不知火に落ち度はない　43（不知火）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あー、不知火さんや。そろそろお許し願えませんか」 「約束を守らない司令をどう許せと」 居酒屋『八海』の座敷席。 今にも殺すっていう目で睨み上げる不知火が居る。 どうしてこうなったか？ そりゃまあ、あれだ。 俺のせいではあるんですけど。 #不知火に落ち度はない

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「しょうがねえだろ。仕事の付き合い上断れねえよ」 「それで部下との約束を反故にした罪は、一切軽減されませんが」 「また今度連れてくから、勘弁しろって」 な、と手を合わせてお願いなどしてみると、すごいじと目で見られたわけで。 #不知火に落ち度はない

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「というか、居酒屋なんだから先帰ってていいんだぜ？」 「今からでも遅くないと思っています。車のキーをいただけますか？」 「歩いて帰れと」 「当然では無いかと」 「運転できねえだろ」 「司令が歩いて帰るのが目的ですから」 最高にクールなまなざし。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「今度ン休みんとき好きなとこ連れてっちゃるから、とりあえず退屈な話に付き合ってくれ」 「了解しました。納得はしてませんが」 そうして、やっとお許しが出た模様。 不知火はお冷やを口に壁の花モードに移行した。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「いや、お待たせしました。どうも腹の調子が最近芳しくなくて」 「気をつけなよ、二見さん」 トイレから戻ってきた提督──二見と名乗った彼が俺の前に座る。 二見八朗。俺と同じ海軍提督であり、艦娘を扱う指揮官で秘書艦は磯波。 そう、あの磯波の提督である。 #不知火に落ち度はない

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なお、中年と言ったが、年は俺の2コ下。 顔に笑顔が張り付いてるタイプの、冴えない営業マンみたいな提督である。 職歴を調べたわけじゃねえが、多分元々海自に居た人間じゃない感じだな。 筋肉の付き方がいかにも勉強してましたって感じするし。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして戦歴の方はと言うと──そこそこ。 あの磯波報道事件以外は、特に大きな問題を起こしていない。 同時に大きな戦勝記録もなし。常に中間的な立ち位置にある提督だった。 誤解はしないで欲しいが、それは無能ってわけじゃない。どっちかというと理想型だ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

常に大勝ちしまくってる奴は逆にやばい。 そういう提督を査問すると大抵、撃沈数の捏造か、あるいは罰則に値する労務規定違反を必ず行ってるからな。 一斉攻撃でもないと殺せない数を常時殺してるなんておかしいだろ？ 安定してる戦果は真面目にやってる証拠なわけ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

うちももちろん、どっちかというと安定してる側。 時々戦果数が跳ね上がる時があるが、そういうときは大抵球磨がプリキュア見れなかった時の八つ当たり。 ないしは大規模攻撃による応戦に、他の戦力が加わった時だ。 例えば、ギンブチと共同作戦とかな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

つまりこの、二見という男は、結構なやり手であるってことだ。 しかし、同時にそれが違和感を浮き立たせる。 あの磯波の件。 安定した戦果に見合わない、でっけえ失策である。 普通あんな状態になるまで戦わせたりしないもんな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

予想するに何かしらのトラブルがあり、あの状態になったんじゃないかと推測する。 腹の調子が悪いつってるのも、もしかするとストレス性の病気なのかもな。 提督やってる奴で、心労に無縁なのってそうそういないしな。 ちょいと確かめるか。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「まあ、まあ。何頼むよ、二見さん」 「そうですね。白身魚の煮付けとかおいしそうですから、それを」 「酒は？」 「いえ。兵頭さんは？」 「運転あるから飲めねえよ」 はははは、と笑いを交わす。 ほっと安堵した顔つきを見せた。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ほい、調査完了。 多分胃が相当荒れてるんだろな。 自然胃に負荷のかからない食い物を自分で選んでってる。 俺ぐらいの年齢ならまだ唐揚げとビールは手放したくないはずなんだが。 「不知火は何頼む？」 「オレンジジュースと、白身魚のフライを」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

不知火の胃腸は問題なし。結構当たるんだ、この診断。 もちろん、顔色なんかも見ながらじゃないとだめだけどな。 さて、そうして注文を終え、向き合う。 居酒屋の喧噪の中、黙り込む二見提督と俺。 本当なら、ここでバカ話をちょろっと切り出してって流れなんだが。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ただ、深刻そうな様子がうかがえて、バカ話を振ったが最後はぐらかされそうな気がしてる。 実際前に龍田と答弁しあってた時、綺麗に負けてたが龍田が不満そうだったからな。 もっと深いところをごっそり持って行くつもりだったのが、綺麗にかわされたんだろな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして10分が経過した。 俺はのんびりと煙草に手を伸ばして、ぱしんと不知火にたたき落とされてた。 おい、ちょっとは我慢してくれねえか。 相手さんがちょっと笑ったぞ今。 いや、しかも煙草をポケットから抜き取らないでくだち。お願いします。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「その──お呼び立てしてすみません。どうにもご相談したいことがありまして」 「ああ。他言無用って話だろ」 俺から先にカードを一枚置く。 すると、俺の意を組んだか、二見は頷いた。 「心配しなくてもいいぜ。俺はここに親睦会ってことで来てるから」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

な、不知火？ と視線を向けると目が言ってる。 ──高く付きますよ、と。 はいはい。わあってますよ。 ちょっぴりプレゼントもご用意しますってばよ。 「大変個人的な話で恐縮ですが、相談したい話とは──艦娘との関係についてなんです」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

おう？ その答えはいささか予想と違ってたな。 どっかの鎮守府と仲違いがあったとか、マスコミからつつかれてるとかじゃないのな。 特に後者は、わりかし言われることがあるんだ。 TVに顔出すこともあるからさ。 ここで、艦娘との関係性か──。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

まあ、問題児ばかり抱えてるとも言える俺のところだし、なんかアドバイスできるかな？ とりあえずコンビナート事件ほど極端すぎるが、球磨多摩戦争ぐらいなら話題に出しても良いだろう。 「ああ。思春期の娘もいるからな。相手大変だろう」 「ええまあ──」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「その──ええと」 二見は何か言いづらそうに言葉を濁し。 そして、頭を振って小さくぽそっとつぶやいた。 「私の秘書艦の──磯波のことなんですが」 あ、やっぱ磯波だったか。 じゃあ、あの失策が原因なのだろうか。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ただ、相手は事情を話したいらしいし、ここは深く突っ込むより促した方がいいな。 「ああ。報道で見たよ、大変だったな、アンタ」 「ええ……いや、そうではないんです。その──気まずくなったのは、あの事故が起こる前からでして」 なるほど。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

何かしらの事情があってまずいことになり、磯波が怪我をしたってことか。 でもって秘書艦は解任してない、と。 つまり、信頼を置いてる秘書艦だが、何かしらトラブルでその関係が崩れた結果、事故が起きた。 自信の気まずさと、双方に生じた不信感を解決したい、と。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「その──ここから話すことは他言無用で」 「わかってる。不知火もいいな」 「了解です」 念押しをされた。 相当やっかいな事情でもあるみたいだな。 あれかな。艦娘の両親が反対運動起こしてるとか。 変な機関から横やり喰らってるとか。 #不知火に落ち度はない