黄昏のブッシャリオン▲第二章▲

オリジナル徳パンク小説「黄昏のブッシャリオン」第二章です。
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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章・第九話「徳の爪痕」

2016-01-15 21:00:17
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……そろそろ、既知領域の外に出るぞ」 「ん?ああ……もうそんな頃合いか」 クーカイの運転する車は、無人の廃墟を駆ける。ここは嘗て、高層建築の林立する巨大都市だった。それが今や ビルは倒壊し、徳エネルギーが穿った小さなクレーターがあちこちに開く廃墟と化している。

2016-01-15 21:04:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「えっと……北ってこっちで合ってるか」 二人は老人の遺したメッセージに従い、ひとまず北を目指している。だが、ガンジーは何処か上の空だった。 「お前にナビを任せたのが間違いだった」 「だから、運転代わるって言ってるだろ」 「お前の運転する車には乗りたくない」

2016-01-15 21:08:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

二人が往くのは嘗ての幹線道路の跡。軽口を交わす余裕もある。ここまでは順調に旅は続いてきた。 「難儀な奴だな、偵察にドローン飛ばすか?」 「……温存する。動力は兎も角、部品の損耗を避けたい」 「そりゃそうだ」 何キロ進めば村落があるかすら分からないのだ。僅かな物資も無駄にできない。

2016-01-15 21:12:09
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「得度兵器が今のところ脅威の筆頭だが……この地形では、遭遇してもどの道逃げ切れまい」 しかし、徳カリプスから後。『ここから先』へ進んで戻って来た人間は居ない。何が起きるか一切分からないのだ。 「そういや、出発前にあちこち情報かき集めてたみたいだが、何か分かったのか?」

2016-01-15 21:16:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……大きな収穫は無かった。徳で動く機械兵器であること。恐らく、人間を攫って動力源にしていること。それと、遠目に見たという人間は、巨大な人型……仏像のような形だと言っていた」 「何だそりゃ。こんな世の中を見かけて、とうとう仏様が歩いてまわるようになったのか?」

2016-01-15 21:20:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「油断するな、ガンジー」 クーカイは何時にも増して軽口を叩くガンジーを諌める。だが、口数の多さは、不安の裏返しでもある。 「いや……そもそも、そんなド派手な俺達が見てないのがおかしいと思ってな。探索に出たのは十回や二十回じゃないぞ」 「それについてだが……ここからが肝心の話だ」

2016-01-15 21:24:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「何かあるのか?」 「街で得度兵器らしきものを目撃した人間、或いは消息を絶った人間やドローンの情報を片端から集めて、場所と日付をプロットした」 クーカイは懐から丸めた地図を取り出し、助手席のガンジーへ投げる。 「何だこりゃ……動いてんのか?」 地図上に描かれたのは、一本の線。

2016-01-15 21:28:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

得度兵器の目撃地点や消息を絶ったと思しき地点は、おぼろげながら一本の線を描いている。これが、今までの既知領域の限界……つまりは、得度兵器の領域との境界線とされてきたものだ。だが、クーカイの集めたデータにはもう一つの情報があった。『日付』である。

2016-01-15 21:32:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

日付に周期性があるのだ。地図線上の移動時間を補正すると、概ね一定の期間が開いている。 「そうだ、動いている。つまり、俺達が今まで得度兵器の密集地帯だと思っていたものは、『壁』ではなく移動する得度兵器の集団の可能性があるわけだ」 「つまり、この『線』はコースの一部ってことか」

2016-01-15 21:36:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「ああ、得度兵器は行動範囲に入った人間を無秩序に襲ってるワケじゃない。領域の中を『巡回』してるってことだ。俺達が探索に出た場所は、そもそも領域外だったか、『巡回』の時期から外れていたらしい。元のデータが少なすぎて、気休め程度にしかならん情報だがな。だから、出る時には言わなかった」

2016-01-15 21:40:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……それにこれが正しけりゃ、連中は野良じゃねぇ、ってことだよな」 「そうなる。頭がちゃんと動いてきたじゃないか」 そこで、ガンジーは何かに気付いた。 「……クーカイ、お前」 「ん?何だ」 「このデータ、かなり前から集めてただろ!」

