゼ・シュヴァイツァー。24

2015-10-28 21:46:11
ニンジャカタナ! @NJkatana

だが彼女は知らない。彼女の祖父や両親にとって、リーゼこそが彼らのコロニーが500年の末に生み出した天才――最高傑作だと誇っていたことを――。「どうして!?どうしてカルマが持ち上げられるの!?」空中で叫び声をあげるスピカ。高々と持ち上げられたカルマは全く身動きがとれない。25

2015-10-28 21:56:58
ニンジャカタナ! @NJkatana

『心配しないで。少しおとなしくしててもらうだけだから』リーゼは空中のスピカに言うと、頭上に掲げたカルマの巨体、ヒンメルの数倍はあるその巨体をそのままホールの天板へと全力で放り投げたのだ。頭上に持ち上げる際にはヒンメルの関節は軋み、全身のスラスターを吹かしたが、今はそれもない。26

2015-10-28 22:01:36
ニンジャカタナ! @NJkatana

異様な光景――数十トンはあろうかという鉄塊が、自分より遥かに小さな機械人形に頭上数十メートルもの高さに放り投げられたのだ。カルマはその巨体ゆえ空中での機動は不可能。まさか自分が人形のように放り投げられるなどとは思ってもみなかったのだろう。「嫌だぁ!カルマー!」スピカの悲鳴。27

2015-10-28 22:07:35
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『ごめんなさい――私ってやるときは徹底的にやる主義なの!』まるでスローモーションのように一直線に投げ飛ばされたカルマの巨体は、即座にその身にかかる重力をヒンメルとリーゼによってコントロールされる。先程まで数十分の一にまで減少していたカルマの重量は、一瞬で数十倍にまで増加する。28

2015-10-28 22:17:10
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物体の重量で落下速度は変化しない。だがその身に受ける衝撃は重量に伴って何十倍にも膨れ上がる。数十メートルの高さから今度は一直線に落下したカルマの巨体は、凄まじい煙と衝撃を最下層全域に轟かせた。地下深くの圧力にも耐え続けた最下層の壁面が無残にも崩れ、クモの巣状に陥没する。29

2015-10-28 22:27:42
ニンジャカタナ! @NJkatana

だがリーゼはそこで攻撃の手を緩めはしない。もとより一切武装と呼べるような物を搭載していないヒンメルが、強力な認識者であるカルマを封じるには、重力偏向システムによる奇襲以外無い。リーゼは落下後のカルマにかかる重力を増大させ続ける。既に陥没している地面が更に無残に崩壊していく。30

2015-10-28 22:33:28
ニンジャカタナ! @NJkatana

粉塵の中、増加した自重によって金属が軋む鈍い音がホールに響き渡る。「お姉ちゃんやめて!そんなことしたらカルマが!カルマが――!」スピカの悲痛な叫びがリーゼの耳に届く。((――まだ動けるの?))だがスピカの悲鳴とは裏腹に、リーゼはカルマの異様なパワーに違和感を覚え始める。31

2015-10-28 22:53:02
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リーゼはコクピット内部のいくつかの計器を確認する。既にカルマにかかる自重は重力偏向前の30倍に達しようとしていた。体重50kgの人間であればその体にかかる重さは1500kgになる計算である。恐らく10tを超えるカルマの巨体が、この30倍もの自重に耐えられるだろうか?32

2015-10-28 22:56:09
ニンジャカタナ! @NJkatana

未だ巻き起こる粉塵の中から、カルマの巨大な腕が地面を這うようにじりじりと迫る。その腕の下敷きとなった金属製の地面は抉れるように陥没し、周辺の岩盤を隆起させる。その光景に、ヒンメルが後方へ下がる。((これだけの自重――例え動くだけのエネルギーがあったとしても、装甲は――))33

2015-10-28 23:01:25
ニンジャカタナ! @NJkatana

これだけの重さに耐えられる金属――それも複雑に絡み合い、機動することも考慮した可動構造。それがこの重力下を動き続けることが出来るものだろうか?リーゼの首筋を冷たい汗が伝う。「ねー?ねー?おねえちゃーん?そんなにしてるとカルマが――怒っちゃうよ?」スピカは満面の笑みを浮かべた。34

2015-10-28 23:07:08
ニンジャカタナ! @NJkatana

『――!』粉塵が明けるよりも早く、その中からヒンメルめがけて巨大な金属製の触腕が飛び出す。重力増加に集中していたリーゼは反応が遅れる。触腕は重力偏向の影響下にあるためか地面を引き裂くように、這うようにのたうちつつヒンメルを下方から跳ね飛ばした。『くっ――この!』35

2015-10-28 23:15:08
ニンジャカタナ! @NJkatana

カルマより小型とはいえ、全長7メートル、全備重量5tを誇るヒンメルが軽々と跳ね飛ばされる。空中で上下反転の状態となったヒンメルは即座に状況を把握したリーゼの操縦によって姿勢制御を試みる。だが――衝撃。空中で再度の致命的な一撃を受けたヒンメルはピンボールのように壁面に激突した。36

