不知火に落ち度はない　41（磯風）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

さて、思いつきで手短更新とな。 #落ちぬい

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

新年明けてすぐのことである。 俺はその日地獄が訪れることなどすっかり忘れて、正月の平常勤務などをやっていた。 正月つーけど、実際んところ俺に正月休みないしな。 ほとんど鳴らない電話番の受付しながら、手元のスマホでテレビなんぞ見てたりする。 #不知火に落ち度はない

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その日の深海棲艦指数はたったの４。 連中も正月休みを満喫しているらしい。 いいなあ、正月休み。 俺にもくれよ、正月休み。 俺だってたまにゃおせちとか食べて、餅食って、近所のガキとたこ揚げとかやりたいわ。 正月のお年玉賭けてな。 #不知火に落ち度はない

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なお、基地によって司令官の休みは変わる。 例えばギンブチの場合、正月3日までは絶対に休む方針だそうだ。 あいつの場合はしかたない。実家の兼ね合いで分刻みスケジュールの挨拶回りがある。 翔鶴を着飾らせて、あっちこっちに顔を売ってる最中だろう。 #不知火に落ち度はない

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一方モグリは現在、遠く離れたイタリアでニューイヤーする予定だそうな。 ただし、水の中での新年なんでかわいこちゃんはいらっしゃいません。 オスの群れが今頃楽しく餅食ったりしてるんだろうな。 俺も今から混ざろうかしら。工廠課のやもめパーティ。 #不知火に落ち度はない

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立ち上がって窓から見ると、工廠課の方に人が集まってる。 おお、今年は数が多いな──って思ったら、納得だ。 暇を持てあました球磨型のリーダーが、杵で餅ついてるわ。 耳を澄ませば「くまー！ くまー！」と元気の良い声が朝っぱらから響いてる。 #不知火に落ち度はない

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お隣には多摩もいて。お二人とも晴れ着だがいいのかそれ。 そして、北上様もよく見ると居た。 寝正月と言ってたが──今年は姉妹艦とお参りでもしてたわけか。 ただし北上様は晴れ着じゃ無くて普段着だったけどな。 たぶんこの後飯食って交代って感じなのかね。 #不知火に落ち度はない

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んじゃ、俺も後で美味しくいただくとしますかね。 つきたて餅のお雑煮を年始から食うとか最高だし。 酒と合わせていただけば、新年って感じで心が満たされるし。 うっし、その方向に決定しますか。 他連中が正月満喫してるんだし、さ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

昼からの交代にうきうきしながら、俺は勤務に戻り── そこでノックの音がした。 おう？ 元旦なのにか？ 暇な奴も居たもんだ。 「どうぞ」 #不知火に落ち度はない

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声をかけ、ドアが開き。 そこに居たのは── 「おう、磯風」 「司令、あけましておめでとうございます」 私服姿の磯風である。 わりと地味目なウインドブレーカーと、いつもと同じようなミニスカート。 タイツであったかモードなのが普段と違うところか。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「おう、あけましておめでとう。今年もよろしく。ほい、お年玉」 「なんだ、私にもくれるのか？」 「一応未成年だし。大した額は入ってねえぞ」 本当に気持ち程度だし。 ホントは明日あたりから各人に配って回る予定だったけどな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「で、これからお参りか？」 「いいや、お参りは済ませた。今日は皆が寝てるうちに司令に用があってな」 「え、寝てんの？」 「ああ。部屋で3人ともぐっすりだ。いわゆる二年参りでな」 「あ。なるほど」 いいねえ、4人そろって初日の出でも見に行ったか。 #不知火に落ち度はない

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「当ててやろうか。浜風がお参り先で甘酒飲んで一番先に轟沈した」 「おや。正解だ。初日の出は見えなかった」 「あいつの酒の弱さはかなりのもんだからな」 「ふむ──なぜ知ってる？」 あ、やぶへびった。 さすがに飲ませたとか言えませんしね。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「チョコレートボンボンをお裾分けした時にな」 「ボンボンかあ。それはまずかったろうな」 「お前は平気な方なの？」 「ああ。体質でな。ウイスキーを一気に飲んでも行けるぞ」 わーお、肝臓超強い。 その年で飲んだってことにはツッコミ入れないぞ。 #不知火に落ち度はない

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「んじゃ飲るか？」 「司令。確かに飲めるとは言ったが──ここはどこだ？」 「あ、はい。すんませんでした」 逆に突っ込まれる始末である。 うむ。俺が酒飲みたかったんですよ。 「それに飲めるとは言ったが、味がわかるとは言ってない」 「あ、そなのね」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

残念。飲みフレンドの数は増えなさそうである。 酒の味がわからんのに飲めるってのは、なかなか不幸な話だな。 「それより本題だ。司令」 「おう。なんだ。年始から運動につきあえってんなら午後からだぞ」 「いいや──と、言うか忘れてないか司令？」 What? #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

まて、なんか約束したか？ 磯風の状況を見て考えろ。 ウインドブレーカー姿。 皆が寝てる間にやってきたという話。 そして、よく見ると下げてる巾着袋。 まるっきりピクニック──あ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

や べ え 忘 れ て た ！ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あーそうだよ約束したよ思い出したよ！ あの巾着袋の中身が何かもわかったよ！！ みんな寝てる間に来たってのも、それで合点いったよ。 そりゃ磯風だって女子だもんなあ。 だが、俺からすると生死を分ける話なんだよこれ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「その顔だと、忘れてたな司令」 「わり、今思い出した。どんなん作ったの？」 その言葉にふふん、と磯風は笑い。 俺の前に巾着袋を置いて、さっと開く。 そこにはミニサイズのプラスチック製お重が存在しており。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「堪能しろ、力作だ」 そう言って胸を張る磯風を前に、俺は思う。 その言葉が本当に正しければいいんだがな、と。 俺は正月から訪れた、この爆弾に等しきお重をどう解体するか、そこに注力することにした。 #不知火に落ち度はない