中井久夫著『日本の医者』日本評論社 第2章 1

@niretatsu さんのつぶやき2011年1月22日・23日分です。TLの「患者をそっと呼んで事実でなくとも「この病院はじつはベッドが混んでいましてねェ。○○病院なら早くできる。」とかなんとか言って逃してやればいいのです。あらためて正しい診断をうけるチャンスがあるからです。そうして教授には「さっぱり、その後、来ませんねェ。」ととぼけておけばよいのです。」を拝見してまとめようと思いました。『日本の医者』言及ブログは http://pata.air-nifty.com/pata/2010/11/post-2bfd.html、ツイッターでの評判は http://topsy.com/www.nippyo.co.jp/book/5416.html
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楡林達夫 @niretatsu

考えてみれば、医者もかあいそうなものだよな。看護婦たちはじめ、他の医療従事者との連帯もないし、現場から浮上って大学とのはかないつながりで生きているし。呼びもどしが二年こないと苛々したり、意気消沈したり。患者や公衆との連帯もないし。

2011-01-22 21:40:59
楡林達夫 @niretatsu

ひとりひとり孤立してバラバラで、――それでも医学そのものは一生の仕事に値するものとは思うけど、その仕事さえも貫ぬこうと思うと障害が多いんでしょう、いつか皆さんも云っていたように。

2011-01-22 22:11:22
楡林達夫 @niretatsu

ここでぼくは思い当たりました。バラバラで孤立しているものを、ひとつの実体のように三人称複数として扱うことが、そもそもまちがっているのだ。これは初歩的な誤まりではないか、と。単数の組織論、ぼくやあなた自身を、まともな医師として組織してゆく組織論しか現実にはあり得ないのではないか。

2011-01-22 22:40:56
楡林達夫 @niretatsu

そうして同じ単数ならぼくも医師なのだから、よそよそしい三人称ではなくて、二人称単数をつかいましょう。そうして、まず、入局後四年のぼくが、あたらしく入局する僚友へ出す手紙を書いてみましょう。医局はかわらなくとも、心構えをもってはいってゆくと少しは違うものです。

2011-01-22 23:11:12
楡林達夫 @niretatsu

後から不意にとびかかられるよりも、構えながら近よってゆく方が、同じ猛犬に対してでも少しはましな結果になるというわけです。複数の組織論、われわれの組織論も、いつか条件の成熟とともに生まれてくるでしょう。私たちが自身を組織してゆくなかから、必ず時満ちて生まれてくる真の連帯のなかで。

2011-01-22 23:41:02
楡林達夫 @niretatsu

一人でもこう言ってくる先輩がいるでしょうか。 「医師の美質は、知識と技術と構想力と決断力と、そうして高い人間性への理解、そうしてそれらを具体的把握と客観的有効性に転化する能力だ。ぼくらの教室は、正しい医師をつくり、正しい医療を実践するという太い一線で貫かれている。...

2011-01-23 00:10:51
楡林達夫 @niretatsu

「...それも、医師の独善でなく、医療の総合性、多元性を理解して、看護婦などとのつよい連帯の上に立ったものだ。真実は一つだという観点から、安易な「指導と信従」ではなく、教授から新入局者まで対等で、きびしく、診療方針や、手術方針の批判・決断が行われる。」

2011-01-23 00:40:48
楡林達夫 @niretatsu

こっぴどく批判されたからと言って妙なところに尾を引くことはない。もとより、日本の医学界の現実は容易に動かせず、君たちに充分むくいることはできないことはゆるしてもらわねばならない。しかし、ぼくたちの教室の行き方でしか正しい医師はつくれず、日本の医学をよくしてゆくことはできないのだ。

2011-01-23 01:10:59
楡林達夫 @niretatsu

せめてこう言ってくる先輩は? 「ぼくたちの教室は不合理で一杯だ。しかし、ぼくたちはたたかっているのだ。ぼくたちの仲間に来ないか。正直言ってくるしいよ。しかし、日本のほかにもう一つの日本をつくることができないように、日本の医学界は内部をかえてゆくほかはないのだ。」

2011-01-23 01:40:46
楡林達夫 @niretatsu

「少くともぼくはぼくのもっているよきもの一切を君に開放する。ぼくも君から学ぶ。たすけあって、正しい医師となり、医局をよくし、いつか医局の構造そのものを逆転させよう。」と、実状を述べつつ、敢て君に呼びかける先輩は?

