7ビットの心音

【ここまでのあらすじ】フォロワーさんをキャラ化する企画でもらったイラストが好み→何か書こう→原案書いてくださったフォロワーさんを巻き込んで現在書籍化進行中←NEW!! 2016年秋の文学フリマ岩手に持っていくファンタジーです。
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豆崎豆太 @qwerty_misp

「ルート、どうかしたのかい?」柱の影から姿を表したのは先生だった。その顔には珍しく笑みが浮いていない。「先生」「少なくとも、ルートに危害を加えるつもりはない」私の返答が悪かったのか、ルートはまた私を睨みつけた。「ビーの敵はおれの敵だ。あんたはどっち」 #7ビットの心音

2016-01-24 23:55:21
豆崎豆太 @qwerty_misp

「ルート、落ち着きなさい」先生は静かにルートの肩に手を置く。ルートは振り返り、先生を睨む。「何の話をしていたんだ?」「おっさんは何か探ってる。俺らのこと、この機械のこと。怪しいだろ」「興味本位じゃないのか?私もこれには興味があるし、聞きたくなるのはわかる」 #7ビットの心音

2016-01-24 23:58:19
豆崎豆太 @qwerty_misp

「先生もおっさんの味方すんのかよ!ビーが大事にしてるものに何かあったらどうするんだよ!」「いや、私もビーの味方だよ。でもそれはモリの敵であることとイコールではない」先生は唇の端を吊り上げて、視線を私へと滑らせた。「モリ、私からも訊こう。きみの目的は何だ?」 #7ビットの心音

2016-01-24 23:59:32
豆崎豆太 @qwerty_misp

「私たちは君がビーに、もしくは彼に何かするのではないかと疑っている。私たちには何も被害がなくても、それは十分怒りに値することなんだ」怒らせていた原因がわかり、私は頭を掻く。ルートは毛を逆立てた猫のように怒っているし、先生もほとんど睨むような視線を投げてきている。 #7ビットの心音

2016-01-31 22:58:08
豆崎豆太 @qwerty_misp

「あんたを『誤魔化す』のは骨が折れそうだ」「もちろん」「……単刀直入に聞く。ここにもう一人、人間がいるはずだ。そいつはどこにいる」「『彼』のことなら、ここに」「誤魔化されると思うか?」 #7ビットの心音

2016-01-31 22:58:48
豆崎豆太 @qwerty_misp

「おっさん何の話してんだよ」「私の目的はその人間だ。ルートにも先生にも、もちろんビーにも、この機械にも今のところ用はない」ルートが何か反駁しようとした時、大きな音を伴って「彼」が揺れた。 #7ビットの心音

2016-01-31 22:59:37
豆崎豆太 @qwerty_misp

「何の揺れだ?」「知らねえけど!ビー!もしキッチンにいたら危ない!」「急ごう、怪我をしていないといいが」二人が慌てて駆け出し、私はその後を追う。機械は尚も揺れ続ける。「ルート」「なんだよ!」「ビーはキッチンにはいない。こっちだ」「なんでわかんだよ!」「職業病だ」 #7ビットの心音

2016-01-31 23:01:17
豆崎豆太 @qwerty_misp

「彼」の中には、ひどく静かな区画があった。ルートが「近づくな」と再三念を押した場所だ。「どっか故障してるんだろうけど、あれが動いたら危ない。ドア開けんなよおっさん」「何が入ってるんだ?」「ギアがむき出しになってる。でっかいやつ。巻き込まれたら死ぬ」 #7ビットの心音

2016-01-31 23:02:18
豆崎豆太 @qwerty_misp

「なぜ入れるようになっているんだ?」「作ってる途中だったんじゃねえの?動かねえし」「原因はわからないのか?」「わかんねえ。見た限り特に問題なさそうなんだよなあ」、そんな会話をした覚えがある。 #7ビットの心音

2016-01-31 23:03:04
豆崎豆太 @qwerty_misp

そのドアを閉めている巨大なハンドルは女の腕で回すには重そうだったが、その扉は既に開いていた。轟音が、そこから溢れだしている。ビーは、プログラムを「食べて」いる時と同じ、穏やかな笑みを浮かべていた。義足のきしむ小さな音が、聞こえるはずもないのに聞こえた気がした。 #7ビットの心音

2016-01-31 23:05:10
豆崎豆太 @qwerty_misp

私の背後に居たルートは、ビーの姿を認めるやいなや速度を大幅に上げて走り、ビーにほとんど体当りするようにしてその体を抱え上げた。ルート、と珍しく焦燥を露わにしてビーが叫ぶ。「何してんだよ!なんであんなとこ開けるんだよ!」 #7ビットの心音

