26 ピンポーン♪ インターホンが鳴って 玄関に駆け出す 『章ちゃん、遅かっ…あっ!』 “あかんやん… ちゃんと確認して開けやな” スルリと入ってきたまるちゃんが 後ろ手に鍵をかけて にじり寄ってくる
2015-08-24 02:57:4627 『まるちゃ…』 逃げる間もなく抱きつかれ お酒くさい息がかかる 『やめ…』 『…っん』 後頭部を強くつかまれ動けない 必死で唇を噛んで拒むけど 苦しくて舌を許してしまう 『ん…ぃや…』 私の髪留めが床にぶつかる音と まるちゃんがベルトをはずす音
2015-08-24 02:57:5828 『いやぁ…』 “…イヤ言うてんの口だけやで” 唇が自由になった瞬間 いきなり深く貫かれた “結婚するってなんやねん… 許さへん…そんなん…” 呻きながら揺らし続ける
2015-08-24 02:58:1229 ピンポーン♪ インターホンが鳴り響く 章ちゃん…?! “しっ!じっとして! 聞こえてまうでヤスに…” 動揺する私を強く押さえつけて 激しく突いてくる ピンポーン、ピンポーン せわしなく鳴る音 しばらく間をおいて 私の携帯が鳴る
2015-08-24 02:58:2530 “ヤス合鍵もらえてないん…?” 玄関の方を振り返り 鼻でふっと笑う “それとも…開けたげる?” インターホンと電話が 交互に鳴り響く中 両手で口を覆って 声を抑えることしかできなかった
2015-08-24 02:59:2431 『…あの、章ちゃん昨日は…』 「うたた寝してもうとったんやろ? 風邪ひかへんかったかぁ~?」 『違うの…私…』 「ごめんな〜俺行くの遅なったから」 いつもと同じ穏やかな口調で …でも私に話す隙を与えない
2015-08-26 01:47:1632 「明日式の打ち合わせやし 〇〇んとこ泊まってもええ? 今日は一緒に帰れるから」 『…うん…でも、あの…』 「せや!俺がなんか作るわ 帰りに買いもんして…決〜まり! 定時で帰れるように頑張ろ!」 後でな〜!って笑顔で 階段を登って行く
2015-08-26 01:47:3133 いつも通りに ううん…いつも以上に 明るくはしゃぐ章ちゃん うたた寝してたわけないのに きっと気づいてるのに 何もなかったことに しようとしてるの? 私まるちゃんに… 踊り場で手すりの間から 階下へ続く階段に目を落としていたら クラクラと視界が回った
2015-08-26 01:47:4634 章ちゃんが車を走らせる… 助手席の私 順調だった流れが急に淀みだす 「あかん…渋滞してるわ」 次の出口で降りて先を急ぐ 高速を降りても… スムーズに走れるわけもない 温和な章ちゃんが舌打ちする 車内に流れる軽快な曲が 逆にイライラを助長する
2015-08-26 01:47:5835 『…あ…』 またあの夢… 章ちゃんと空港に向かうけど 間に合わなかったあの日… 「え?なんでまだおるん?! 今日やろ、まる出発すんの」 『だって仕事が…』 「そんなん後でええ!行くで!」 もたもたする私を引っ張って 空港へ乗せてってくれた…
2015-08-26 01:48:2036 “気ぃついたか?!” 『…まる…ちゃん』 咄嗟に起き上がろうとして 肩を押さえられた “寝とかなあかん…倒れてんで” 『私…階段で…』 “えらいうなされてた” 私の前髪をかきわけて タオルを当ててくれる “よかった…目ぇさめて…”
2015-08-26 01:48:4237 震えてる…? まるちゃんの手… 昨夜の凍ったような瞳とは まるで別人のような彼がそこにいた 泣きそうな顔で私を見つめて 静かに唇を合わせた
2015-08-26 01:49:4538 あ…いつもこうだった… キスする前 優しく髪をなでてくれた 思わず手を伸ばそうとしたけれど 細い管が絡まって届かなかった “点滴終わったら多分帰れるから” ドラマでよく見る場面のように その手を取ると 両手でそっと包んでくれた
