ケンペイ天狗「ロスト・カラード・ズイウン」

◆毎週末更新◆ 深海棲艦との果てなき戦争に人倫が疲弊したマッポーの近未来。 ブラック提督達が支配する暗黒都市ネオヨコスカを舞台に、大本営に全てを奪われた狂気の復讐者が駆ける! 続きを読む
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アナ・イゴール @KNPITNG

日向は死神の存在の確証を得るため、廃倉庫の入口を奥ゆかしく匍匐姿勢で乗り越えた。(援軍を待たずともアンブッシュで一刀両断に……いや)一瞬湧いた油断を抑え、顔を上げる。その瞬間、日向は心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。 23

2016-08-05 21:10:34
アナ・イゴール @KNPITNG

闇の中で、赤い瞳が真っ直ぐに日向を捉えていた。 24

2016-08-05 21:13:34
アナ・イゴール @KNPITNG

赤い。暗闇でも、オメーン越しでも分かる程に赤い、狂気と憎悪に満ちた目。日向は血が急激に冷えるのを感じた。死神は尾行に気がついていた、その上で確実に自分達を殺すため人気の無い此処までおびき寄せたのだ。もはや撤退は間に合わぬ。日向は立ち上がり、死神を正面に見た 25

2016-08-05 21:16:02
アナ・イゴール @KNPITNG

「ドーモ、ケンペイ天狗です」死神のアイサツが倉庫の壁に反響する。「ドーモ、ケンペイ天狗=サン。日向です」日向は両手を合わせアイサツを返すとコンマ2秒でイアイドを構えた。「気づかれていたか」 26

2016-08-05 21:19:07
アナ・イゴール @KNPITNG

「ブラック提督は匂う。小賢しい尾行がどれだけ上手かろうと私の鼻から逃れることは――」死神はそこで言葉を切り、小首を傾げる。その瞬間、銃弾が死神の右目から僅か1サンチの位置に着弾、オメーンに弾かれた。「――できない」死神の目が嗤う。視線の先には銃を構えたコダマ。 27

2016-08-05 21:22:07
アナ・イゴール @KNPITNG

「……ドーモ、ケンペイ天狗=サン、コダマです」苦々しげにオジギをしながらコダマは日向と死神を見比べた。追い詰められたのはどちらか?仲間の死から死神の戦闘力は痛いほど理解している。だが時間を稼げばすぐに援軍が来る。日向が時間も稼げず敗れることなどあり得るか?「日向」「ああ」 28

2016-08-05 21:24:50
アナ・イゴール @KNPITNG

イクサの空気が張り詰める。日向は死神の両腕を覆う深海艤装を睨んだ。砲撃でこちらを牽制しつつ夜戦距離でのカラテ戦闘に持ち込むのが奴の狙いだろう。だが日向には瑞雲がある、艦載機分だけ一手多い。初手の砲撃さえ回避したならば瑞雲の爆撃で隙を作りイアイドで切り捨てる。それで終わりだ。 29

2016-08-05 21:28:00
アナ・イゴール @KNPITNG

「ブラック提督、殺すべし!」ケンペイ天狗が叫んだ!「ズイウン!」日向は艦載機を放ち、来たる砲撃を回避せんとした。それで終わりだった。 30

2016-08-05 21:31:08
アナ・イゴール @KNPITNG

日向の目の前にはあの赤い目があった。ケンペイ天狗は一跳びで夜戦距離まで詰めていたのだ。鳩尾に死神の左膝が突き刺さっている。日向は血を吐きながらカタナを抜こうとした。「イア、イド……」カタナの柄頭は、死神の右手に固く押さえられていた。 31

2016-08-05 21:34:07
アナ・イゴール @KNPITNG

イクサは決した。倒れた日向を一瞥すると死神はコダマへ振り向いた。「捨て艦提督殺すべし」赤い目に貫かれコダマは呻く。「し、仕方なかったんだ。生き残るため、アイアンボトムサウンドに行けば誰だって」「関係ない、死ね。イヤーッ!」チョップがコダマの首を一撃で切断する!「サヨナラ!」 32

2016-08-05 21:37:27
アナ・イゴール @KNPITNG

……倉庫は再び死の静寂に包まれた。ケンペイ天狗は深く息を吐くと何かに気づき、耳をすませる。彼方から軍警車のラッパが近づいてきている。遅れ馳せながらの援軍、しかし多数。潮時か。ケンペイは気絶した日向を暫し見つめたのち、高く跳躍。窓ガラスを破って夜の闇へと溶けた。「イヤーッ!」 33

2016-08-05 21:40:10
アナ・イゴール @KNPITNG

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2016-08-05 21:43:10
アナ・イゴール @KNPITNG

日向が目を覚ましたのはそれからまもなくだった。彼女は仰向けに倒れたまま、廃倉庫の暗い天井をボンヤリと見上げていた。砕けた窓ガラスの向こうでは赤い髑髏模様の月が笑っている。床を見れば彼女の提督の死体。首無しの。 35

2016-08-05 21:46:12
アナ・イゴール @KNPITNG

日向は泣きも笑いもしなかった。共に死線をかいくぐった提督だ、尊敬も愛情もあった。だがインガオホーだとも思う。ただそれより意外なのは死神が自分を殺さなかったことだった。「……また死ねなかったよ、伊勢」日向は仰向けに倒れたままポツリと呟いた。赤い髑髏だけがその言葉を聞いていた。 36

2016-08-05 21:49:09
アナ・イゴール @KNPITNG

(【ロスト・カラード・ズイウン】 おわり)

2016-08-05 21:51:05