ぼのくんを家にかくまう爺さんのおはなし

まとめた。
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使い捨てぼのくんを拾い、家に置いている爺さんがいるらしい。 当然、ゴミ屋敷扱いだ。その爺さんは誰も家に入れないし、人も入ろうとはしなかった。 汚い、はやくいなくなって欲しいなど、爺さんを侮蔑する人もいた。 だが、俺は徐々にその爺さんが気になってきた。

2016-02-21 01:24:46
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ぼのくんというのは、まぁ、生きたオナホみたいなもんだ。大抵は使い捨てで、一回尻に中だしされたら捨てられる。工場だったり、ぼのくん捨て場だったり。時には路上で泣きながら「物」に変わり果てるぼのくんもいた。 みんな、みんなぼのくんを使っていた。ペットボトルのように、道端に捨てていた。

2016-02-21 01:27:43
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そんなぼのくんを「者」として扱ってるときたもんだ。どんなボケ爺さんか、気になってしょうがない。俺は物珍しさで見に行くことにした。 爺さんの家は、街から少し離れた場所にあった。そこそこにでかい家で、中々金持ちらしい。 家からは、何も聞こえない。出かけているのだろうか?

2016-02-21 01:30:48
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「ワシの家の前で何をしておる」 後ろから響く声。振り返ると、白に近い薄紫の髪の長い老人の姿。 なるほど、こいつが例の爺さんか。 「いえ、少し道に迷いまして。」 「嘘をつくんじゃない。お前さんからはあの街の臭いがする。早々に立ち去るがよい。」

2016-02-21 01:34:49
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その声からは、蔑みを感じた。それに、手慣れている。なるほど誰もこの家の中を見たことが無いわけだ。ますますこの爺さんに興味がわいた。 「...正直に話しましょう。私は、貴方に興味がある。物として捨てられるぼのくんを、者として扱う貴方に。」 爺さんの眉が、少し動いた気がする。

2016-02-21 01:39:41
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「なるほど、嘘ではないようだな。...誰にも話さないというのなら、入れてやろう。」 「誓いましょう、このことは、胸の内に。」 白い眉が垂れさがる。 「よかろう。久しぶりの客人だ、もてなしてやろう。」 頑固でなくて助かったと、少しばかり思いながら、俺は爺さんの後をついていった。

2016-02-21 01:42:52
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「おじーちゃんかえってきた」 「おかえりなちゃい」 「おにーちゃんだれ?」 ぞろぞろとぼのくんが廊下を走ってくる。見たところ、ざっと10人はいる。 「ああ、ただいま。こちらの若人は客人だ。丁重にもてなしてやれ。」 「わかった!」 「おかしじゅんびすゆ!」 「じゅーすもだしゅ!」

2016-02-21 01:47:25
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たくさんのぼのくんが、またぞろぞろと奥に消えていく。 「...いっぱいいますね」 「まだおるぞ。確か...今は68くらいか。」 68という数字に、驚愕した。いくら大きい家とはいえ、そんなに入るとは思えなかったからだ。 「居住スペースは大丈夫なんですか?」 恐る恐る聞いてみる。

2016-02-21 01:51:06
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「問題ない、この家は地下室もある。大抵のぼのくんはな、劣悪な環境に慣れてしまっておる。だからだろうな、薄暗い地下の方が安心するという奴らもいるのだよ。」 ケラケラと笑いながら、爺さんと俺は廊下を進む。その言葉から、この爺さんのかくまっているぼのくんは大体が使い捨て品だと予想した。

2016-02-21 01:54:24
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そうこうしている間に、居間についたらしい。椅子に座るといい、という言葉に従い腰をかける。物珍しさからか、ぼのくんがわらわらと集まってくる。 「おかしもってきた」 「じゅーすも!」 「よしよし、いい子だ。」 「おにーちゃんのおてておっきいね」 「おにーちゃんのひざにしゅわゆ」

2016-02-21 01:59:50
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「これこれ、勝手に座ろうとするんじゃない」 「いいんですよ、ほら、よっと!」 「おにーちゃんのひざあったかい...」 ゆっくりと目をつむり、寝息をたてるぼのくん。こうして見ると、やはりぼのくんを物として見れなかった。俺も、この爺さんと同じように...いかれているのだろうか?

