山口浩氏の論旨展開は妥当だったと言えるのか

涼風紫音／Protest the invasion of Russia @sionsuzukaze

さて3日目（ぇ　山口氏の所謂「暴論」にお付き合いしてかれこれ2日を費やしてあれこれ考察をしてみたのだが、改めて本丸に話を戻してみようか（BLの部分はどちらかと言えば脱線だからね）。

涼風紫音／Protest the invasion of Russia @sionsuzukaze

山口氏の論では明確に現状進行すると予期される「表現規制強化」に抗するために「一部オタク（二次コンを含む）」を「性的少数者」と位置付けることで「一般社会」へ訴えることで、その規制反対論の浸透を「人権問題」にリンケージさせることを意図しているように読める（歳末部）。

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ただし、山口氏の論考において「一部オタク」に含まれる部分に明確な加虐傾向を示唆するものなども含まれているようにも読める。所謂「実行すれば犯罪に問われる」部分である。この辺りの指摘は丁寧に見ていく必要はあるように思われる。

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表現規制反対運動における「強力効果の否定」を念頭においた場合、「犯罪を抑止する効果」を示唆するような（或は有害性有無を示唆するような）論旨展開が為されている部分は充分批難に値するように思われる。私個人としても強力効果否定研究を支持するので、ここはネックになる。

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つまるところ、強力効果を否定する場合、犯罪抑止に繋がり得る「代償行為としてのアニメ・漫画の消費」というのは極めて筋が悪いのだ。幼児性愛者がそういった表現物に触れることで犯罪行為に走らないとした場合、逆に有為に「犯罪を留める効果」が例証される必要がある。

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この場合、保護法益の対象が「公共の福祉」ということになるであろうが、山口氏の論考ではこれが極めて広範囲に渡る多種多様な対象を想定しているだろうことは論考の中で「LGB以外」の性的少数者乃至嗜好者、指向者を示唆していることからも明瞭であると言えるだろう。

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しかしながら、「現実／虚構」の別が規制反対論の主攻勢軸であったはずのものが、ここでは逆に「虚構が現実を補填する」論旨で展開され、より「積極的」に社会への影響を認める方向での展開を訴求していると読むことが可能である。規制反対論の攻勢軸の実質的変更である。

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問題となるのは山口氏がこの論考において「表現の自由論だけでは、一般の人々に対する説得力が今ひとつ弱いのも事実だろう」という現状戦略の限界に対応する形で「一部オタクを性的少数者の一部であると位置づけ、そうしたコンテンツを消費することを性的少数者の権利であると主張」する点である。

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LGBT運動などを引用し、或はその運動の問題点を指摘するのは、その指摘に事実があるにせよ、山口氏の論考の主たるものは「創作物表現への規制強化を回避する」ことが「目的」であり、「一部オタク」を「性的少数者」に捉えなおすことが「手段」となっている点だ。

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極論としてまとめてしまえば、「表現規制回避のために性的少数者の権利主張として人権問題化せよ」と言っているようなものである。「性的少数者の権利のために表現規制を回避せよ」ではない。この主客逆転の論旨展開は要点の一つだ。というよりも如何にこの論が批難されているのかの肝でもあるだろう。

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従来の表現規制反対派からすれば「現実／虚構の別」に対して積極的に「現実」を関与させるという方向での変更を迫られるものであり、性的少数者の側からしてみればこの主客逆転の論旨は「表現規制回避のために都合よく利用されている」印象にしかならないからだ。どちらも容易には納得し難いだろう。

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確かに「現実への影響は立証されていない」という訴求は「一般社会」に対しての抗弁として「弱い」かもしれない。それが事実であれ大多数には「不快だから」という感情論に押し流されてしまうかもしれないし、実際その方向での規制強化の傾向は山口氏自身も指摘しているところである。

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さりとて、そういった現状が存在するが故に、「性的少数者の権利」に積極的に詠みかえていくという試み（論考）については、主客の巧妙な逆転によりいかにも「ご都合主義」的背景が見え隠れしている。LGBT運動の「ご都合主義」を論考内で批判的言及しながらこれでは論考として駄目だろう。

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「ご都合主義」を批判的に言及しつつ、細やかながら一定の成果も得つつあるLGBT運動に対して、「ご都合主義」的に表現規制反対論のもう一つの主攻勢軸にその運動を利用しようとしているようにしか見えないからだ。inumash氏のフリーライド論はその辺りへの批判と読むことはできよう。

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有害図書問題に於ける恣意的規制や自主検閲の問題は過去にも様々に指摘されてきたところではあるが、山口氏が如何に主客転倒のご都合主義的戦略転換論を唱えたところで、現状の表現規制反対の主張と同様の壁にぶち当たる。「不快なものは不快だ」というのは性的少数者にも向けられてきたからだ。

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性的少数者にとっては今もって尚、「不快だから目の前から消えてなくなれ」という言動はしばしば向けられるものであり、表現規制派の攻勢がエヴィデンスなど無視した感情論で強化されていることは山口氏自身言及している点だ。ということは同様の攻勢に対してもう一つの攻勢要素が加わる事になろう。

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仮に「人権問題」として表現規制反対論を「位置づけ直す」場合、わざわざ「性的少数者に絞って」言及する必要は本来無かったはずなのだ（一部に論考に対してLGBT関係無いのでは？という指摘がされていたのは正鵠であろう）。人権問題としての提起でより広汎に訴求するのであれば猶更だ。

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「個人は自由に望むところの思想・表現の自由を享受する権利がある」という極平易な原則論に戻せば良いだけのことである。欲する情報へのアクセス権は個人の表現の自由（消費の自由）の根幹を為すものであり、「加えて」表現が犯罪を誘発する根拠は立証されていない、ということになる。

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この場合でも強力効果論の否定は論として従的位置付けへ後退することになる点には相違ないが、表現の自由（これは思想・信条の自由と不可分である）という権利要求にとって至って順当な主張であり、人権的要求の一つになるであろう（主張の仕方によっては従来と変わらない要求主張となるが）。

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この主張を行う場合、実際には現状行われている表現規制反対論と、大きな差異は生じないと思われる。問題となってくるのはそれを「どのように」戦略展開していくかであって、「壁があるから性的少数者に位置づけ直そう」というのは小手先の戦術転換で、多数者の感情の壁の前には大きな力にならない。

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つまり、山口氏の論考で展開されているそれは、表現規制反対派から支持され難いだけでなく性的少数者を表現規制反対運動の戦術レベルの道具として扱われかねない点でも支持され難く、その上戦略的にはほとんど効果が見込み得ないことさえ予期し得ることになる。まことに誰も得をしない暴論であろう。

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情報への自由なアクセス権という基本原則に戻す場合、そこには付随して「見ない権利」という積極的情報拒否の権利が附帯してくることになるだろう。表現規制に反対し且つゾーニングによるセグメントを強化するという手法は、この原則論の問題への一つの回答ではある（私もどちらかと言えばこの立場だ）

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ゾーニングも一種の規制と呼べるだろうが、各ゾーンに「望むようにアクセス可能である」ことが十分に担保される限りにおいて、「公共の福祉」の点での権利の衝突に対して一定の衡量を得ることが出来、且つ表現を享受する権利をも担保可能とすることも出来る可能性が生じるだろう。

涼風紫音／Protest the invasion of Russia @sionsuzukaze

こういった論旨展開がどの程度「一般社会」に受容され得るかは悩ましいところではあるが、シスヘテ男性にのみ野放図とも言える現状の是正要求としても筋は通るだろうし、「結果として」性的少数者にもその求める表現の享受を担保することにもなろう。「結果として」←これは大事な点である。