「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 #8
(これまでのあらすじ:ニンジャスレイヤーとナンシーによるラオモト・カン暗殺計画は失敗に終わった。何故?その答えは一日前に遡る。ニンジャスレイヤー=フジキドが隣人アガタを助けた善意が引き起こした偶然の連鎖がインガオホーし、ソウカイ・ニンジャ、ウォーロックの知るところとなったのだ。)
2011-01-10 14:18:28(鼻が利くソウカイヤのニュービーニンジャ、トラッフルホッグの自我を破壊して体を乗っ取ったウォーロックは、ニンジャスレイヤーの秘密PCへの物理ハッキングを試みる。この後に、なにが起こったのか。ナンシーはどうなったのか。読者の皆さんは目撃せねばならぬ!ゴウランガ!)
2011-01-10 14:26:07「さてそれでは、はじめさせていただきますよニンジャスレイヤー=サン」ウォーロックはPCの前で正座し、物理ハッキングを開始した……!
2011-01-10 14:35:08電源スイッチを入れると、安物のモニタ上に緑のベクタースキャンが飛び交い、やがて「塩梅」の電子毛筆体フォントを形作った。ウォーロックは眉一つ動かさずに、抜かりなくホームポジション上へすべての指を配置した。
2011-01-10 14:47:30「塩梅」がログインパスワードの入力を求めるよりも速く、ウォーロックはタイピングを開始した。タツジン!これは質問に先んじて質問する物理ハッキングのメソッド「ゼン・ドライブ」であり、ウーンガン・タナカ=サンが体系化したものだ。
2011-01-10 14:51:35ウォーロックが「塩梅」に要求したのは8ケタの掛け算だ!危険!ニンジャスレイヤーの秘密PCでは処理が追いつかない。「デキマセン」の文字がモニタに表示されかかるが、ウォーロックは容赦なく無意味な質問を矢継ぎ早に浴びせかける。
2011-01-10 14:55:02ダイダロスが廃人となった今、シンジケートで突出したタイピング速度を持つものはいなくなった。ウォーロックは最速の部類に位置する数人のニンジャの一人である。容赦ないゼン・ドライブが秘密PCを責め立てる。やがてモニタから白い煙が吹き上がった。「ホホホホ!可愛いものですね!」
2011-01-10 15:04:51ウォーロックが乗り移ったトラッフルホッグの首筋にはLAN端子がサイバネ増設されている。これは僥倖であった。浮浪者や下級サラリマンの体を乗っ取った場合、LAN端子増設は行われていなかったであろうから。
2011-01-10 15:10:54ウォーロックは左手で8ケタの掛け算を矢継ぎ早に要求し続けながら、右手で素早くケーブルを首筋に挿し、煙を吹き上げるPCに直結した!
2011-01-10 15:12:19「ホホホホ!ホホホホホ!さあ見せていただきますよニンジャスレイヤー=サン!ホホホホホ!」明滅する0と1の渦が網膜モニタを洗う感覚に恍惚としながら、ウォーロックは「塩梅」内の電子コトダマ空間へダイブした!
2011-01-10 15:32:10「エキサイティングは興奮する」。傾いた巨大ネオン看板には力強いゴシック体でそう書かれ、その寂しげな風情で、この廃映画館がかつてはネオサイタマの人々に興奮と憩いを提供していた過去を伝えている。無駄に広い駐車場の亀裂まみれのコンクリートに周囲を囲まれたこの建物はさながら陸の孤島だ。
2011-01-10 15:47:47窓ガラスのほとんどが割れ砕け、調度も荒らされ尽くした廃墟であったが、壁沿いには電源ケーブルがヘビめいて這い、ところどころに配置されたヨタモノ除けのブービートラップ類や小型ボンボリが、この建物がいまだ打ち捨てられてはおらず何らかの用途としていまだ生きている事を示していた。
2011-01-10 17:03:04ナンシーはPCモニタから顔をあげた。あくびをひとつつき、凝った背中を伸ばす。ナンシーはこの廃映画館の管理人室を借用し、計器類を持ち込んである。今回の暗殺作戦にあたっての暫定の観測基地だ。
2011-01-10 17:09:49廊下へ出ると、壁に空いた大きな穴から、駐車場や廃棄された車、ビル街、朝まだきの曇天が見える。ナンシーは陰鬱な光景を前に、湯気の立つコンブ・カフェをすする。
2011-01-10 17:18:42事前に打てる手は打った。長い、長い道のりであった。数時間後、すべてが始まり、終わる。リアルタイムでニンジャスレイヤーをサポートするのが自分の仕事だ。それまで仮眠でもとって、酷使したニューロンを休めねばならない。
2011-01-10 17:32:59この廃映画館に機材を持ち込むにあたり、ナンシーはあらかじめネットワーク上に偽の情報リークを行ってある。マッポの中隊が武装してハリコミを行っているという内容だ。よって、一定以上の規模の組織はあえてこの場所へ踏み込まない。情報弱者のヨタモノはブービートラップで十分だ。
2011-01-10 19:59:35オートバイから降りた人影はただのヨタモノだろうか?こちらへ来るだろうか。ならば、ブービートラップを発動してご退場いただくことになるだろう。だが、この胸騒ぎは?ナンシーは訝った。嫌な予感、としか言いようがない。ナンシーは壁の穴から身を離し、管理人室へ戻ろうと……「!!?」
2011-01-10 21:03:29振り向いた彼女の眼前に音も無く立っていたのは、ニンジャである!マンリキめいた握力によってナンシーは首筋をつかまれ、床から浮き上がった!「アイエエエ!?」「ドーモ、y,c,n,a,n =サン……読み方はわからんが!ハッハ!」「アア……!」ナンシーはもがいた。ニンジャ、何故……!
2011-01-10 21:17:26「ドーモ、私はバジリスクです」ナンシーを吊り上げたまま、ニンジャはアイサツした。ウロコめいた硬質のニンジャ装束。奇怪なデザインのメンポからのぞく邪悪なルビー色の視線がナンシーを射抜いた。「残念ながら、お前の企みはツツヌケだ。クンクン嗅ぎ回るネズミめ!」「離し、離して……!」
2011-01-10 21:37:31「ハハッハハ!か弱い!なんたるか弱さ!これがニンジャスレイヤーのアキレス腱か!ハッハハハ!」バジリスクが笑う。指先の力を少し緩め、ナンシーに呼吸を許す。「さあ。まずは名を名乗れ。ブロンド女と言えど、戦さの礼儀は知っておろう」「ペッ!」返答のかわりにナンシーはツバを吐き掛けた。
2011-01-10 21:57:36