【HYDE】Another Story - はじまり -

これは贖罪の戦士が出会った、とある狩人との物語。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

すぐに振り落とされはしたが、ラオンは完璧な受身を取りすぐに立ち上がった。「馬鹿野郎!勝手な行動は」「スオウ教官、」スオウの言葉を、ラオンが遮る。「…確かに怖いです。でも、私達だって許せないんです。仲間を…目の前で失った事実を、相手を」。その瞳は、もう恐怖に染まっていなかった。49

2015-11-10 22:47:10
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…あぁ、」。不意に、巨大な体がバランスを崩した。無残に割れた後脚の爪が方々に散る。「っ…イース教官!」。彼らの目の前に、割れた兜を脱ぎ捨てたイースの姿。「でも、これは俺達の責任でもある。君達まで危険な目に合わせるわけには、」「何を言うんです。ボロボロなのは教官の方です」。50

2015-11-10 22:52:10
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ラティに一蹴されてしまい、その力強さに思わず口を噤んでしまう。「私も怖いです、…でも」。ギュッと手の中の弓を握り締め、足に力を入れてローデも立ち上がった。「私だって戦います。この弓は…飾りじゃない!」。ラオンは相変わらず臨戦態勢だ。もう訓練生じゃないのだから。彼らは言った。51

2015-11-10 23:01:21
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ーーー暫く攻防戦が続いた。訓練生達も、今までの経験を生かして必死に相手に食らいついている。攻略の糸口を探るべく、教官2人は対象を観察しつつ弱点を探した。…その時は、突然訪れた。ちょうどイースの鉄槌が前脚の爪を一部砕いた、その直後だった。「えっ、」。声と同時に轟く、爆音。52

2015-11-10 23:04:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

振り返ると、惨劇が再びイース達の視界を支配する。ラオンの周りの緑は鮮やかな赤色に染まり、その手から武器は消えていた。いや、正確には”その手と武器”。何が起こったのか、その場にいる全員が理解出来ずにいた。思考回路が停止する、とはまさに今この瞬間の事を指すのだろう。53

2015-11-10 23:08:06
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

すぐさまラオンの悲鳴によって思考は無理やり現実へと戻された。無くなった右腕の根元からは血が溢れ出し、止まる気配を見せない。駆け寄れば自らにも死が迫り、しかし駆け寄れど救える保障など無い。その場に崩れ落ちる彼女を、ただ見やる事しか出来ない。更に不幸は続く。次の悲鳴は、背後から。54

2015-11-10 23:12:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

しかし悲鳴の主は生きている。瞳に恐怖の色を浮かべ、その場にへたり込んでワナワナと震えているのは、ローデだ。その視線の先には。「……っ!!!」。イースもスオウも目を背けたくなる光景。上半身を失ったラティの体が、ゆっくりと倒れていく。まるで凄まじい衝撃によって吹き飛ばされた様な。55

2015-11-10 23:16:28
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…な、んだってんだよ……」。スオウの声は、呆気と絶望を含むものだった。続け様に沈む仲間の姿、未だ解明できない攻撃の数々、瞳を埋め尽くす鮮やかな赤。「っ!」。仲間への想いも言葉も、紡ぐ事は決して許されない。襲い来る巨躯は、その時間を与えてはくれない。爪がイースをかすった。56

2015-11-10 23:19:26
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

何ら支障は無い程度のものだったが、イースは傷ついた腕の装甲に付いたある物に気付いた。「…?」。それは、赤くちらつく粉という表現がしっくり来るようなものだった。(……これは、まさか)。思い当たる節はあった。しかし。イースはその装甲を外し、空高くへと放り投げた。瞬間、砕け散る。57

2015-11-10 23:31:34
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…やはりか!」。イースはその状況にある答えを見出し、スオウに叫んだ。「こいつは爆破属性を持ってる個体だ!」。”爆破属性”、彼らはブラキディオスとも一戦交えた事があり、その属性については知っていた。が、この個体の粉塵は小さい内に大爆発を起こすものだった為、反応が遅れたのだ。58

2015-11-10 23:34:15
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「んだって!?」。攻撃をかわしつつローデを安全な場所へと誘導していた同僚は、その事実に驚きの声を上げる。「俺の知ってる粉塵は明らかに目に見える…爆発もあんなに強くないはず、」「だからこそ、こいつは一筋縄ではいかない…」。イースの言葉は苦しさに歪んだ。先程の情景が脳裏をよぎる。59

2015-11-10 23:36:42
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ラティの体は昔の面影など無く。ラオンの体も、いつの間にか動く気配を見せなくなっていた。己の無力さを嘆く暇も無く、尚も赤き轟竜は己を襲い来る。「っ…くそ!!」。咆哮が耳を貫く。が、イースは構わず巨躯の下へと走り込んだ。その顎が降りる瞬間、ハンマーを上へと振り上げる。60

2015-11-10 23:42:21
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ガキン、という衝撃と共に相棒が宙を舞う。その手から武器が弾き飛んだのを、イースは数秒遅れて理解した。手を伸ばしても届かぬ距離へと飛んだ鉄槌。死が、影となって彼の姿を覆う。しかし。「ダメっ!!!」。空気を大声が震わし、その巨躯へと矢が降り注いだ。「教官!教官!逃げて!!」。61

