黄昏のブッシャリオン▲第二章▲

オリジナル徳パンク小説「黄昏のブッシャリオン」第二章です。
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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「わからん。得度兵器についても何か知っている様子なのが気掛かりだが……」 「『得度兵器は狂っていない』、ね……忍びこむか?」 「気は進まんな」 ガンジーの提案は、手を差し伸べてくれる者の懐を漁るかの如き所業である。クーカイが気乗りしないのも無理からぬことであった。だが、

2016-01-17 21:48:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……いや、俺はやる」 「ガンジー?」 「見せて貰うだけだ。あそこまで徳の高い人間が隠し事をしているなら、何かトンでもないことに違いねぇ」 「……確かに、相手が徳が高いだけの人間ではないなら、裏を読む必要があるか……」 そうして、二人は本堂へ忍び込む算段を立て始める。

2016-01-17 21:52:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……なぁ、ガンジー。仮に忍び込んで、本当に何も無かったらどうする気だ?」 「そんときゃ、大人しく謝るさ。あそこまで徳が高い坊さんなら、それで許してくれるだろ」 ガンジーは悪びれもせず返す。 「……違いない」 クーカイは深く溜息した。

2016-01-17 21:56:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章・第十二話へ続く

2016-01-17 22:00:11
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  徳エネルギー兵器(1/3) ブッダ・レイとも呼ばれる、徳エネルギーを用いたレーザー/加粒子砲の類。得度兵器が独占的に使用する、オーバー徳テクノロジーの一端。最大出力のものは指向性徳エネルギー流によって、離れた対象物を強制的に解脱させる能力を持つに至る。

2016-01-17 22:04:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  徳エネルギー兵器(2/3) 但しエネルギー効率・回生率に問題を抱えているため、これで人間を強制成仏させた場合、徳エネルギー収支はマイナスとなる。そのため、大量の人間を成仏させることは難しい。燃費の悪い切り札。応用技術として徳エネルギーフィールドがある。

2016-01-17 22:08:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  徳エネルギー兵器(3/3) 尚、徳エネルギー兵器はその性質上非殺傷(但し解脱はする)であるため、得度兵器の武装が全て徳エネルギー兵器であるわけではない。得度兵器は通常の兵器類も搭載しており、障害物破壊等に使用される。

2016-01-17 22:12:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章・第十二話「侵入」

2016-01-18 21:00:14
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「警報装置は?」 「この構造なら、多分床下だな。リミットセンサと振動だけ気にすればいい」 その夜。闇に乗じ、ガンジーとクーカイは本堂への侵入を試みていた。 構造は昼間に把握済み。建物の側までは難なく近付くことができた。彼等二人は徳遺物採掘屋……即ち、寺に侵入するプロである。

2016-01-18 21:04:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「庭のロボットが巡回してくるまで、15分しかない。急ぐぞ」 「……しっかし、寺というより、何だか格納庫みたいな建物だよなぁ」 目の前の本堂には、巨大な観音扉めいたシャッターが付いている。開閉だけでも一苦労だろう。 「『元に戻す』ことを考えれば、派手な侵入はできんな」

2016-01-18 21:08:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

元来、寺というのはそこまで防犯に気を遣わないことが多い。この徳に溢れた里ならば尚更である。徳に満ち溢れた世界の住人は、基本的に他人を疑うことをしない。故に、そのガードはどこか緩く……侵入を更に容易にする。それでも、「侵入した痕跡を消す」ことを考慮すれば、難易度は跳ね上がる。

2016-01-18 21:12:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「庭のロボをやり過ごす方法を考えるか?」 「いや、正面の電子ロックが古い。正攻法で行くぞ」 「了解」 クーカイはガンジーの返事を待たず、電子錠に端末から伸びる端子を捻じ込む。 「3、2、1……開いた」 ピーッ、という電子音を立て、パスワード式のロックはあっけなく解除された。

2016-01-18 21:16:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「おい、早過ぎるぞ」 「ブルートフォース(注:総当り)じゃないからな。鍵も旧式だ」 ロックのパスは『tokushin』であった。 「しかし……まさか名前そのままとは」 「徳ボケした奴らの管理なんて、そんなもんだって」 小声で囁き合いながら、本堂の開閉扉スイッチを押すガンジー。

