【新・日本推理小説体系・総解説】《第4期》

松井さんの【新・日本推理小説体系・総解説】の《第38巻》から《第50巻》までのまとめです
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松井和翠 @WasuiMatui2014

しかし、ただ優しく瑞々しいだけがこの作者の持ち味ではない。例えば、処女作品集『空飛ぶ馬』でとりわけ評価が高い「砂糖合戦」でも、その根底にあるのは“どうしようもない悪意”である。

2015-12-31 22:26:33
松井和翠 @WasuiMatui2014

その“悪意”は名探偵小説『冬のオペラ』を経由し『盤上の敵』で頂点に達する。『冬のオペラ』表題作の犯人の仕打ちを見よ、『盤上の敵』の“カンペン落とし”を、“白のクイーン”のおぞましさを見よ。これでこそ、北村薫なのだ。

2015-12-31 22:29:53
松井和翠 @WasuiMatui2014

さて、残りの短編で作者の鮮やかな筆捌きをご覧いただきたい。“カチカチ山”を推理小説に見立てた短編「新釈おとぎばなし」、若き日の“あの人”に出会える「白い朝」、奇妙な味の掌編「水虎」、悲痛なる恋愛譚「植物採集」そして「ものがたり」。あざとさも、ここまでくると、芸の内、であろう。

2015-12-31 22:34:15
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第43巻》 【山口雅也】 『生ける屍の死』 「むしゃむしゃ、ごくごく殺人事件」 「曲がった犯罪」 「永劫の庭」 「微笑と死と」 「解決ドミノ倒し」 「不在のお茶会」 「割れた卵のような」 「異版 女か虎か」

2015-12-31 22:37:19
松井和翠 @WasuiMatui2014

第43巻は山口雅也の長編1作品と中短編8作品を収録した。 新本格推理作家一のスタイリスト・山口雅也の精華を一巻に収める。作者は、敬愛するポー・チェスタトン・クイーン・カー・ブランドのテクニックを巧みに操り、ミステリに新しい息吹を吹き込んできた。

2015-12-31 22:43:13
松井和翠 @WasuiMatui2014

その大きな収穫が『生ける屍の死』であることは論を待たない。ニューイングランドの片田舎で勃発する死者の甦り事件と殺人事件。それに挑む、パンク探偵グリンは自らも死者になってしまう!まさに“死を語ることで探偵小説の不死を宣言した”名作である。

2015-12-31 22:47:52
松井和翠 @WasuiMatui2014

短編は《キッド・ピストルズ》シリーズから3編を、《トーキョー・サム》シリーズから1編を収録。いずれもパラレルワールドを通して、現代社会ひいては人間を痛快に皮肉ったハードなパズラーである。

2015-12-31 22:50:23
松井和翠 @WasuiMatui2014

また作者は《異色作家短編》風味の作品も好んで書いている。本巻では、コンセプチュアルアルバム『ミステリーズ』から“名曲”「解決ドミノ倒し」「不在のお茶会」、自薦ベストに挙げる「割れた卵のような」、ストックトンの名作を高度に複雑化させた「異版 女か虎か」を収めた。

2015-12-31 22:54:21
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第44巻》 【京極夏彦】 『姑獲鳥の夏』 『続巷説百物語』 「目競」

2015-12-31 22:55:15
松井和翠 @WasuiMatui2014

第44巻には京極夏彦の長編1作品と連作短編集1作品及び短編1作品を収録した。 『姑獲鳥の夏』で衝撃的なデビューを果たした作者は、徹底された独自の方法論でその地位を確立した。とにかく一冊一冊が厚く、本巻でも僅か3作品しか収録できなかったが、いたしかたない。

2015-12-31 23:00:05
松井和翠 @WasuiMatui2014

長編は『姑獲鳥の夏』を収録した。《百鬼夜行》シリーズでは最も少ない分量だが、それでも700頁超である。しかし、これだけの分量があるからこそ、あの奇跡のような真相を成立させることが出来たともいえる。

2015-12-31 23:02:33
松井和翠 @WasuiMatui2014

連作短編集として『続巷説百物語』を採用した。《百鬼夜行》シリーズに比べるとあまり読まれていないのではないかと思われるが、《巷説百物語》シリーズも極めて優れた連作ミステリである。本巻では第2作『続』を採ったが、これは第1作を読んでいなくても問題なしと判断したためである。