2011-01-23 02:10:53
楡林達夫 @niretatsu

むろん、あなたは、日本の医師のみちがバラ色だとは思っていない。 (Wozu Dichter in karger Zeit?)とHoelderlinがギリシャの、仮想的な詩的黄金時代を回想しつつうたったように、あなたも、「なぜこんな時代に医師に?」と思っているだろう。

2011-01-23 02:40:44
楡林達夫 @niretatsu

ぼくたちはたしかに、就職に汲々とする他学部の友人たちを横目でみていました。そうして、サラリーマンと比べて収入は少ないにしても、何かかげで一段と配慮され、団体精神(Esprit de corps)によって何か知らぬ「神聖な目的」にむかって鼓舞されていると感じてないではないのです。

2011-01-23 03:10:53
楡林達夫 @niretatsu

社会学者、労組員たちはじめ、外部の人たちが、「あなたたち医師は孤独だ」と言うとき、医師は孤独なのか、と一瞬ためらい、ぎょっとしなかったでしょうか。  医局にはある連帯感がたしかにあります。それと外部の人たちの「客観的観察」との、このズレはどうしたことでしょうか。

2011-01-23 03:40:40
楡林達夫 @niretatsu

あなたが医学部をえらび、医師をえらんだ動機のひとつには、(エンゲルスのいう)「正気で低級な」現代資本主義社会から一枚のうすぎぬででも距てられていたいという、ひそかな願望がなかったでしょうか。

2011-01-23 04:10:43
楡林達夫 @niretatsu

かつての世代は、財産つくりのみちに医師をえらびました。戦中派たちは、徴兵のがれにえらびました。「応召されても軍医はまし」というわけです。

2011-01-23 04:40:43
楡林達夫 @niretatsu

現代日本の資本主義社会の中で、あたえてくれるものに何があろうとも、「生きがい」だけは自分でみつけねばならないのです。サラリーマンが「わが社・わが社」という時、生きがいの影の影にでもすがりつこうとする無意識の心理的技術がかくされています。

2011-01-23 05:10:42
楡林達夫 @niretatsu

 しかし他方、医学は、現代資本主義社会にあって、必ずしも幻影ではない「神聖な目的」を人に与えうるもののひとつです。しかも、物理学者とちがって、成果が人類を破滅にみちびくのではないかと恐れなくともよい幸福な科学技術のひとつです。(それは一部あやしくなってきましたが)

2011-01-23 05:40:40
楡林達夫 @niretatsu

たとえばポリオ弱毒株を人工突然変異によってとる方法は、強毒株をとる方法論をも同時に与えるのです。

2011-01-23 06:10:51
楡林達夫 @niretatsu

ナチス軍にしたがってソビエトに侵入したあるドイツの軍医は、侵略戦争に参加しつつも、少くとも、人命をすくう点ではソビエトの軍医と、「みえざる同一の旗のもとに」目にみえない別のたたかいを協同で戦っているのだと考えて自分をなぐさめていました。

2011-01-23 06:40:40
楡林達夫 @niretatsu

医学界がつくる特権的ギルド組織はわが国にかぎらず、不合理な面を多くふくんでいるようです。A・J・トインビーがローマ法王庁について皮肉っているように「その神聖さ疑いない、なぜなら神聖でなくて、あのように腐敗した、不合理なものが、どうして二千年もつづこうか」である。

2011-01-23 07:10:42
楡林達夫 @niretatsu

人間の社会には、常人の忌みきらう事で、せねばならぬ事がいくつかあります。医師団も、常人からスカウトした人間を、とにかく常人の正視し得ないものの中で高度な技術を的確に実践する人間に仕立てねばならないわけで、そのために心理的詐術が必要となり、

2011-01-23 07:40:39
楡林達夫 @niretatsu

常人からスカウトした人間を、とにかく常人の正視し得ないものの中で高度な技術を的確に実践する人間に仕立てねばならないわけで、そのために心理的詐術が必要となり、それは閉鎖的集団で行わねばできないような負のものであり勝ちです。ソルボンヌ大学医学部の伝統として、

2011-01-23 08:11:55
楡林達夫 @niretatsu

ソルボンヌ大学医学部の伝統として、実習室に入ってくる新入生たちに上級生が人肉のこま切れを雨あられと浴びせかける習わしがあるそうですが、これなどまさに騎士の入門式のような、drasticな心理的入門式です。

2011-01-23 08:41:00
楡林達夫 @niretatsu

このように、医学の有効性の、相対的ではあるが極度の低さを背景に、医学ギルドは、歴史の中で、善意をこえて存在理由をもちつづけてきました。その日本版が「医局制度」です。

2011-01-23 09:11:08
楡林達夫 @niretatsu

華岡青洲の世界最初の全身麻酔法の達成にしても、それがその後の発展をうんだわけではないのであり、その理由に青洲の医塾の極度の閉鎖性があげられ、実際「麻佛散」は、秘伝として、いわゆる免許皆伝の弟子が天地神明に誓ってでなければ処方を教えてもらえなかったわけです。

2011-01-23 09:40:54