「石田三成の青春」第7話 「浮き城 忍城水攻め」

「新選組 試衛館の青春」「独白新選組」の著者 松本匡代先生によるTwitter小説です。
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松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

無論、三成にも、その文が、自分の文への返事ではないことは承知している。自分の文を読む前に書かれたものだということはわかっているのだ。しかし、秀吉の文からは、秀吉が、水攻めを望んでいることが見て取れる。 殿下が望んでおられる。 三成にとって、それが何よりの判断基準だ。 #浮き城

2015-12-05 20:08:41
松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

殿下が間違ったことをなさるはずがない。 その思いは、信仰に近い。 そのことは、秀吉も充分承知している。 あの時からだ。 秀吉は八年前に思いをはせた。 #浮き城

2015-12-05 20:09:33
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秀吉は、本能寺の変の起きることを事前に知っていた。知っていて信長にそれを伝えず見殺しにした。全ては天下を手中にするためだ。 自分の方が信長様より、より良い世を作れる。 そういう自負があった。 #浮き城

2015-12-05 20:10:57
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しかし、いくら言い繕っても、主を見殺しにした言い訳にはならない。 三成はそのことを知った。そして嫌悪した。しかし、自分ではどうすることも出来ない。 悩み苦しんだが、世に中は治まり、人々の暮らしも以前より良くなっている。 #浮き城

2015-12-05 20:11:53
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よかったのか。 が、 よかったんだ。 になり、やがて、 我が殿・秀吉様のなされることは、絶対に正しい。 となっていった。 今や、秀吉自身が呆れるほどだ。 #浮き城

2015-12-05 20:13:27
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たぶん、明日か明後日には、堤造りに取りかかったとの報告が届くだろう。 やめろと言ってやろうか。 秀吉は、ふと思った。だが、すぐに思い直した。 遅いのだ。 #浮き城

2015-12-05 20:15:13
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もう諸将に、築堤を下知したに違いない。それを、上から秀吉が止める。そんなことをしたら、総大将としての権威は吹っ飛んでなくなる。 本丸が沈まずとも、周りに水を入れ囲んでおればやがて落ちる。 秀吉は、安易に考えていた。 #浮き城

2015-12-05 20:16:10
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たかが三千が籠る城。それも城主は小田原城に入っていて留守だ。こちらは二万。勝敗は誰の目にも明らかだ。 #浮き城

2015-12-05 20:16:52
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他人にない才がある故に、いつも兵站だの事前・事後の交渉だのと縁の下の力持ち的な役割ばかりで戦場での派手な手柄の少ない三成。この人事は、そんな三成に手柄をたてさせて箔をつけるさせるためのものだった。 気楽にやればよい。 秀吉は、あくまでも楽観的だった。 #浮き城

2015-12-05 20:17:36
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それにしても、あやつは……。 秀吉は、自分を絶対視する三成を思い、また、苦笑した。 悪い気はしない。可愛くないはずがない。だが、こうも無条件に信頼されると、 わしも人間、間違うこともあるぞ。 と、日本一の頭脳と自負し、位人臣を極めたこの男には似合わぬ思いも湧いてくる。 #浮き城

2015-12-05 20:19:05
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佐吉よ。 秀吉は目の前に三成がいるかのごとく、幼名で呼びかけた。 独り立ちせよ。お前には充分過ぎるほどの力があるのだ。 #浮き城

2015-12-05 20:20:08
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独り立ちを望むと言いながら、先日のような文をやり、結果的に、三成の行動を縛ってしまっている矛盾に気がつかない。この瞬間の秀吉は、主、師匠を超えて、父親なのかもしれなかった。 #浮き城

2015-12-05 20:20:54
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「石田三成の青春」 第7話 「浮き城 忍城水攻め」第3回 これにて終了です。 今宵もお付き合いくださり、どうも有難うございました。 明日も、どうぞお楽しみに! #浮き城