2015-12-31 23:05:24
松井和翠 @WasuiMatui2014

ボーナストラックとして、榎木津礼二郎の一人称(!)小説「目競」を収めた。

2015-12-31 23:06:24
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第45巻》 【西澤保彦】 『人格転移の殺人』 『彼女が死んだ夜』 『念力密室!』 「動機、そして沈黙」 「赤い糸の呻き」

2015-12-31 23:07:28
松井和翠 @WasuiMatui2014

第45巻は西澤保彦の長編2作品と連作短編集1作品及び短編2作品を収録した。 初期は“アチャラカ・パズラー”と呼ばれる特殊設定を使ったSFミステリを物していた作者だが、近年は“ジェンダー・テーマ”を中心として、人間の暗い心の深奥に迫った作品が多くなっている。

2015-12-31 23:11:09
松井和翠 @WasuiMatui2014

“アチャラカ・パズラー”の代表作として、まず『人格転移の殺人』を選んだ。わかりやすさでいえば『七回死んだ男』であろうが、SF的な設定が単に謎解きのためのルールだけではなく、小説テーマと結びついている点を買っての採用である。

2015-12-31 23:13:02
松井和翠 @WasuiMatui2014

《タック&タカチ》シリーズからは『彼女が死んだ夜』を選択。早くも“ジェンダー・テーマ”の萌芽を見せながら、敬愛する都筑道夫ばりのプロッティングが光る初期の代表作である。ここから是非集大成の『依存』まで読み進んでほしいところ。

2015-12-31 23:15:48
松井和翠 @WasuiMatui2014

また超能力の存在を前提とした《チョーモンイン(超能力者問題秘密対策委員会の略)》シリーズから『念力密室!』を採る。密室のハウダニットではなく、ホワイダニットに特化した新機軸のミステリだ。

2015-12-31 23:18:39
松井和翠 @WasuiMatui2014

さてある意味では、2作品収録されている短編の方がより作者の特質を表しているかもしれない。それが「動機、そして沈黙」「赤い糸の呻き」である。両者とも、あまりに常軌を逸した“動機”に唖然となるに違いない。

2015-12-31 23:20:29
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第46巻》 【森博嗣】 『すべてがFになる』 『そして二人だけになった』 「小鳥の恩返し」 「卒業文集」 「トロイの木馬」

2015-12-31 23:21:31
松井和翠 @WasuiMatui2014

森博嗣の長編2作品と短編3作品を収録した。 『すべてがFになる』を引っ提げて第1回メフィスト賞を受賞して以来、作者の仕事量は目を見張るものがある。《S&M》シリーズは僅か2年で完結させてしまった。

2015-12-31 23:25:50
松井和翠 @WasuiMatui2014

その『すべてがFになる』を順当に巻頭に置いた。もう一作は同じくクローズド・サークル物になってしまったが『そして二人だけになった』とした。この二作の犯人は丁度鏡の表と裏のような関係になっている。読み比べていただきたい。

2015-12-31 23:29:01
松井和翠 @WasuiMatui2014

短編小説は島田荘司のアンソロジー『21世紀本格』に応えた「トロイの木馬」、全文が小学生の作文で構成された「卒業文集」、残酷な現代の童話「小鳥の恩返し」。数は少ないがいずれも磨き抜かれた一級品ばかりである。

2015-12-31 23:31:36
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第47巻》 【麻耶雄嵩】 『翼ある闇』 『神様ゲーム』 『メルカトルと美袋のための殺人』 「答えのない絵本」 「九州旅行」 「収束」 「禁区」 「こうもり」 「闇雲A子と憂鬱刑事」

2015-12-31 23:33:13
松井和翠 @WasuiMatui2014

第47巻は麻耶雄嵩の長編2作品と連作短編集1作品及び中短編6作品を収録した。 新本格が生んだ最大の異端児・麻耶雄嵩。彼が生んだ最凶の銘探偵がメルカトル鮎である。本巻では彼の一生に迫った。

2015-12-31 23:38:09