51 暗闇に浮かび上がる着信画面 動けない私の背中に 章ちゃんがシーツをかけてくれる 「電話…出て…?」 『だって…』 「はよ!」 口調は強いけど 後ろから優しく肩を支えてくれる
2015-09-23 07:31:1452 『…もしもし…』 "…もしもし…〇〇…? あんな…たすけて…" 『え?なに? もしもしまるちゃん?!』 まるちゃんの声 消え入りそうでよく聞こえない
2015-09-23 07:31:2553 泥酔して道端で寝込んでた所を 保護されて 落としたのかすられたのか お財布も持ってなくて 迎えを呼べるかと言われて 電話してきたらしかった "今から迎えに来れますかー?" 警察の人のやけに大きな声が 無音の空間に響いた
2015-09-23 07:31:3654 『あ…あの…』 「電話かして… …あ、行きます!すぐ行きます」 私の手からスマホを取り上げて 章ちゃんが答えた 『章ちゃん!』 「すぐ用意して?…ほら!」 うろたえる私を促して 自分も服を着る いつの間にかタクシーも 呼んでくれてる
2015-09-23 07:31:4555 『章ちゃん…』 車に乗り込むと ギュッと私の手を握って それだけでなにも言わない 深くシートに身を沈めて 目を閉じてる 警察署に着くと 私に紙幣を数枚握らせて 車から押し出した
2015-09-23 07:31:5456 「行っといで…俺、家帰るわ… 明日…式場で待ってるな」 いつもの穏やかな顔で まっすぐ私を見つめると 「行ってください…」 運転手さんに告げた
2015-09-23 07:32:0357 警察署の隅で小さくなってた まるちゃんを引き取って タクシーに乗せる 日本に戻ったばかりで まだホテル住まいらしかった 黙り込んでいて 眠っているのか 酔いがさめてるのかどうかも わからない… まるちゃんも黙って 私の手をギュッと握ってる
2015-09-23 07:32:1558 タクシーがホテルに滑り込む 『私…もうここで…』 そう切り出してみるけど 手を引かれたら抗うことができない ううん… こんなまるちゃんを ひとり置いて帰るなんて できるはずがない そう自分に言い訳して 車を降りた
2015-09-23 07:32:3059 無言のままのまるちゃんに 手を引かれて歩いてく エレベーターを降りて 部屋へ向かって ドアを開けて そのままどんどん奥へ… 『…ふふっ』 "な、なんで笑うん?" 『だって…引き取られたの まるちゃんの方なのに…』
2015-09-23 07:32:4460 "そやな…ごめん…でも 早よ連れてかな帰ってまうやろ" 振り向いて不安気に揺れる瞳 『…帰らない…よ』 その瞳をまっすぐ見つめて呟くと まるちゃんの胸に身を預けた…
2015-09-23 07:32:5461 …今何時頃だろ…? どれくらい眠ったのか… まるちゃんの腕に すっぽり包まれていた 少しずつ意識がはっきりして 何も身につけていないことに気づく 起き上がって時計を見て 服を着て… そうしようと思うのに けだるい身体は少しも動かない
2015-10-30 03:18:4462 ふいに腕に力がこもって 引き寄せられる "…ん…どしたん?" 『うん…何時かな…って』 "何時でもええやん …明日休みやねんから" 『…うん』 肌と肌の温もりが心地よくて このまま時を忘れたくなる
2015-10-30 03:18:5163 "今日…ヤスと一緒やったん?" 背中でまるちゃんが 唐突につぶやく 『…うん… 明日式の打ち合わせだったから…』 "そ…か…" しばらく黙ったあと 私の左手をとって そっと指輪に触れる
2015-10-30 03:19:0064 "これ…ヤスにもろたん?" 『あ…もう…外さないとね…』 "俺…最低やな…" 私の肩口に顔を埋めて まるちゃんが力なく言った ううん… 最低なのは私 さっきまで 章ちゃんの腕の中にいたくせに やっぱりまだ まるちゃんが愛しくて
2015-10-30 03:19:0765 章ちゃんが一番のはずなのに こんなにまるちゃんが愛しくて… どうしようもない 気持ちがこみ上げてきて くるりとまるちゃんの胸に 抱きついた 今はからっぽになろう せめて夜が明けるまでは…
2015-10-30 03:19:1566 甲高い声で目が覚めた… ベッドサイドに置かれた 目覚ましの音 付き合い出した頃 ふたりでふざけて買った アニメキャラクターの目覚まし時計 こんな小さい声で起きられへん そう言ってたくせに まだ使ってたんだ
2015-11-04 02:15:5367 案の定起きれてなくて すやすや眠る まるちゃんの寝顔を見ると 決心が揺らぐ でも… このまま まるちゃんには戻れない 章ちゃんと過ごした3年を 無駄にしたくないの そっと身支度を整えて もう一回だけ寝顔を見て 静かに部屋を出た
2015-11-04 02:16:1368 朝の陽射しが眩しくて 手をかざす ほんとにこの指輪外さなきゃ… 見上げた指と指の隙間から 人影が見えた 『章ちゃん…』 「やっぱり… 遅いから迎えに来たで」 『…』 「打ち合わせ行くで」
2015-11-04 02:16:5169 『章ちゃん…あのね…』 「…マルんとこ行くん?」 まっすぐ見つめる瞳に 首を横に振った 『でも…』 「どっちも選べへんとか そんなん許さへんで」 『だって…』 「だってなに?」
2015-11-04 02:17:0970 『私…まるちゃんと…』 「知ってるやん…んなこと元々 …俺はおまえしかあかんねん」 『章ちゃん…』 「ほら行くで!遅れてまう」 温かい手に包まれる この手をもっと固く握って もっと強く引っぱって いつまでも…
2015-11-04 02:17:45