「石田三成の青春」第7話　「浮き城　忍城水攻め」

松本匡代@早耳屋お花事件帳＆試衛館の青春＆独白新選組＆夕焼け土方歳三はゆく＆石田三成の青春 @mk106732

（四） 　たいした男だ。 　吉継は自分の陣地に戻っていた。水攻めと決まっているから、将たる吉継には取り立ててすることはない。小姓を下がらせ、一人になった吉継は、三成のことを思った。 #浮き城

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あれだけのものを七日で仕上げるとは、やはり只者ではない。しかも、指示は殆ど三成一人が出している。もっとも、自然堤防や微高地を巧みにつなぎ合わせるなどという築堤法はここに来ている将たちの中で三成にしかできないことだから、致し方ないのだが。 #浮き城

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吉継は、あらためて三成の偉大さを思う。 　ひょっとしたら、そういう才は、殿下以上かもしれない。あやつに、殿下のような「人たらしの術」があれば、天下がとれる。 　そこまで考えて、吉継は 　ないものねだりだな。 　と、苦笑した。 #浮き城

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三成は、他人の心を慮るということが苦手なようだ。このように言うと、三成が思いやり、やさしさに欠ける人間のように思うが、そうではない。ただ三成自身が、切れすぎる、真っ当すぎるのだ。だから周りの者たちのちょっとした間違いや不正が理解できない。理解できないことは問い正す。 #浮き城

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三成にしてみればそれだけのことなのだが、相手は間違いを責め立てられた、不正を糾弾されたと思い込む。そんな輩が、 　治部少は器量が小さい。 　と言い立てた。 #浮き城

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吉継に言わせれば 「どっちの器量が小さいんだ」 　ということになるのだが、世間には悪い評判ほど広まりやすい。 　冷徹 ならまだいい。 高慢で冷血 石田三成像が出来上がっていた。 #浮き城

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可愛いところもあるのになぁ。 吉継はつい先ほどまで一緒にいた三成を思い出していた。 自分が築いた堤を眺めて、自分の才能に酔いしれていた。それを見透かされた時のはにかんだ様子。思わず微笑んでしまうほど可愛かった。 #浮き城

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あの可愛らしさを知っているのは、おそらく殿下と自分だけだ。 吉継は、三成を嫌っている者たちに教えて回りたいような、また反対に、誰にも秘密にしておきたいような、不思議な気持ちになっていた。 #浮き城

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｢石田三成の青春｣　第７話 「浮き城　忍城水攻め」第４回 これにて終了です。 今宵もお付き合いくださり、どうも有難うございました。 明日（最終回）も、どうぞお楽しみに！ #浮き城

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お待たせいたしました。 「石田三成の青春」第７話 「浮き城　忍城水攻め」第５回（最終回） ぼちぼち始めさせていただきます。 #浮き城 pic.twitter.com/wzffYPfMf6

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（五） 翌朝、堤の中に水が入れられた。 吉継は三成とともに丸墓山に登ってそれを見た。吉継の脳裏に八年前の備中松山城の光景が若き日の感動とともに蘇った。特に、城主・清水宗治の船上での切腹という荘厳な死の儀式を目の当たりにして、敵ではあってもその潔さに感銘を受けた。 #浮き城

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信長の死を秘しての講和であっただけに、少なからぬ後ろめたさを感じ、主・秀吉、そしてその上の信長に、批判めいた考えを持ったことを思い出した。 この男は、あんなことはするまい。 隣に立っている三成を見た。 #浮き城

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あのとき三成は、義憤に燃えていた。それを吉継がなだめすかして……。 吉継は、船上の敵将を見つめる三成の何とも言えぬ表情を記憶していた。 そこまで思って吉継は、この水攻めの成功を思っている自分に気がついた。 #浮き城

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吉継がこうなのだ。自分の作品のような堤に水が入っていくのを見ている三成が、成功を思うのは無理からぬことだ。ましてや他の将兵たちは、この水攻めの困難さを二人のようにわかってはいない。 この時、攻め手の将兵誰もが、勝利が近いことを確信していた。 　だが……。 #浮き城

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昼過ぎから雨になった。 　雨脚がかなり激しい。梅雨明け前の豪雨だ。 　吉継は、外に出て見た。水嵩は増している。二の丸、三の丸は、浸水しているようだ。だが本丸は、豪雨の中でも、ぽっかりと、まるで浮かんでいるかのようだ。 　やはり沈まぬか。 　吉継は呟き、溜息をついた。 #浮き城

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夕刻から、雨はさらに激しさを増した そして、深夜 ゴーッ 激しい水音に飛び起きた吉継は、 「堤が決壊したようでございます」 との注進受けた 城を沈める水が、一気に攻め手の方へ押し寄せているという 「兵馬を高台に移動させよ」　 そう命じて吉継は、自らは丸墓山に急いだ #浮き城

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丸墓山の頂に登ると既に三成が、城と堤を見下ろす位置に立っていた。 「切れるはずはないのだがな」 　吉継の姿を見るなり三成が言った。 「敵の大将は、人気があるようだな」 「え」 #浮き城

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「手抜きだ。工夫の中に敵将を慕うものがかなりの人数混じっていた。わからぬように、切れる細工をされたんだ。おぬしの計算に誤りのあろうはずがない」 　吉継が言ったことは、慰めでも気安めでもない。吉継の正直な気持ちだった。 #浮き城

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三成の指示通り造られていたら、いくら豪雨だとはいえ、決壊するはずはないと信じている。 「そうだな」 　答える三成の表情が和らいだ。 　雨はいつの間にかやんでいた。 「明日の朝、諸将に集まっていただく。堤を壊し、打って出る」 　そういう三成の表情に、迷いの影はない。 #浮き城

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水攻めの呪縛から解き放たれたな。 　吉継は、ほっとする思いで三成を見つめた。 　夜が白々と明け始めた。 忍城の本丸が、眼下に姿をあらわした。それは昨日と変わらず、ぽっかりと水に浮かんでいるようだった。 #浮き城

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（跋） 結局、忍城は落ちなかった。七月小田原本城が落城したため、落城せぬまま開城となる。 二万の大軍でたった三千の守る城を落とせなかった三成は「戦下手」といわれた。 三成に箔をつけるための秀吉の人事が、全く逆効果になってしまった。 #浮き城

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陣を払い馬を歩ませる三成の背中を見つめる吉継が、 お前は、よくやった。すごい奴だ。そのことを、殿下はよくご存じだ。俺も知っている。 心の中で語りかけた。 #浮き城

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梅雨明け前に始まった戦だった。 今、戦いが終わり、暦の上では秋になった。 厳しい残暑の中を行く兵たちの頬を、 すうっ 秋風が撫でていった。 #浮き城

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｢石田三成の青春｣　第７話 「浮き城　忍城水攻め」 これにて終了です。 今回もお付き合いくださり、どうも有難うございました。 明日一日お休みを頂き、明後日から第８話を始めたいと思います。 また、そちらの方も、宜しければお読みくださいませ。 #浮き城