黄昏のブッシャリオン▲第二章▲

オリジナル徳パンク小説「黄昏のブッシャリオン」第二章です。
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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

徳カリプスに見舞われた後、人心は荒廃しているに違いない。一見整った街並みであっても、そこに暮らす人々が善良であることまでは保証しないのだ。つまりは、 「……直接行ってみるしかねぇか」 「まぁ、そういうことだ」 -------

2016-01-16 21:24:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……こんな文明が、まだ生き残っているとは」 『街』に入り、二人は息を呑んだ。そこは、別世界だった。 大気中に溢れる徳が、クーカイやガンジーのような不徳者にすら感じ取れるかのようであった。街は隅々まで掃除が行き届き、人々が善行を積む、自ら徳を生む者達の街。

2016-01-16 21:28:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……どこへ行きゃいいんだ」 「聞いてみるしかないだろう」 如何にも徳の高そうな住人に尋ねると、親切に「まずは住職さんのところへ行かれては」と『街』の中枢であるらしき寺への道順まで教えられる。 「……徳が高いな」 「高いな」

2016-01-16 21:32:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

同行して案内する、という申し出を断りながら、ガンジーとクーカイは教えられた寺へと向かう。 徳カリプス以前の世界では、寺院が共同体の拠点(ハブ)となっていることは珍しくなかった。ここでは、今でもそれが維持されているのだろう。 「……気に入らねぇ」 ガンジーが呟いた。

2016-01-16 21:36:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……これが、徳カリプス前の人間の生き方だろう」 とクーカイは返す。 「どのみち、この街で目的を果たせなければ……」 「……わかってる。それから、仏舎利もだ」 二人の口数は少ない。来訪者が珍しいのか、農作業に励む人々が手を振ってくる。ガンジーはそれを無視する。

2016-01-16 21:40:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……気に入らねぇ」 ガンジーは繰り返す。物質的な豊かさこそ失われたが、精神的な豊かさ……徳の高さがこの街では生き続けている。 この街は、徳カリプス以前から『変わっていない』。それに、何処か歪さを感じる。 車は、整備された幅広い参道を登る。街の中心は、山の上に建つ大寺院であった。

2016-01-16 21:44:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

一際目を引くのは、巨大な本堂。徳カリプス以前からの材木不足のためか、木造でこそないものの立派な建造物だ。だが、建物の扉は固く閉ざされている。 「定休日なんかな」 「寺に定休日があるか。いや、御開帳のスケジュールはあるだろうが……住職を探そう」

2016-01-16 21:48:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

車から降り、二人は境内へ入る。ロボット掃除機が参道脇の砂利を整えている。 「……ようこそ、お越しくださいました」 寺の奥から、声がした。見ると、徳の極めて高そうな僧侶が佇んでいる。 あの爺さんに雰囲気が似ているな、とガンジーは思った。

2016-01-16 21:52:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「はじめまして。俺はクーカイといいます」 「……ガンジーだ」 「クーカイ様にガンジー様。良いお名前です。拙僧はこの寺の住職、徳心と申します」 「……俺達を待ってたのか?」 「街の者から知らせを受け、お待ちしておりました。まずは、奥へ」

2016-01-16 21:56:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

二人は、寺の奥へと導かれる。だが、ガンジーの抱える違和感は大きくなるままだ。 目的地へと辿り着いた彼等に、この徳に満ち溢れた街が何を齎すのか……それを知る者は、もう、この世界には居ない。

2016-01-16 22:00:15
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章・第十一話へ続く

2016-01-16 22:04:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  クーカイ(Lv 1)(1/2) ガンジーとコンビを組む採掘屋。どちらかと言えば参謀役であり、一歩引いてストッパーとして機能することが多い。特技は運転と爆発物の取り扱い。趣味は料理。大柄でガンジーより年上だが、自らの過去について語ることは殆ど無い。

