黄昏のブッシャリオン▲第二章▲

オリジナル徳パンク小説「黄昏のブッシャリオン」第二章です。
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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二章・第二十話「問い」

2016-01-25 21:00:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

その時。得度兵器の内部では、ある演算が行われていた。 ……それは、『解脱の拒絶』という命題に対する演算である。 目の前の人間が、解脱を拒絶する行動を取った。このような事態は、少なくともこの得度兵器は経験したことが無かった。それは『解脱を望む者達』を解脱させてきたが故のこと。

2016-01-25 21:04:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

解脱の拒否という前提は、わずかに前の結論への再検討を迫る。『わたしを……たすけて』つい先程行った演算に、新たなパラメータが加わる。解脱以外の可能性。それを求め、『得度兵器』は思考を続ける。いや……解脱という結論を疑った時点で、『それ』は、もはや『得度兵器』では無かった。

2016-01-25 21:08:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

答え無き問は思考を果てなきループへと導き、リソースを永遠に吸い上げ続ける。 自らの存在意義を疑ったが故の無為。真なる救済への問が解決されることは、決して無い。 ------

2016-01-25 21:12:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「止まっ……たの?」 「最後のあがきか。驚かせやがって」 ガンジーが悪態をつく。 「一回、上まで上がろう。こいつを分解する必要がある」 「でも……これで」 少女の背筋を、えもいわれぬ快感が走る。

2016-01-25 21:16:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

『かみさま』を、屈服させたという背徳の快感が。自らの日常は永遠に失われたのだという希望が。 だが、二人はまだそれに気付かない。 「ああ。ミッション完了だ」 「やったな」 ガンジーとクーカイは拳をぶつけあった。

2016-01-25 21:20:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

これは、小さな小さな始まりに過ぎない。人類は依然危機に瀕し、世に徳少なく、得度兵器が地上を跋扈する。それでも明日への希望は繋がり、勝ち取った勝利は、確かにその手の中にあった。

2016-01-25 21:24:00
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

嘗ての地上には、文明に徳エネルギーという光が満ちていた。だが……我々は忘れてはならない。世に光あらば影もある。徳の世界がどれほど光り輝くものであっても。いや、光り輝くものだからこそ、影は一層濃さを増すことを。

2016-01-25 21:32:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

南極。嘗ての人類が唯一根を下ろすことのできなかった大陸の地下に、男は居た。薄暗い部屋の中は何百枚ものモニタで埋め尽くされ、様々な場所の映像を表示している。 男の頭の半分は、仏像めいたマスクで覆われていた。

2016-01-25 21:36:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「そうか……ミラルパが逝ったか」 ハーフブッダマスクの男は呟く。 「これで、徳エネルギーを識る者は、私を含め残り3人」 カツン……カツン……男は立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。 「結局のところ、人に徳エネルギーは過ぎた力ということか」

2016-01-25 21:40:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

男は自問する。 「いや、そうではない。徳エネルギーそのものが、滅びを内包している」 それは、長年の研究によって導き出した結論。男の仏像ではない側の顔は、老齢の男性のものだ。 「徳カリプスを迎えて尚、人類は徳エネルギーへ固執する。我が教え子の解脱は、その証に他ならない」

2016-01-25 21:44:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

男は声を荒げる。それを聞く者は無い。 「全ての人類は、道を譲れ!!」 男の仏像マスクの目が見開かれ、その目に光が宿る。解脱と同じ色をした光が。 「あと僅か……あと僅かで、星々の世界から最後のピースが『帰還する』。外法によって生き続けるこの身はただ、その時を見届けるために!」

2016-01-25 21:48:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

光る男の視線は、部屋の奥のカプセルを照らす。そこには、透明な液体容器があった。容器の中には、人の貌をした何かがあった。それは人類ではなかった。『それ(It)』は、そこにあった。

2016-01-25 21:52:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

男のいる場所の、遥か地下。そこには、数百の得度兵器が蠢く。人類域の外にあるこの大陸こそが、得度兵器の根拠地であるのだ。 その姿は様々だ。仏像型のみならず、人類を救済するために作られたありとあらゆる偶像(イコン)を模した得度兵器が、その数を増している。

2016-01-25 21:56:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

拉致され、強制的に出家されられた人間の生み出す徳エネルギーを用いて得度兵器の生産が行われるのだ。ハーフブッダマスクの男は、それを手助けしていた。だが、何れ得度兵器は完全に自律した存在になると男は確信していた。 得度兵器は進化を続ける。全ての人類を、解脱へと導くために。

2016-01-25 22:00:13
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第三章・第二十一話へ続く

2016-01-25 22:04:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips ??? ハーフブッダマスクの男。自らの肉体を改造して百数十年を生き永らえ、その身は既に人間の域を外れるが故解脱をも退ける。徳エネルギー研究者としては老ミラルパの師匠筋に当たる。徳カリプスを生存し得度兵器に与するが、その目的は現在のところ不明である。

2016-01-25 22:08:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

※追伸:第二章予告にあった場面が一部無い点について原作者を物理的に直撃した結果、 「予告はイメージ映像的なものであり、その段階から文章を弄ったりするし、場合によっては内容に次章へ繰り越すこともある。次章を待って欲しい」 との返答を得ました。

2016-01-25 22:13:56
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆予告◆ 行動不能の得度兵器を解体するガンジー達。徳溢れる里の人々は、その行為に何を思うのか。少女は果たしてどうなるのか。 そしてガンジー達の帰路もまた、平坦ではない。仏舎利の手掛かりを求め、探索を続ける彼等は、遂にそれに出会う。 ◆黄昏のブッシャリオン第三章◆ ◆待て次回!◆

2016-01-26 22:24:02
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