2016-01-15 21:44:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「当然だ。一朝一夕で出来る訳がない」 クーカイのデータは、彼が行動圏内の徳遺物の枯渇を予期し、準備していたものだった。 「俺に一言も言わずにか!」 「言ったら、ここを越えようと言い出しただろう」 「ぐ……」 「まぁ、そこまで勘が戻ったなら、安心だな」 クーカイは笑う。

2016-01-15 21:48:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……でもよ。得度兵器の連中が、同じところをグルグル回ってるなら」 だが、ガンジーは一つの疑問を抱く。 「その内側……つまりこの先には、一体何があるんだ?」 「さてな。そこまでは、わからん」 『衛兵』が居るならば、その内側には守るべき何かがある筈だ。それは、一体何なのか。

2016-01-15 21:52:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「それでも、確かなことが一つある」 「何だ?」 「行ってみれば、わかる」 「そりゃそうだ」 そうして、二人は得度兵器の縄張りへと足を踏み入れた。その先に……何があるかを、知らぬまま。

2016-01-15 21:56:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章・第十話へ続く

2016-01-15 22:00:15
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  ガンジー(1/3) 相棒のクーカイと共に徳遺物採掘屋を営む。一応リーダーは彼の方ということになっているらしい。徳という概念そのものに背を向け不徳を自認するが、それは徳カリプスによって家族を亡くしたため。その徳の爪痕は、今も彼の心の奥に刻まれている。

2016-01-15 22:04:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  ガンジー(2/3) 徳に対し複雑な感情を持つものの、徳エネルギーは単なるエネルギー、生存に必要なものとして扱う。根本的には善人のため、街の人々が安定して暮らせるよう無限の徳エネルギー源を夢見る。採掘屋としての腕は、自称街で一番。歳は20前後。

2016-01-15 22:08:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  ガンジー(3/3) なお、名前は実在の人物にあやかって付けられた徳ネームである。誕生日は10月2日。相方であるクーカイに言わせれば、「賢いのか馬鹿なのかよくわからん奴」、「こいつの運転する車には二度と一緒に乗りたくない」とのこと。

2016-01-15 22:12:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章・第十話「運命」

2016-01-16 21:00:16
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ガンジーとクーカイが警戒線に差し掛かった頃。武装移動キャラバン寺院『ガンダーラ』は得度兵器との交戦によって壊滅した。僅かな生き残りは得度兵器によって捕らえられ、何処かへと連れ去られた。 膨大な徳の奔流は一切を覆い隠し、たった二人の越境者を見咎める者は居なかった。

2016-01-16 21:04:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

何故、彼等は境界を超えられたのか。クーカイの用意したデータの助けは無論あった。それでも、もし強いて理由を求めるならば、それは偶然、或いは幸運と呼ばれるべきだろう。 だが、人はしばしば幸運にすら理由を求める。その時、ただの幸運は「運命」と名を変える。

2016-01-16 21:08:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……敵影は無し、と」 「ドローンを戻せ。地面が荒れそうだ」 廃墟に人の痕跡を探し、地図を作りながらの道行き。それでも拍子抜けする程余裕はあった。道を進むごとに建物の残骸は減り、次第に視界が開ける。そして、二人は見つけた。 「……あれは」 「街だ」 モニタに映るのは、建物の群れ。

2016-01-16 21:12:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

……それも、崩折れたかの如き廃墟ではない。高層建築こそ無いものの、真新しい家々が立ち並ぶ『生きた街』である。 「……辿り、着いたのか?」 「幻じゃねぇよな?」 「その、筈だが」 あまりにも、あまりにもあっけない旅の終わりに、二人は思わず、現実か否かを確かめあった。

2016-01-16 21:16:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「街からここまで、何キロだ?」 「……昔の幹線道路に添って、百数十kmといったところか」 街を出て数日。得度兵器の徘徊する荒野を思えば、決して近くは無い。だが、遠くもない。交易可能な距離だ。 「じゃあ……」 「待て。ドローンの画像だけでは、暮らしぶりがわからん」

2016-01-16 21:20:03
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