2016-01-16 22:08:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  クーカイ(Lv 1)(2/2) 数年前に行き倒れ同然の状態で街へ辿り着き、『街の外へ出られるから』という理由で採掘屋を始めた。どんな状況でも冷静である分、時折諦観が顔を出すことがある。ガンジー曰く「よくわからんけど頼りになる奴」、「作るメシが美味い」。

2016-01-16 22:12:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章・第十一話「住職」

2016-01-17 21:00:12
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……成る程、それはさぞかし、ご苦労されたことでしょう」 「……はい」 二人は、寺の方丈(注:住職の住んでいる建物)の一室へと案内されていた。外には、見事な枯山水が広がっている。あの廃寺にあったものとは違う、完全な形のものだ。

2016-01-17 21:04:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

二人は(というよりも、主にクーカイが)、これまでの事のあらましと街の窮状を一通り住職に告げた。但し『仏舎利』のことは除いて。 「ミラルパ老……宗派こそ大きく違えど、大変徳の高い方であったと耳にしておりました」 二人の前には茶が出されている。恐らくは、この街で自給されたものだろう。

2016-01-17 21:08:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

嗜好品にまで手が回るほど、この里は徳カリプスの惨禍から回復しているのだ。 「補給と整備については、後ほど詳しい者に頼みましょう」 「かたじけない」 ここまでの道中、燃料・食料もそれなりに消費している。補給は必要だった。住職はそれすらも無償でするという。

2016-01-17 21:12:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「そちらの街については……人を遣るとなれば、皆で話し合わねばなりますまい。暫くこの寺へ逗留なされませ」 「……本当によろしのですか。何か、対価などは」 あまりの徳の高さに、クーカイも思わず萎縮していた。 「そうですな。では、街……外の話を、改めて詳しくお聞かせ願えますかな」

2016-01-17 21:16:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……承りました」 話が一段落し、三人は茶を啜る。結果としては情報と交換、と取れなくもないが、恐らくそれすらも住職の気遣いであろう。 「しかし……見事なお庭だ。住職はかなりの徳をお持ちの筈」 クーカイは外を見遣る。手入れの行き届いた枯山水。 「滅相もない」

2016-01-17 21:20:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「エネルギーを狙う不届きな輩や、得度兵器に襲われることもあるのでは?」 クーカイは、ひっそりと核心を口にした。横で完全にふてくされていたガンジーが、ピクリ、と反応する。 この街に着いた時から感じてた違和感。何故、この街が徳に満ち溢れたままでいられるのか。

2016-01-17 21:24:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……そのような者も時折参りますが、エネルギーを分けてお帰り頂いています」 「そうですか」 徳エネルギーの性質上……人間相手ならば、それである程度通じるだろう。しかし。 「あの得度兵器……あの狂った機械については、どのように」 一瞬の、しかし確かな沈黙。

2016-01-17 21:28:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「『得度兵器』は、狂ってなどいませんよ」 その答えた一瞬。住職が本堂の方向に目を動かしたことを、ガンジーは見逃さなかった。 「狂っていない……と?」 「はい。彼等もまた……救われるべき者達です」 「……流石、徳が高いお方は違いますな」

2016-01-17 21:32:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

クーカイは、住職が答えをはぐらかしたことに気付いていた。だが、それ以上の追求はしなかった。 -------

2016-01-17 21:36:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「随分静かだったじゃないか、ガンジー」 「……あの住職、どうも胡散臭くてなぁ」 住職との話を終えたクーカイとガンジーは、車を整備するため街を移動していた。 「同感だ」 「そうか?」 「話をはぐらかそうとしていた。何か隠しているのは間違いない」

2016-01-17 21:40:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……そういや、あのデカい本堂の方をチラっと見てたな」 「何かあるなら、そこか……」 「もしかして、『仏舎利』の手掛かりが?」 仮に、この街が仏舎利……無限の徳エネルギー源を擁しているのならば、この豊かさにも頷ける。豊富なエネルギーは、人の心にすら余裕をもたらすからだ。

2016-01-17 21:44:02
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