黄昏のブッシャリオン▲第四章▲

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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

▲お知らせ▲ 本日より第四章が始まります。話数は三十三話から始まる(三十二話はカウントミスにより欠番)ので、ご注意ください。

2016-02-10 12:10:16
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

▲黄昏のブッシャリオン▲第四章・第三十三話「行きて帰りし物語」

2016-02-10 21:00:16
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「納得行かねぇ」 「色々あったが無事に目的も果たせた。しかも護衛付き、これ以上は望めまい」 「んー」 「釈然としねーなぁ……」 「格好が付かない、の間違いだろう」 「なっ、何で知ってんだよ!」 クーカイは溜息を吐く。ガンジー達一行は既に、懐かしき街への帰路へ就いていた。

2016-02-10 21:04:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

後ろには徳ジェネレータを初め、得度兵器の部品を満載した牽引トレーラーが続く。 同行者も増えた。ノイラを名乗る舎利ボーグの女。そして…… 「すごい……」 外の風景に、目を輝かせるガラシャ。 何故彼女が同行しているのか。それは昨晩、ガンジーが腕を極められていた時刻にまで遡る。

2016-02-10 21:08:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

------ 「成る程……交易するとなれば、使節が必要ですな」 議題は、交易の話題へと移る。クーカイの前では、街の長老格達が額を寄せ合っている。 「それはまぁ、確かに」 「しかし、街は意志決定にすら難渋しておりましての」 「ご尤もで」 街の機能中枢であった寺は既に無い。

2016-02-10 21:12:09
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

クーカイは、自分たちが原因の一旦という弱味があるため、強気に出られない。 「今しばらくは使節団を選ぶ、ということもままならないのですじゃ」 「はあ」 意思決定機構の再編には時間がかかるやもしれない。クーカイは、交易は一端諦める方針を考えに入れ始める。

2016-02-10 21:16:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「かといって、街を建て直すまでお待ち頂く訳にもいかぬご様子」 「それは、確かに」 クーカイ達の街の危機は去ってはいない。新たなエネルギーを得るためには、徳ジェネレータを持ち帰り、それを設置する必要がある。残された時間は、一刻を争うほどでもないが、然程余裕がある訳でもない。

2016-02-10 21:20:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

徳溢れる人間をこの街から招くことが出来れば、徳ジェネレータの燃料問題も解決されるのだが……そこまで望むのは強欲というものか。 帰路に廃寺を漁るか、或いはクーカイ達以外の採掘屋が『当たり』を引いていることを期待すべきか。 「では、交易の話は保留ということに」 「まぁ、待ちなされ」

2016-02-10 21:24:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

クーカイが議論を切り上げようとした時、老人の一人が口を挟んだ。 「確かに、街としては使節を出すのはちと難しいやもしれぬ」 「左様。しかし、行きたい者が行くぶんには……強いて止めることはできませんでの」 「……それは、まさか」 「これは我々にも益のある話である故」

2016-02-10 21:28:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「左様。我々の街は……これから先、在り方を変えざるをえまい」 得度兵器との共生は失われた。この街が得度兵器の勢力圏の内にあることは変わらない。 だが……それでも尚、街の人間達の心には何かが芽生えていたのかもしれない。 「若いうちに違う在り方を知るのは、悪いことではあるまい」

2016-02-10 21:32:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「有り難い……」 クーカイは老人達へ頭を垂れる。 かくして、ガラシャは徳無き街への旅路へ同道することとなったのだ。 --------

2016-02-10 21:36:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

旅路は順調そのものであった。得度兵器の待ち伏せも想定されたが、巡回中のタイプ・ブッダへ遭遇することすら無かったのだ。但し……一度だけ、空を飛行型得度兵器が掠めた。 遥か高空を超音速で飛ぶ、高速飛行型得度兵器。タイプ・ガルーダ。恐らく偵察だろう、とノイラは言った。

