オカルト探偵あきつ丸 -わだつみの血-

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次のオカルト探偵あきつ丸シリーズです。 今回はあきつ丸こと岡野さんの恋話? ダークオリエンタルファンタジーな世界観を是非ご堪能くださいませ! 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

深井は目を細め、首を傾げて数か月前を思い返す。 「でも、どうしたんですか岡野さん、こんな変なことばかり訊くなんておかしいですよ」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:06:40
竹村京 @kyou_takemura

「自分は大学生でもなければ岡野などという名前でもないであります。自分は陸軍丙型特殊船あきつ丸。憲兵であります」 あきつ丸がそう言うと爆竹のような音が連続し、ほぼ同時に深井が絶叫した。テーブルの下の死角で密かに構えた拳銃を容赦なく撃ったのである。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:09:16
竹村京 @kyou_takemura

「……やはり、効かぬでありますな」 持ち上げた拳銃はヘッケラー・ウント・コッホ社製USPを日本企業がライセンス生産し、海軍に支給されている9mm拳銃である。撃ち込んだのはフル装填の12+1発。普通ならば死んで当たり前だ。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:11:05
竹村京 @kyou_takemura

「な……なにを…!?」 だが深井は生きている。それどころか血の一滴さえ流れていない。破れた服から見える白い肌が弾を全て受け止めているのだ。 スライドがロックしたUSPをテーブルに置く。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:13:09
竹村京 @kyou_takemura

向かいに座ったままの深井は衝撃で体勢を崩し、痛みに喘いでいるが、精々が思いきり腹を殴られた程度の負傷で、どう見ても拳銃弾を叩き込まれたものとは見えない。 「あなたには深海棲艦の血が流れているであります」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:15:17
竹村京 @kyou_takemura

それは先程深井が自ら言っていた事だ。無論、あきつ丸の方でも細かく戸籍や系図を調べさせ、深井の先祖に謎の女がいる事を確認している。深井の家は異種婚姻譚の実例の一つだった。 「……え? そんな、まさか昔話を真に受けてるんじゃ」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:16:58
竹村京 @kyou_takemura

「あなたが寝不足になった翌日は決まって海軍が作戦の裏を書かれて大打撃を受けているであります。加えて人並み外れた泳ぎの腕前。世界記録並みの長時間潜水。抜けるように白く強靭な肌。ここ数年で大きく変わった人相。証拠はいくつもあるであります」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:18:38
竹村京 @kyou_takemura

深井の銃撃された腹を見て続ける。 「そして、事実。いま撃たれても平然としているその身体。それが何よりの、先祖返りの証拠であります」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:20:30
竹村京 @kyou_takemura

深海棲艦は通常兵器に対する耐性が極めて高い事は一般に知られている。内心奇妙に思っていた自分の身体の異変にこれ以上なく明快な理由付けがされた深井は、驚愕のあまりしばらく絶句した。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:22:38
竹村京 @kyou_takemura

「……もし本当に僕が深海棲艦の子孫だとしても、僕は人間です。深海棲艦の味方なんて絶対にしていません」 「で、ありましょうな。ですが深海棲艦は勝手にあなたの頭を使っているのであります。そのせいで海軍は裏をかかれ、あなたは寝不足に悩まされるであります」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:24:31
竹村京 @kyou_takemura

言いながらコートの中から短刀を抜く。原初の艤装とも言える三笠刀である。もとは伊勢型の装備で、折れたために短刀に擦り上げたものだ。その柄と鞘の間を封じていた符を破り、刃をあらわにした。ぎらりと光る鋼が深井の顔を映す。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:26:53
竹村京 @kyou_takemura

「いやだ、死にたくない…!」 わずかな時間で早くも銃撃のダメージから立ち直った深井は身をよじって椅子から転げ落ちると、手を突きながら出口へと走る。 「そうはいきません。自分は、あなたを、殺さねばならないであります」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:30:04
竹村京 @kyou_takemura

無感情に呟き、逃げる深井に襲い掛かる。深井が振り向きざまに繰り出した腕をあきつ丸は左腕で受ける。その衝撃は尋常ではなく、骨が軋みを上げた。骨にひびが入ったことを冷徹に受け止めつつ、痛みは顔に出さないまま無表情を保つ。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:31:56
竹村京 @kyou_takemura

腕の振りの勢いで正対した深井に飛びかかる勢いのまま体重を乗せ、あきつ丸は馬乗りになって深井の両腕を膝で封じた。短刀を逆手に構え、痛みに痺れる左手を柄尻に添えた。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:33:28
竹村京 @kyou_takemura

冷たい光を放つ短刀と能面のようなあきつ丸の顔を泣きそうな表情で何度も見て、深井は途切れ途切れに言う。 「……ぼっ、僕がっ!なんで死なな、ければならな、のですか!」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:35:59
竹村京 @kyou_takemura

感応によって人類側の情報が筒抜けになるという戦略上の危惧。 純血でありたいという人の願い。 異質なものを怖れ排斥する弱さ。 たまたま先祖返りを起こしているから。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:37:39
竹村京 @kyou_takemura

彼が殺される理由はいくらでもある。しかし、あきつ丸はそのいずれも口にはしなかった。 「お国の為に死ねとは言わないであります。あなたを騙し、殺す自分を、どうか憎んでほしいであります」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:38:59
竹村京 @kyou_takemura

返答を許さず。肋骨の隙間を巧みに縫い、あきつ丸の刃は悲鳴を上げる余裕さえ与えずに深井の命を刈り取った。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:40:50
竹村京 @kyou_takemura

深井の身体が完全に弛緩し、血が止まるまで待ってから、ゆっくりと刃を引き抜いた。先程までまぶしい程だった夕日は既に亡く、そのぼんやりした名残だけが窓から差し込んでいる。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:42:24
竹村京 @kyou_takemura

「あなたは……もうすぐ深海棲艦になってしまうであります」 絞り出すように、苦しむように、もはや何も聞いていない死者に対して言う。その事実を悼んでいるのか。罪無き人を殺した自分を憎んでいるのか。その言葉には生爪を剥がされるような痛みがあった。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:45:04
竹村京 @kyou_takemura

小豆は邪気祓いの霊力を持つ。それが急に食べられなくなり、激しい苦痛を伴う様になってきたという事は、それだけ体の変質が進んでいるという証拠だった。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:46:52
竹村京 @kyou_takemura

「だから。だからせめて、人であるうちに」 死なせてあげたかった。 そのあまりにも傲慢な言葉は、開いたままの口から外に出ることはなかった。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:48:46
竹村京 @kyou_takemura

「生きてほしかったであります。ですが、深海棲艦になってしまえば死ぬより悲惨な目に遭わされるであります」#落ちぬい二次

2015-12-24 00:49:39
竹村京 @kyou_takemura

大本営はそれを最善策と考えていた。労せず深海棲艦の生きたサンプルを手に入れられるならそれに越したことはない。変質途中の混血の死体でも良いが、それはあくまで次善だ。だからこれは、完全な変質を遂げるまでの監視を命じられたあきつ丸の独断専行に近い。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:50:26
竹村京 @kyou_takemura

任務遂行上何度も人を殺したことがあるあきつ丸だが、まったくの無辜の人間を殺したのは初めてだった。腹の中でうごめく臓物が自分の物ではない様にさえ思えた。#落ちぬい二次

2015-12-24 00:52:03