2015-11-10 23:49:14
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ローデ!!よせ!!無闇に矢を放つな!」。イースの悲痛な叫び声は彼女に届いたのか。だが、矢を放つ事を止めようとしない。攻撃の機会を伺っていたスオウが制止する間も無く動いたようで、その場からローデを逃がそうとする彼の姿も見受けられた。幸か不幸か、今、赤き轟竜の注意は彼女にある。62

2015-11-10 23:52:52
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「っ!!」。ならば、と。自分への注意が殺がれた隙を狙って、イースは再び鉄槌を手に戻した。今ならまだ此方に注意を戻すのに間に合う。しかし。巨躯はその場から動かず、その前脚を上へと振りかぶった。「っ危ない!!避けろ、ふたりとも!!」。刹那、抉られた大地から粉塵を纏う岩が飛んだ。63

2015-11-10 23:55:18
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

地に着くと、次々と爆発を繰り返す岩の嵐。黒く立ち昇る煙でその場の情景がブラックアウトする。生も死も確認出来ない。イースは何かが崩れ落ちる音を聞いた気がした。ただ頭にあるのは…燃えるような怒りの念。己への、そして、目の前の存在への。折れるほどに握る鉄槌を、力任せに振り上げた。64

2015-11-10 23:59:52
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

どこにそんな力が残っていたのか、その大きな口に生える牙が数本砕け散った。鈍い呻き声を上げ仰け反る赤き轟竜。イースはただ一心不乱にその手を振りかぶる。しかしその甲殻はやはり硬い。その攻撃が弾かれた一瞬の隙をつかれ、金属を思わせる様な硬い尻尾がイースの体を打ち飛ばした。65

2015-11-11 00:05:10
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ーーーっ!!」。先程地面に打ち付けられた時とは比べ物にならない衝撃が、彼の体に走る。痺れたように動けない。眩暈を起こしたように視界が定まらない。受身を取れないままに受けた衝撃は、疲労を重ねたイースの体には重すぎた。迫る気配と殺気に、イースは、静かに死を悟った。66

2015-11-11 00:07:19
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

構いはしない。何も守れなかった非力な己など、待つのは死しかない。自分の無力さを恨む事を許された、唯一の時間。自分を慕ってくれた4人の若い狩人達。俺の元でなければこんな末路では無かったのではなかろうか。大切な同僚。俺がもう少し冷静なら、彼も今まだ地に足を着けていたのでは…。67

2015-11-11 00:10:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

息がかかる距離にまで迫る牙が、死へのカウントダウンだった。せめてあと少し、無力さを嘆く時間を。「…おいおい、ちょっと待てよ」。不意に聞こえた、聞き慣れた声。ずっと身近で聞いていた、”もう一人の相棒”のもの。イースの体を飲み込んだであろう大きな顎は頭上で止まり、影が彼を覆う。68

2015-11-11 00:14:25
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……俺を忘れて、お楽しみとはいい度胸、だな」。不敵に笑うスオウの表情は、イースからは見えない。ただ彼の視界を染めるのは、半身をヘビィボウガンごと鋭利な牙の鎮座する口へと飲み込まれた、友の姿。「………、ス、オ…、、」。イースの声は、共に数多の戦場を駆けたその名を、紡げない。69

2015-11-11 00:26:03
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……最後に、一発お見舞い…してやるよ」。スオウの言葉は、力強く発せられている。一瞬の出来事が、長い長い永遠のように感じられた。次の瞬間、スオウの腕が飲み込まれた辺りから、衝撃と共に何かが飛び出した。ボウガンの弾だ。それは赤き轟竜の体を抉り貫いて空へと消えていった。70

2015-11-11 00:31:38
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

悲痛な呻き声と共に、巨躯が大きく後ろへ仰け反った。反射的にスオウの体は解放され、イースのすぐ隣に倒れ込んだ。赤い体に存在したはずの紅に輝く双眼の内ひとつは、体内からの弾丸で見事に貫かれて輝きを失っていた。苦痛に何度も咆哮を上げながら、その体を引きずるように歩き、空へと消えた。71

2015-11-11 00:36:15
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

一瞬、あまりにも一瞬すぎる出来事。イースは自分が生きているのか死んでいるのか、それすら暫く理解出来なかった。が、足下に当たる感触を受け、状況を理解する思考を取り戻す。悲鳴を上げる体に鞭を打ち、激痛に耐えながら体を起こす。目の前に広がる光景に、真実を受け入れるほかなかった。72

2015-11-11 00:38:38
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…………ス、オウ、」。彼のそばで倒れ伏す唯一無二の友。その体は、無惨に引き千切られ、辛うじて形あるものとして存在していた。幸い、まだ息はある。イースは何度となく、その名を呼んだ。「スオウ、スオウ……っスオウ、」「…ばか、聞こえてる」。幾度目か、小さな声で返答があった。73

2015-11-11 00:40:37