孫盛と曹瞞伝について。三国志演義、グラブルのカリオストロ説。曹操、リチャード3世説。

イヌノオー＠ @inunohibi

年末のまとめと補足。今回は孫盛と曹瞞伝について。

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武帝紀の注に引かれた「曹瞞伝」には、いくつか曹操の評価を高めるエピソードもある。たとえば烏丸と袁紹の息子二人を討つべく北伐に赴いたとき、予想を超える厳しい行軍だったため、勝利したあと、北伐に反対していた者たちに褒美を与えた。「勝てたのは幸運だった。これからも意見してくれ」。

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しかしほとんどは曹操のずる賢さや、残虐性を示すエピソードである。若い頃一芝居打って、注意していた叔父を信用させないようにした、袁紹軍兵士の鼻をそいだ、食糧不足をごまかすため、罪を被せて処刑した・・・。

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三国志ファンならもう気付いたと思うが、演義および演義ベース作品の「悪役・曹操」エピソードの元ネタがここにある。魏の歴史書である「魏略」などが、曹操の悪いエピソードをあまり記せないのは当然としても、呉側の史料「曹瞞伝」だったら、今度は曹操を悪く書きたい誘惑があるわけだ。

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そもそも呉の人間がかかわっていない出来事なのに、残虐行為の描写が妙に具体的である。曹操暗殺計画に加担した皇后が、戸を閉ざして壁に隠れたが、華キンは戸や壁を壊して引きずり出したという。なぜそんなことを知っているのか？

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華キンはもともと孫呉に仕えていたが、曹操に召しだされて魏の高官になった人間。魏側の史料では徳の篤い人らしいが、呉としては、悪者にしたいように見える。

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孫盛はちくま学芸文庫「正史　三国志」の解説によると、陳寿の使わなかった資料を集めて評を書いたり、裴松之の先駆者的な存在らしいが、裴松之から史料の扱い方が雑であると批判されている。

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孫盛のまとめた「雑記」には、曹操が呂伯奢の家族を殺害して「わしが人を裏切ることがあろうとも、他人にわしを裏切らせはしないぞ」とあり、これもまた、演義に使われている。

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劉備を善、曹操を悪と単純化して、少しでも史実に詳しくなると評価の下がりがちな演義だが、庸愚子という人がつけた序文（色んなバージョンのうちのひとつ）には、その狙いがすでに書いてある。「そもそも史というのは、古今の事実をただ記載するだけでなく」「君臣の善悪」を明らかにし、

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「後世の鑑」とするためだ。しかし歴史書は難解で、その正義も分かりにくい。読者が理解できるように分かりやすく書いた、といっている。

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ここには「何が人に受けるのか」という本質を見抜いている。現代に生きる我々ですら、事実を羅列しただけの歴史教科書だったら退屈だから、歴史小説・ドラマを見て楽しんでいるわけだ。

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演義はあざといんだけど、グランブルーファンタジーのカリオストロちゃんに「好きなんだろ～こういうのがさ～」といわれたら、「はい、そうなんです」といってしまうような力と同じものがあるわけだ。

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シェイクスピアの戯曲に「リチャード3世」というのがある。王族だが王位継承権は下のほうで、不細工なため周囲から相手にされないリチャード3世が、世間に対する逆恨みを募らせて他人を暗殺しまくる、そしてのし上がるという話だ。今だったらオタクの共感を呼びそう。

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（しかし新潮文庫表紙のリチャード3世はカッコイイ。少女マンガにおける「設定だけ不細工」みたいなもんで、主人公である以上ビジュアルはこうなるのか。） pic.twitter.com/AbrTevnpJB

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シェイクスピアは、仕えた君主と対立していた一族のリチャード3世を、プロパガンダで悪く書いたとされる。歴史上のリチャード3世も、まだ子どもの王子二人を暗殺した疑いがあるが、真偽は分からない。何しろそんなことについて、決定的な証拠など残ってない（残さない）。

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創作の悪人イメージがとにかく先行している点で、曹操と似ているかもしれん。