2016-01-18 21:20:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

……ゆっくりと、観音シャッターが開いていく。 「……デカい」 その隙間から徐々に姿を現すのは、巨大な仏像……弥勒如来像であった。 「この里の繁栄も頷ける」 仏像はある種徳のバロメータである。そして、弥勒如来は遥か未来に救済を齎す仏。未来へ向けて徳を積み上げる里の象徴めいた姿。

2016-01-18 21:24:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……何かあると思ったが、思い過ごしか」 しかし、 「……いや」 ガンジーは何かに気付いた。 「この大仏、『新しすぎる』」 「どういうことだ」 「徳カリプス後に、このサイズの仏像と本堂を作れるか?」 「……この里の規模では、恐らく無理だろうな」

2016-01-18 21:28:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「でもよ、この新しさ……多分、出来てから十年くらいしか経ってねぇぞ」 答えは一つ。これは何処か別の場所で作られたものだ。 「この規模の仏像を製造できる里と、交易があるということか」 「それが隠し事、ってのも妙な話だが……」 「他の街と交流があるのかどうか、明日聞いてみるとしよう」

2016-01-18 21:32:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「仏舎利の話もな」 「ガンジー、そろそろ時間だ。一度戻るぞ」 警備ロボットの巡回時間が近い。 「勘は外れたか……まあ、折角だから、ちょっとお参りしてこうぜ」 「困ったときの神頼みってやつか」 「仏様だけどな」 ……そう決めて、二人が手を合わせた直後。 仏像の眼に、光が灯った。

2016-01-18 21:36:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……これは」 「ず……随分と、手の込んだ仏像じゃねぇか」 ガンジーの声が上擦る。弥勒如来像の腕がゆっくりと稼働し、印を結んだ。 「違う。コイツは、『得度兵器』だ!!」 巨仏の足が次第に持ち上がる。得度兵器タイプ・ミロクMk-Ⅱ。それが、その『仏像』の真の名であった。

2016-01-18 21:40:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「不味いな」 侵入した二人の不徳者を感知したのか、或いは『参拝』による微かな徳に反応したのかは、定かではない。だが、厳然たる事実として二人の目の前には全高20mを越す得度兵器が稼動状態にある。 「ガンジー、どうする!?」 「逃げるぞ!」 判断は0.1秒。二人は踵を返す。

2016-01-18 21:48:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

……『それ(It)』は、元々人に近く作られていた。故に『それ(It)』が『全人類を解脱へ導く』という最終目的を獲得し、『得度兵器』となった時。その姿を得たのは必然とすら言えるだろう。 人に限りなく似た、人を導く存在。それはまさしく、神であり仏であるのだから。

2016-01-18 21:48:10
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

動く弥勒如来像……いや、タイプ・ミロクが最初の一歩を踏み下ろす。本堂が揺れる。そして……その指先に光が集い始める。 「考えるのは後だクーカイ!走れ!」 得度兵器の持つ徳エネルギー兵器。その直撃を受ければ、悪くて焼死、良くて解脱。どちらにせよ、生物としては死に至る。

2016-01-18 21:52:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「いや、ガンジー!『転べ』!」 クーカイが叫ぶ。二人はわざと姿勢を崩し、ガンジーの頭の上を徳エネルギービームの光条が通過した。 「うおっ!」 二人は転がり出るように本堂の外へ脱出し、開閉扉の『しまる』ボタンに拳を叩き込む。シャッターが閉まる。 「……ハァ、ハァ、閉じ込めてやった」

2016-01-18 21:56:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

だが、その直後。本堂から、光の柱が天へと上る。 「おいおい、街ごと成仏させる気か!?」 二人は、その光に見覚えがあった。臨界に到達した徳エネルギーが放つ、解脱の光。それに限りなく近く、しかし異質な何か。 「伏せろ!」 クーカイはガンジーの頭を抑えこみ、無理矢理伏せさせる。

2016-01-18 22:00:12
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

次の瞬間、本堂が『破裂』した。 得度兵器がエネルギーを開放し、余波で本堂が吹き飛んだのである。 「これが……得度兵器」 呆然とするガンジー。そして……炎と煙の中から、足音と共に巨大なシルエットが姿を現す。

2016-01-18 22:04:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

得度兵器。人々を救済するための機械。ブッダ・エクス・マキナ。数多の名を持つ『それ(It)』は、今。ただ二つのか弱き命を救うために、ゆっくりと、歩みを進めていた。

2016-01-18 22:08:03
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