不知火に落ち度はない　41（磯風）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「んじゃ、頂きます」 「ああ、シルブプレ」 磯風がフレンチシェフのように言い、お箸を差し出してくる。 そして、俺の前に座って、様子を見るスタイルに入った。 これ、外から見ればたぶん、正月早々お弁当してるみたいに見えるんだろうなあ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

もしこれが浜風や、もしくは長門弁当ならば年始から幸せーって気分なんだろうけどさ。 「どうした。早く開けてみろ」 「お、おう。そうな」 パンドラの箱を開ける気分である。 こいつの料理性能は、いろいろ聞いてる分不安しかないんだ。 #不知火に落ち度はない

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では深呼吸して気持ちを落ち着け、さっそくぱかり。 そこに並んでるものは── 「お。普通だな」 「力作だと言ったが？」 「わり。よくできてるよ」 佃煮にウグイス豆に、卵焼き。 かまぼこも並んでて、普通におせちって感じがする。 #不知火に落ち度はない

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「そうだろう、そうだろう。なにせこの磯風が一週間かけた作った力作だぞ」 ──。 お前今なんつった？ いやまて、落ち着け。 別に一週間経過したものが入ってるって言ってない。 それに言葉通りだとしても、日持ちしない奴はおせちなら──。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「二段目も豪華だぞ」 「お、そうなの？」 「ああ。そこは一番最初に用意した出来合品だけど」 「どれ」 ぱかりと二段目に行くと、ごきげんよう。 俺の予感大的中。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「特売のブリ切り身といくら、あとローストビーフを入れてみた」 生もの（1週間後）きたー！！ いくら冬でも駄目なやつ来たぞ！！ 特にブリ！ 青魚！！ 見るからに色が良い感じの色になってる！！ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「磯風」 「ふむ。三段目も教えようか」 「や、この二段目。食えないぞ」 「む？ アレルギーか？」 小首をかしげる磯風。 この反応、見るからにわかってない。 こいつもしかして、鉄の胃袋してるわけじゃあるまいな？ #不知火に落ち度はない

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「磯風、ちょっとこのブリ、色が変になってるだろ？」 「む。言われてみれば、買った時と色が違うな」 訝しげな磯風。不思議な物を見る目でお刺身検分なう。 「こっちのローストビーフはどうだ？」 「もうちょっと綺麗な赤色してた気がする」 だよな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「で、この中央のイクラだけどさ」 「ああ。綺麗に添えてあるだろう」 おう。綺麗だな。そこだけは褒めちゃる。 そいつをお箸でつまんで持ち上げると── つう、と糸を引いた。 はい、これアウト。おもっきし発酵始まってます。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「と、言うわけで食えないんだ」 「む……」 いまいち理解してない顔で、磯風が首をかしげてる。 いや、お前もしかしてこれ何かわかってないですか？ 「えっとな磯風──」 「どれ」 ひょいぱく。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「おま！？ 吐き出せ！！！！！」 ストップザ食中毒！！！ しかし磯風はもむもむと食べておられる。 その表情が徐々に変わり、うげって顔になり。 ぬるんと口から出して、もとあった場所にお戻しになられたわけで。 「戻すな！？」 「む──」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

すると磯風は、そのままつまんで再び──口へ。 「いや食うな！？」 「どっちなんだ司令は。お残し禁止派なのか、それとも私に何か芸でもさせたいのか」 「普通に捨てろ頼むから」 うむ、と深々うなずく磯風が居て。 そうして二段目の中身を隠すように蓋が落ちた。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ほれ、さっさとうがいと消毒！ 行ってこい！」 じゃなきゃ１００％腹壊すぞお前。 年始から食中毒起こしましたって笑い話にもなんねえんだ。 「いや。司令、大丈夫だ」 「何がだよ」 「高濃度のアルコールは殺菌作用がある」 と、言うと、磯風は立ち上がり。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「これだな」 並ぶ瓶の中、テキーラをつかむとそのまま瓶を開け。 ごっきゅん、と中身を飲み干しやがった。 「これで消毒完了だ司令。続けよう」 ぷはあ、と酒臭い息を吐き出しながら、磯風が仰るわけで。 いやさ、間違っちゃゃねえよ？ 間違っちゃねえけどさ？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「さすが司令だな。備えは万全だ。これだけアルコールがあれば不意の怪我にも対応できる」 「その瓶ちょっと見せて」 「これか？」 ああ、やっぱりだ。 ロス・ヴァリエンテス飲み干しちまいやがんの。 消毒に使って良い酒じゃないんだぞそれー。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