2016-02-10 21:40:09
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「無駄遣いをする気は無い、ということじゃないか」とも。 音速の数倍で空を駆ける聖鳥との邂逅は、ほんの一瞬の出来事だった。それでも、彼等の心には拭いがたい畏怖が刻まれた。 『あんなもの』と戦いながら、明日を探し求めることなど、本当にできるのだろうか、と。

2016-02-10 21:44:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

それでも、見慣れた街は近付いて来る。出発した時と変わらぬ、雑然とした街が。ガンジー達は戦果を持ち帰り、それによって街は救われるだろう。 だが、彼等の心には……今や、目指すべき『その先』が宿り始めていた。

2016-02-10 21:48:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

▲黄昏のブッシャリオン▲第四章・第三十四話へ続く

2016-02-10 21:52:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips アフター徳カリプスの世界(気候編)(1/3) 人類活動の大幅な縮小・及び徳カリプス時に大気上層へと巻き上げられた粉塵によって、気候には変化が生じはじめている。大まかには日射量の減少並びに寒冷化の兆候が見られ、局所的には砂漠化が進行している。

2016-02-10 21:56:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips アフター徳カリプスの世界(気候編)(2/3) 徳カリプス時に発生したエネルギーが大気層内に保たれている間は気候変動は最小限に抑えられるが、長期スパンで見た場合、氷河期の到来すら考慮する必要がある。徳カリプス以前の人類も同じ可能性を危惧していたところがある。

2016-02-10 22:00:12
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips アフター徳カリプスの世界(気候編)(3/3) やがて訪れる氷河期に対し、幾つかの対抗策は考案されたものの、大規模な人為的環境改造は功徳の減少を招く可能性があるため、実行は見送られた。仏舎利衛星(ブッダ・サテライト)も一部がその機能を担っていた。

2016-02-10 22:04:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

▲黄昏のブッシャリオン▲第四章・第三十四話「明日の道標」

2016-02-12 21:00:11
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「疲れた……」  ガンジーは机の上でへたれている。何時もとは頭の使う場所が違うのだ。  街へ帰った彼を襲ったのは、徳エネルギーに関する集中講習であった。ガンジーやクーカイ、暇を持て余してるガラシャ他、街の若者数人が受講したものの、全員例外なく頭から煙が吹き出ている。

2016-02-12 21:04:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「うん、概ね頭の出来自体は悪くないな。今日で定性的な話は終了だ。次からは応用数学分野に踏み込んで、徳物理学に不可欠な群論を基礎から……」 「ちょ、ちょっとは手心を……」 「ペースが早過ぎるか。ふむ……なら、明日は復習に充てよう。今日中に質問事項を洗い出しておくように」

2016-02-12 21:08:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

講師役のノイラは平然と課題を出し、教室から去る。 講義そのものがわかり辛い訳ではないのだ。ただ、純粋に量が多い。そして、ペースが早い。 「徳エネルギー抽出時のブッシャリオンの振る舞いは田中モデルに従うが、マニタービンによる変換時は波動性が顕著に現れる……と」

2016-02-12 21:12:11
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「クーカイはよく付いてけるよな……」 「これでも、かなり苦労しているんだが」 メモを広げるクーカイを横目で見るガンジー。こんなところでも、相棒の得体の知れなさが透けて見える。 「後で見てやろう」 「うっせぇ」 クーカイが徳カリプス以前、何処で何をしていたのかをガンジーは知らない。

2016-02-12 21:16:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

だが、今更それを訪ねるのも憚られる。本人も話す素振りはない。言わないということは、言えないということだ。多少気になる時もあるが、無理に問い詰める気はない。 「おい、ガラシャ……死んでる……」 ふと隣を見ると、少女は完全に寝ていた。『教室』全体でも三割程が撃沈している。

2016-02-12 21:20:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

五割はガンジー同様頭から煙を噴き上げているし、まともに生きているのはクーカイと……あの老人の『孫娘』くらいのものだろうか。 徳カリプス後の十四年という時間は、長い教育の空白を作り出してしまった。ガンジー達は今まさに、そのツケを被る立場にあると言えるだろう。

2016-02-12 21:24:01
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