2015-08-28 01:01:4339 まるちゃんがいなくなってから ふさぎこむ私を 章ちゃんはなにかと連れ出した 映画だったりカラオケだったり 時には車で遠出したり… 1年が経った頃 すっかり立ち直った私がいた ひとりでいても まるちゃんを思い出すことも なくなってた
2015-08-28 01:01:5140 「もう…言うてもええかなぁ」 土手に並んで座って 向こう岸の花火を見てる時 章ちゃんが独り言みたいに言った 『んー?』 「ずっと前から好きやで… …俺…〇〇のこと」 え…? まっすぐ前を向いたままの章ちゃん 表情が見えなくて 返答に困る
2015-08-28 01:02:0241 「わはっ!びっくりした〜?」 いたずらっぽい目で笑い 顔をのぞき込んでくる 『な、なんだ…冗談…』 ふっと気が緩んだとき 私の手に章ちゃんの手が重なる え…? 「冗談ちゃうで…」 そのまま顔が近づいて 唇が触れた
2015-08-28 01:02:1142 「〇〇?!」 『しょ…ちゃん…』 目を開けたら章ちゃんがいた 「あぁ…目ぇ覚めた?よかった…」 両手で私の手をしっかり握ってる 「貧血やって… 点滴終わったら帰れるからな」 ほんまびっくりしたわ~って 優しく微笑む
2015-08-28 01:02:2143 さっきいたまるちゃんは 夢だったのかな… きっとそうだね こんなにも私だけを 見てきてくれた章ちゃんが ずっとそばで 手を握ってくれてるんだから
2015-08-28 01:02:2844 「ほんまに大丈夫?」 『うん、点滴してもらったら かえって元気になっちゃった』 「そうかー?しんどなったら すぐ言わなあかんで」 章ちゃんは心配してくれたけど 章ちゃんのご飯が食べたいって わがままを言った ふたりでスーパーに寄って 並んでキッチンに立つ
2015-09-10 02:28:3545 「ほんまにただのたこ焼きやで」 『本場の味、でしょ?』 「具切るだけやから座っとき」 『ここで見ててもいい?じゃま?』 「じゃまなわけないやろ 立っててしんどないかー?」 『うん大丈夫』 「ほんなら見ててー ほんまはな… 嬉しいでこんなん」
2015-09-10 02:28:5046 タコを切ってた章ちゃんが 顔だけこっちに向けて おでこにチュッとした 「わっ、なになに?」 思わず左腕に抱きつくと 慌ててる章ちゃん 「もぉ〜危ないやんかぁ」 そう言いながらも 少しも怒ってなくて 包丁を置いて向き合ってくれる
2015-09-10 02:29:0347 「今日はどしたんやー?」 私から唇にキスしたら 目をぱちくりさせてる 「そんなんしたらたこ焼き おあずけなるで…」 優しく腰を引き寄せて キスしてくれる 唇が離れても 首に回した腕を解かなかったら ふにゃっと笑って おでこを寄せる
2015-09-10 02:29:1648 「もーじゃませんとい…」 顔を傾けながらそう囁いて 最後は私の吐息と重なった もっといっぱいキスして もっとぎゅっとして… 気が遠くなってまた倒れても 章ちゃんの腕の中で目覚めるから
2015-09-10 02:29:3149 『…あ…』 「よう寝てたな… ちょっと無理しすぎたかな…」 章ちゃんの掠れた声 腕枕…ずっとしてくれてたんだ 胸に擦り寄って 響いてくる声が心地いい 「あんな… 新居の鍵もろてきてん… 引越し…早めへん…?」 『…うん』 「よかった…」
2015-09-10 02:30:0450 章ちゃんの腕に抱かれて うとうと微睡む… ブーブー、ブーブー どこかでスマホが震える いったん止まっては また鳴り出す 「おまえのんちゃう…?」 『ん…うん…誰だろ…』 手探りで見つけ出して 画面を見る 『あ…』 まるちゃん…
2015-09-10 02:30:52