2015-10-28 23:19:07
ニンジャカタナ! @NJkatana

多元連結によって機動時のGや衝撃から保護されているヒンメルのコクピットも、被弾によって大きく損傷を受ける。コンソールが火花を上げて吹き飛び、内部モニターの半数が機能停止。頭を振りながら周囲を確認したリーゼは言葉を失う。コクピット左側が削り取られ、外の光景が覗いていたのだ。37

2015-10-28 23:26:22
ニンジャカタナ! @NJkatana

触腕によって跳ね上げられたヒンメルを、粉塵の中から放たれた巨大な砲弾が狙撃。リーゼが姿勢制御を試みていなければそのまま本体中枢を撃ち抜かれていただろう。しかし最悪の事態は回避したとはいえ、ヒンメルは左腕から本体左側にかけてをほぼ消失。背面のメインスラスターも一部が脱落した。38

2015-10-28 23:31:09
ニンジャカタナ! @NJkatana

「よくもやってくれたわね――!」リーゼは自身の血で濡れ、片側のレンズが砕け散ったゴーグルを脱ぎ捨てると、ヒンメルの操縦桿を握る。可動可能箇所を確認――重力偏向システムは――使用可能。姿勢制御――不可能。((駄目ね、バランサーがやられてる))リーゼは冷静に状況を把握する。39

2015-10-28 23:35:27
ニンジャカタナ! @NJkatana

リーゼは辛うじて稼働するヒンメルの単眼と前面モニター、そして大穴の空いたコクピット左側面から顔を覗かせて外部の状況を確認する。ノイズ混じりに映像を送るモニターが先程入ってきた入り口を捉える。この映像はヒンメルから見てほぼ正面――ということは、ここは――。40

2015-10-28 23:39:13
ニンジャカタナ! @NJkatana

「アハハハ!びっくりした?びっくりしたよね?」必死に思考を回転させるリーゼの耳に、スピカの無邪気な笑い声が響く。「駄目だよお姉ちゃん。カルマと私は二人で一人なんだよ?どういう意味か、わかるかな~?」粉塵が完全に消え失せ、その向こうから先程までとは全く違う姿のカルマが現れる。41

2015-10-28 23:42:48
ニンジャカタナ! @NJkatana

今までとは大きさも、姿も、そしておそらく材質すらも違うであろうその威容。リーゼは即座に理解する。先程一瞬であれほどの質量を持つ機動兵器へとカルマが姿を変えたのも、今このように姿を変えたのも、おそらくは――スピカの能力。「――気付いた?カルマの体は、私が作ってあげてるの!」42

2015-10-28 23:46:48
ニンジャカタナ! @NJkatana

「体を持って行かれちゃったカルマのために、私がカルマの体を作るの。強い体も軽い体も。――私、カルマの体だったらなんでも作れるの!」スピカは誇らしげに言うと、再びカルマの巨大な金属の体の肩に降り立つ。カルマは完全に機械の中に埋没した状態で尚、スピカの言葉に同意するように頷いた。43

2015-10-28 23:50:41
ニンジャカタナ! @NJkatana

「そういうこと――重力偏向システムが無効化されたわけじゃなかったのね」リーゼは内心安堵していた。ヒンメルの重力偏向システムはその対象となる物体の体積や大まかな外観、重心位置などを解析、計算する必要がある。一度解析し終えた場合でも、対象の姿が大きく変わればその効果は半減する。44

2015-10-28 23:53:34
ニンジャカタナ! @NJkatana

「お姉ちゃんって変わってるよねぇ。こんな状況なのにそんなこと気にするの?もう死んじゃうんだよ?」スピカの言葉を受け、カルマの肩に固定された砲塔がヒンメルを照準に捉える。「システムが無効化されるなんて屈辱よ。死んでも死に切れないわ」話しつつリーゼは視線をコクピットの外に向ける。45

2015-10-29 08:06:56
ニンジャカタナ! @NJkatana

彼女の視線の先、そこにはホール出口を示す赤い指示標識らしきものが描かれていた。「二人共――ごめんなさい。謝るわ。だから助けてもらえないかしら?」リーゼは言いながら、未だ稼働するコンソールにコマンドを打ち込む。そしてシートベルトを外し、ストレージから1枚のカードを抜き出す。46

2015-10-29 08:08:32
ニンジャカタナ! @NJkatana

「えー?どうしようかなー」「お願いよ。まだ死にたくないの」そう言ってリーゼは大穴の空いたコクピット左側から半身を乗り出す。「うーん――どうしようかなぁ?」わざとらしく腕組をして悩むスピカ。だがどうやら最初から彼女の答えは決まっていたらしい。「やっぱりダメー!許さないよーだ」47

2015-10-29 08:10:31