2016-01-31 23:06:26
豆崎豆太 @qwerty_misp

5メートルほど走ったところで、暴れるビーをルートが取り落としそうになり、そのまま地面に座り込んだ。「離して」「いやだ」「離して!」「いやだ!!」問答の最中に私と先生が追いつく。ビーは半狂乱で、ルートは必死だった。「今離したらビーは死ぬだろ?!絶対に嫌だ!!!」 #7ビットの心音

2016-01-31 23:08:00
豆崎豆太 @qwerty_misp

「私が、私が彼を殺したの、だから彼に殺されるの、だから」「そんなの知らない!おれはビーを死なせない!」暴れるビーにモリが手を伸ばす。ルートが身構える。モリが――いつの間にか手袋を外した手で――ビーの頬に触れると、ビーは一瞬で糸を切られたように意識を失った。 #7ビットの心音

2016-01-31 23:09:50
豆崎豆太 @qwerty_misp

「……おっさん、今何した」「ただの手品だ。気を失ってるだけだから安心していい。それより、あれを止めるにはどうしたらいい」ルートは明らかな疑いと敵意の視線をモリに向けた後、それがあるのだろう方向に首を回した。「給電を切ればいい。おれならできる。先生、ビーを頼む」 #7ビットの心音

2016-01-31 23:11:25
豆崎豆太 @qwerty_misp

先生は軽く手を上げてそれに答え、気を失っているビーをルートから受け取った。ルートが踵を返し駆けていくのを見送ってから、ビーの顔にかかっている髪を指で優しく払う。 #7ビットの心音

2016-01-31 23:12:47
豆崎豆太 @qwerty_misp

「どうやら君よりは信頼されているらしい」口の端を僅かに釣り上げた先生にを一瞥して、モリは表情を変えないまま肩をすくめた。「心外だ」 #7ビットの心音

2016-01-31 23:13:55
豆崎豆太 @qwerty_misp

「『彼』の居場所を知りたいと言っていたね」「話す気になったのか?」「言っただろう、私はビーの味方だが、それは君の敵だということではない。……ついさっきまでビーの意思を尊重しようと思っていたが、気が変わった。私は彼女の意思を踏みにじることにしよう」 #7ビットの心音

2016-01-31 23:15:10
豆崎豆太 @qwerty_misp

「ビーの『意思』とやらに、私は興味が無い。だが、その判断には感謝する」「私の部屋の場所は覚えているかい?あの部屋の、本棚の側に地下収納がある。そこから更に下へ下れる。『彼』はそこにいるよ」 #7ビットの心音

2016-01-31 23:18:01
豆崎豆太 @qwerty_misp

そこにいた――いや、「あった」のは、もはや人間ではなかった。脳と心臓。血液を透析するためのいくらかの機械。「おぞましい」などと言えばいくらか人がましいか、まだ生きていると主張するかのように脈動する心臓は肉体ではなく無機質なケースの中にある。 #7ビットの心音

2016-02-01 23:32:40
豆崎豆太 @qwerty_misp

「美しいだろう?」背後から声をかけられて振り向くと、変わらず相貌を三日月に歪めたままの先生が居た。「ビーは」「君と入れ違いでルートが戻ってきてね。『彼』の動きは止まったらしい」 #7ビットの心音

2016-02-01 23:33:54
豆崎豆太 @qwerty_misp

「あんたはどこまで知ってた」何のことだと訊き返すこともせず、先生は視線をビーのいる方角へ投げた。「最初から途中までかな」そこで一度話を終わらせようとした先生をモリが睨む。話せと視線で促されて先生は口を開く。 #7ビットの心音

2016-02-01 23:35:33
豆崎豆太 @qwerty_misp

「私が見つけた時、ビーは両足、彼は腰から下が潰れていた。ビーは両足を切除、義足を付けて問題なく歩行ができるまでになったが、彼の方は内臓にまで損傷が及んでいてね」 #7ビットの心音

2016-02-01 23:37:21
豆崎豆太 @qwerty_misp

「彼の損傷は激しかった。手当をした場所も次々壊死していった。壊死したところを取り除いていったらそうなった」言いながら、先生は「彼」を指差す。 #7ビットの心音

2016-02-01 23:39:00
豆崎豆太 @qwerty_misp

「人の脳というのは、強すぎる苦痛や激しすぎる出血において活動レベルを落とすことで命を長引かせようとする。そのレベルが生命を維持できないところまで下がってしまうことをショック死と言うわけだが――彼はショック死しなかった。眼前に突きつけられた死をさえ拒んだ」 #7ビットの心音

2016-02-01 23:41:07
豆崎豆太 @qwerty_misp

「壊死が始まった頃は人工的に心臓を動かしていたんだがね、やがてその動きが戻り始めたんだよ。……彼が生きたがっているなら、ビーがそれを望むなら、生かそうと思った。医者の使命だからね」 #7ビットの心音

2016-02-01 23:42:56