いつかは開けようと思ってたが、それは今じゃ無かったんだが。 残った酒をちびちび飲むしか無いなこれ。 「身体の方は無事かお前。顔赤いけど」 「ああ。司令の顔が3つに見えるが平気だ」 「それ平気っつわねえよ！？」 平気と言いつつ即へべれけ様かよ！？ #不知火に落ち度はない

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「いや、へーきなんだぞ」 「ろれつも回っておりませんが、お前」 「ふつかよいになったことは、ないから」 「それ普通に酔っ払うってことじゃねえか！！」 やっべ、即地雷が誕生しましたぞ。 っていうか急性アルコール中毒状態じゃねえのかこれ！？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ちょっと磯風。スタンドアップ」 「こうか？」 まっすぐ立つ磯風。 「そのまま片足でどれぐらい持つ？」 「あしたまでは」 様子を見ると、言葉と反対に足下はかなりぐらついておいでだ。 そりゃテキーラ一気すりゃそうなるっつの！！ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「はい、ご飯中止。今すぐお前をベッドに運ぶ。水をたらふく飲ませてやるからな」 ぱんぱんと手を叩いてお開きの合図。 早速年始からとんでもねえアホが誕生したわけですよこれ。 「なんだー？ そういうぷれい？ は……ちょっと？」 「違うわアホ！？」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

どんなプレイだ。テキーラ一気飲みプレイって。 ふんにゃりしそうな磯風をもちあげると、ぐにゃっとしてる。 うん、これはまずいね。年始早々医務室コースだね。 早速おぶって連れて行くしかありませんね。 等と思ってたんですが── #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ははは、司令」 「はい。なんですか」 「ちょーくすりーぱー」 「おぐ！？」 みちっと首に食い込む磯風の腕。 細腕でもゴリラ力は、長門と力とほとんどどかわんねえんだよ、こいつ。 万力みたいな力で、ぎちぎち締め付けてきやがんの。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「はっははは。ぜんぶたべるまでは、にがさんぞー」 「……おま！ ……ぐえ……」 タップタップタップタップタップ！！ これ、やばいから。 マジやばいから。 しかし、磯風は上機嫌でおっしゃいます。 「もうすこしつよくいこう」 こいつ殺す気だよ！？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

緊急事態だ。恨むなよ磯風。 酒で判断力落ちてるから、このままだと首へし折られそうだし。 てなわけで、にチョークスリーパーキメてる磯風の二の腕内側の筋肉を、思いっきり握りつぶす。 「っ！？」 締めてる間にこうやると、筋を思いっきり痛めるんだよな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

うまくいきゃ筋を引きちぎったりできる。 ただし、これはある程度握力がある奴限定だし、細腕の磯風相手だからできるんだけどな。 てなわけで、磯風の力が緩んだ瞬間にさっさとロックを外して、そのまま背負い投げをば。 綺麗に磯風の身体は弧を描き── #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「甘い！」 くるんと、そのまま猫のように着地しやがった！ こいつ酔っ払って足に来てたはずなのに、どんなバランス感覚してやがんだよ！？ たん、たんと、足踏みをして地面の感触を確かめるようにして、こっちを睨んでる。 心強いなあ、こんなときでなきゃ。 #不知火に落ち度はない