◇ニンジャ二次創作◇【デッドブックス・イン・ザ・デッドライブラリ】◇初挑戦◇

柊 @hiiragi_r_t_d

それはほんの少し、例えるならスシ・バーでタマゴを先に頼むか、後に頼むかといった程度の些細な違い。しかしそのズレは、ニンジャのイクサでは致命的だ。 刃に対して垂直に加えられるはずだった力が、斜めにずれる。折り取られる筈だった刃はブックマンの左腕をケジメした。 47 #hollytk

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切断された左腕と、折れた刃が宙を舞う。 アンクーは飛び下がって距離を取り、呼吸を整える。 「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ」 鎌の刃がゆっくりと再生する。これが彼の本来のジツだ。先程までのイクサで見せたような高速再生は、本能に基づいたイクサでしか発揮できぬ。 48 #hollytk

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ブックマンは己のケジメされた両腕を眺め、軽く肩を竦める。大きく息をついたアンクーは、腕を無くしたブックマンに言い放つ。 「ハァーッ……そろそろ終わりにしようじゃねえか、ズンビー野郎」 アンクーの瞳に、血の色の輝きはもはやない。彼は重々しい溜め息をついた。 49 #hollytk

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「ハ、もうちょっと遊んでいこうぜ」 ブックマンは失った両腕をX字に交差させて構え、上体を軽く沈めた。 「どうだ？上手くできてるか？」 「さぁ、知らねえな。何の構えだ？」 「古代ローマカラテ、第二の構え」 ブックマンはギラリと目を輝かせる。 「鷹の構えだ」 50 #hollytk

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眠らぬ街ネオサイタマ。ケミカルな光を灯すネオンの下では、無数のビズと無数のカネが蠢いている。今、その中の小さな一つが終わろうとしていた。 ここはハイウェイの下。荷重制限を150%オーバーしたトラックが行き交う度に、パラパラとコンクリートの欠片が降り注ぐ。 52 #hollytk

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「ドーモ、ジャッカルベリー＝サン。アンクーです」 「ドーモ、アンクー＝サン。ジャッカルベリーです」 二人の男がアイサツを交わす。一人はボロ布めいたクロークに髑髏の下顎を象ったメンポ。一人は上品な光沢を放つ黒いニンジャアーマー。両者共にニンジャである。 53 #hollytk

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「ジャッカルベリー＝サン、これが報告書だ」 アンクーが情報素子を投げる。ジャッカルベリーは大樹の大枝めいた腕で素子を掴み取り、そのままニンジャアーマーの裏に収めた。 「確認しねぇのか？」 「貴方はビズで嘘をつかない。私は貴方を信用しています」 54 #hollytk

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「ハッ、そりゃあどうも」 アンクーは通信端末を開いた。 「カネは？」『問題ないわ』 相棒からの通信を受け、アンクーは踵を返す。 「ジャッカルベリー＝サン、オタッシャデー」 「今日は死神が出ているそうですから、お互い気を付けましょう。オタッシャデー」 55 #hollytk

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「死神、か」 アンクーは独り、メンポの奥で薄く笑った。 死神。近頃、ネオサイタマでニンジャを殺して回っている狂人だ。シックスゲイツを破ったという噂はここ数日でフリーランスのニンジャ達にも知れ渡り、ジャッカルベリーは死神警報システムを構築しようと企んでいる。 56 #hollytk

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アンクーは己にニンジャとしての生き方を教えた男を思い出す。彼もまた、死神に殺された。アンクーはそれを、通信端末の向こう側で聞いていた。 『どうかしたの？』 「いや……あの図書館はこれからどうなるんだ」 『取り壊して、再開発ビジネスの対象になるはずよ』 57 #hollytk

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咄嗟に出た質問にすぐ答える相棒の几帳面さに舌を巻きつつ、アンクーは空を見上げる。 「あの本はどうなる」 『電子戦争以前の遺物といっても、大量生産の廉価本よ。廃棄処分か、ヨタモノのキャンプファイヤー行きじゃないかしら』 「……そうか」 『本、好きだったの？』 58 #hollytk

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「いや。……なあ、本ってのはいつ死ぬんだろうな」 『誰にも読まれなくなったら、じゃないかしら』 元カチグミの妻であり、自身も高い教育を受けた相棒の答えに、アンクーはあの図書館を思い出した。 「なら、あの図書館はとっくの昔に死んでたってワケか」 『そうね』 59 #hollytk

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死んでいる図書館に、死んでいるニンジャ。 「なあ、ウェパル。俺が死んだらどうする？」 通信端末の向こうから、すぐに相棒の冷たい声が返ってきた。 『新しい雇い主を探すわ』 「ハッ、そりゃごもっとも」 『でもそれは面倒だから、なるべく長く雇って欲しいわね』 60 #hollytk

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「ハッ、なるほどな。まあ安心しろ。俺のモットーは」 「『死んだら終わり』」 通信端末の向こうと声を揃え、アンクーは自らの信条を唱える。 「よし、今日はスシにしようぜ。久しぶりにマトモなイクサをやって、だいぶ疲れちまった」 『経費で落としておくわ』 61 #hollytk

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「だな。ジャッカルベリー＝サンに払ってもらおう」 ボロ布めいたクロークをきつく体に巻き直し、アンクーは誇り高きカラテ戦士を思い出す。 「アバヨ、ブックマン＝サン」 死者に向けた小さな呟きは通信端末のマイクにも拾われることはなく、不穏な灰色の空に消えた。 62 #hollytk

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【デッドブックス・イン・ザ・デッドライブラリ】終わり ◇ #hollytk ◇