2015-12-05 20:23:03
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お待たせいたしました。 「石田三成の青春」第7話 「浮き城 忍城水攻め」第4回 ぼちぼち始めさせていただきます。 #浮き城 pic.twitter.com/UQylCb17JZ

2015-12-06 20:00:23
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(三) 俺ってすごい! 三成は、丸墓山から眼下に広がる光景を眺め、そう叫びたい衝動を辛うじて抑えた。 半刻前、堤造りの全ての作業が完了したと報告を受けたのだ。三成はすぐに丸墓山に登った。 #浮き城

2015-12-06 20:01:32
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堤を築き始めてから七日。高さ二間、上底幅三間、下底幅六間、全長七里の堤が出来上がったのだ。無論、一から全部を作ったのでは、これほど早く出来るはずがない。自然堤防や微高地を巧みにつなぎ合わせた。そしてそれは全て三成自身が指示をしたものだった。 #浮き城

2015-12-06 20:02:29
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普請は、金に糸目をつけず、人を雇った。お互いに競わせて、出来た結果の質と量によって賃金を決めるやり方は、皆にやる気を起こさせる。  全長七里は、高松城の七倍だ。眼下に見下ろす光景は、なんとも雄大で、心地よく、 俺がやった。 三成を暫しの間酔わすには充分であった。 #浮き城

2015-12-06 20:03:47
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が、三成の陶酔はごく短い時間で終わった。 「大谷刑部少輔様、おみえにございます」  の声が終わらぬうちに、 「何を一人でニヤついておる」  ズカズカと大股で登ってきた吉継に、背中をどやされた。 #浮き城

2015-12-06 20:04:59
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「何を言う。誰がニヤついてなどおるものか」  三成は言い返し、殊更に難しい表情を作り吉継を睨んだ。 自分を睨む三成にからかうような笑顔をむけて、吉継は、 「まあ、よい。どれ、俺も堤見物をさせてもらおうか」  そう言って、三成の隣に並んで立った。 #浮き城

2015-12-06 20:05:42
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どうだ。  三成は無言で吉継を見つめた。 「よくこれだけのものをこの短い間に築けたものだな」  吉継がそう言って溜息をついている。 「ああ」  三成は短く答えながら、  ひょっとしたらうまくいくかもしれない。  と思っている自分に気がついた。  どうだ。 #浮き城

2015-12-06 20:08:02
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見ると、吉継も満足げに表情を緩めている。  こいつも自分と同じように思っているに違いない。  三成は確信した。  冷静なこの男にしては珍しく、「本丸のある土地が周りよりもすこしだけ高い」という現実を忘れたかのようだ。それほどに自分の仕事の成果に酔っていた。 #浮き城

2015-12-06 20:09:42
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「殿下をお招きするのか」  堤が出来上がったら見に行くと書いてあった秀吉の文を思い出したのだろうか、吉継が訊ねた。 「いや、あれは我らを励ます方便じゃ。女子を呼び寄せ、茶会などなさって半分遊びのようにしておいでだが、まさか陣をお離れになることはあるまい」 #浮き城

2015-12-06 20:10:32
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答えながら三成は、  殿下はこれをご覧になったら、何とおっしゃってくださるだろう。殿下にお見せしたい。  言葉とは反対のことを考えていた。 #浮き城

2015-12-06 20:11:24
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「いつ水を入れる」  吉継の問いかけに我に返って、 「明日だ」  三成は答えた。 「そろそろ雨も降る」 「そうだな。その雨も我らを手伝うてくれようて」  二人は揃って、目を天に向けた。 #浮き城

2015-12-06 20:12:09
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少し前より雲の流れが速くなっていた。  堤を築く間中、邪魔な雨は降らなかった。その一事をもってしても、 ついている と、三成は思う。  大雨が降り、ひょっとしたら本丸も沈むかもしれない。  この男にしては珍しく、手前勝手に楽観的な予測を立てていた。 #浮き城

2015-12-06 20:13:25