金融とブロックチェーンと FinTech の行方
ブロックチェーンは、このビザンチン将軍問題を解いている、と考える人たちも多いのですが、私は解けていないと思います。伝令の不達により将軍のネットワークが分断されれば合意は保証できません。
2015-11-12 05:57:29『次回のマイニングは時刻Xまでに終了するというような保証、そして、それにより生まれた新たなブロックがブロックチェインの分岐により将来無効にならないという保証は、100%にはできない…』#斉藤賢爾「未来を変える通貨」p.148 → ファイナリティが無いという、このことも関係します。
2015-11-09 14:45:42分散サービスの「CAP定理」というものがあり、Consistency, Availability, Partition tolerance を 3つ同時に実現することはできません。Consistency (一貫性)は、過去のアクションが現在に正しく影響を及ぼすことを意味します。
2015-11-12 05:58:31Availability (可用性)は、リクエストに対して 100% レスポンスが返る (それが正しいかは問わない) ことを意味します。Partition tolerance (分断耐性)は、メッセージが未達の場合でもシステムが動作することを意味します。
2015-11-12 05:58:59ブロックチェーンは A と P を実現するように設計されていて、C は確度を保証していません (確かであるという確率が上がっていくだけです)。これは、方向性としては、応用分野によってはアリな考え方だと思います。
2015-11-12 05:59:31しかし、実世界における応用では、公知化・共有化マシンとして考えた場合、C と P を実現するのでなければ実用にならないのです。A はそれが損なわれる時間を最小化することで対処します。
2015-11-12 05:59:57私が開発に携わった Orb version 1 では C と P の実現の方に大きく設計を倒して、従来のブロックチェーンとはその面で異なる動作をするものになっています。
2015-11-12 06:00:19『2つめは、ブロックチェイン方式のスケーラビリティに対する懸念です』#斉藤賢爾「未来を変える通貨」p.164 → この辺は拙著ではスマートコントラクトによる自動化された世界の話をしているのですが、金融への応用を考えても同様の懸念が。要は実世界と組み合わさるときどうか、ということ。
2015-11-09 14:49:05参加ノードが増えることで負荷が分散されるならシステムはスケールできますが、ブロックチェーンではそうなっていません。同じデータが複製されているという意味では、読み出しについてはよいのですが、書き込みと検証の部分は全員が同じことをして全部のデータを持たなければなりません。
2015-11-12 06:03:19そして、読み出しについては consistency (一貫性) が保証されていないのですから、結局、信頼性の面で難があります。
2015-11-12 06:03:40例えば、ビットコインで支払うと上空からドローンが缶ジュースを落としてくれるというサービスを作るとして、いつの時点で缶ジュースを落とせばよいのか、というのは実は現在のブロックチェーン技術では簡単な問題ではありません。支払ったという事実は確度を上げていくだけで、確定しないからです。
2015-11-09 15:00:46これは単にふたつの金融機関の間で資金を移動した、という状況を考えてみても同じですね。もっとも、資金の移動については、誤ったらやり直す、という選択肢があるのかも。ただ、いずれにせよ、確率的に動作するブロックチェーンは、確実に時が過ぎていく現実のプロセスとは相容れない側面を持ちます。
2015-11-09 15:09:48CAP 定理のうち、C と P を実現するのでなければ実用にならないというのは、実時間・実空間の応用までを考えたときです。
2015-11-12 06:04:28スマートコントラクトを実用化しようと考えるのならば、どうしてもトランザクションを制限時間内に確定させる技術が必要になってくると思います。それは現在のブロックチェーンとは異なる技術です。
2015-11-12 06:04:49金融とはそもそも何か。FinTech はどんな意味を持つのか。
ここでいったん、「インターネットと金融」からの引用に移ります。話は、むしろ FinTech の意味、みたいなことかも知れません。
2015-11-09 15:13:09『現代の貨幣経済では、経済活動は事業として経営されるが、資金調達や決済などの標準化された機能を持つ金融は、まさに経済活動のプラットフォームと呼ぶに相応しい』#斉藤賢爾「インターネットと金融」角川インターネット講座10 p.243 → 計算機に喩えれば金融は社会のOSの一部。
2015-11-09 15:16:58『現代は貨幣の分布が極端に偏って…金融の失敗を表していると同時に…金融が自己の存在意義を強化する要因ともなっている。金融がシステムとして失敗すればするほど、貨幣は渇望され、その力は強化されるのである』#斉藤賢爾「インターネットと金融」角川インターネット講座10 p.244
2015-11-09 15:19:44ところで、メディア(=技術)は、その利用が極端に突き進んでいくことにより、むしろ正反対の性質が現れるようになる、ということをメディア学者のマクルーハンは言いました。
2015-11-12 06:05:54『金融と貨幣経済の価値観が徹底的に追求されることを通して、逆に私たちが知る金融の姿を時代遅れにするような変化が起きるのかもしれない。この章の目的は、その兆しを明らかにすることである』#斉藤賢爾「インターネットと金融」角川インターネット講座10 p.245
2015-11-09 15:21:50『…イーサリアムが…現在の金融・貨幣経済システムを時代遅れにする意図をもって…開発されていることを示している。しかし…ビザンチン将軍問題の解として…などの面で…ブロックチェインの技術には問題がある…』#斉藤賢爾「インターネットと金融」角川インターネット講座10 p.255
2015-11-09 15:27:08(注 : 「イーサリアム」は、ブロックチェーンにプログラミング言語を内包して自由にアルゴリズムを記述できるようにし、デジタル通貨以外にブロックチェーンを応用しようという試み。)
2015-11-09 15:29:23イーサリアムは経済活動一般のためのプラットフォームになろうとしているので、現在の金融・貨幣経済システムを置き換えうるポジションを狙っているということになります。
2015-11-12 06:07:12