2016-02-21 02:03:02
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「ところで...だ。」 爺さんの目が、こちらを見据える。 「何でしょう?」 こちらも、真っ直ぐに見据える。 「お前さんは、ワシに興味があると言ったな。...理由を聞かせてもらえるか?」 目を細め、試すように見続ける爺さん。眼光に負けないように、しっかりと目を見続ける。

2016-02-21 02:05:05
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「...私は、ぼのくんという物がわからないのです。」 「ぼのくんは物じゃろ?お前さんは違うと思っておるのか?」 「...私は...彼らが、消費されるだけの物ではなく、生きている...そう感じるんです。」 「ほう...物珍しいな。何故そう思う?」 爺さんの視線が、より強くなった。

2016-02-21 02:09:12
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「彼らには、感情がある。自分の心を、彼らは持っている。...私は、心苦しかった。道端で投げ捨てられ、飢えて死ぬぼのくんの姿を見るのは、辛かった。でも...助けられなかった...!」 「...」 「でも、そんな彼らを拾い、生かしていると聞いた時...見てみたくなったんです。」

2016-02-21 02:12:03
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「ティッシュのように使われ、ボロ雑巾のように捨てられるぼのくんを、助けているというあなたが、どんな人か見たかった。それだけです。」 「...そうか。」 爺さんの目から、敵意が無くなった。今感じられるのは、慈しみだった。 「...今から、昔話をしてやろう。長くなるが、いいか?」

2016-02-21 02:13:59
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無限で頷く。ため息が、居間にこだました。 「よかろう。では話すとしよう。君の街に、とても大きい廃墟があるだろう?あそこは昔、あの街に住んでいた貴族の家だった。今はもう、あの家を捨てて何処かに行ったらしいがな。」 よく知っている。あの家は、子供の頃からの遊び場だったからだ。

2016-02-21 02:19:18
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「ワシはな、あの家の貴族に恩がある。道端で捨てられ、傷だらけで餓死する寸前のワシを、あの家の夫婦は...手を、差し伸べてくれた。ワシの右目はひどく傷つき、その時は見えなかったが、今でもその男の顔は覚えておる。」 「...あなたは...」 「おそらく、お前さんの思ってる通りだよ。」

2016-02-21 02:25:34
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「ワシも、あの子たちと同じ、使い捨てぼのくんだったからな。」

2016-02-21 02:26:09
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「...」 「この子たちを拾って家に住まわせてるのも、それが理由。ワシだけ救われて、他のぼのくんが救われない。そんな道理はなかろう。だからこそ、ワシは助け続ける。あの男に...あの貴族に少しでも恩返しのつもりでな。まぁ、こんなところじゃな。」

2016-02-21 02:31:10
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「こんな老いぼれの話を聞いてくれてありがとう。そろそろ日が暮れる。今日はもう帰りなさい。」 穏やかな目で、こちらを見る爺さん。私は、もう思い出しているのだが。 「1つ、聞きたいことがあります。」 「なんだ?」 「あの家の貴族には、孫がいたはずです。5歳まで、あの家にいた子供が。」

2016-02-21 02:34:19
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「よく知っているな。確かにおったわい。ワシもよく、頭を撫でたのう...それがどうした?」 「やはり、あの時の...!」 「...?」 俺は、自分の名前を告げた。あの家で生まれ、あの家で育ち、そして、あの家を捨てて逃げた、貴族の孫の名前を。

2016-02-21 02:38:16
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「ああ...あの子なのか...!生まれて、私が頭を撫でて、遊んだあの子が...こんなに大きくなって...また会えるとは...!」 爺さんは涙を流しながら、私の手を握った。 「ぼんやりとしか覚えてなかったから、姿を見ても気づきませんでしたが...ようやく会えた...。」

2016-02-21 02:41:15
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「よかった...ワシが死ぬ前に、また顔が見れて...」 「...もう、長くはないのでしょう?」 「気付かれたか...もう、あと1年も経たずに、ワシもあの世行きじゃ。でも...」 「この子たちは、私が守ります。決心がつきました。私も...ぼのくんを助けたい。」

2016-02-21 02:45:32
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「カカ、すべてお見通しか。では、頼みますぞ..."坊ちゃん"」 「ええ、お任せください。」 私の、友よ。

2016-02-21 02:47:37
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ぼのくんを助けていた爺さんが死んだ。人間でいえば94歳。大往生もいいとこだ。街の人間は悲しむ...わけもなく。 だが、街は大騒ぎだった。かつて街を統治していた貴族の孫であった男が、街から姿を消したのだ。 どこに行ったのかわからぬまま、日だけが過ぎていった。その男はどうしてるか?

2016-02-21 02:51:53