【小説】『潤に干上がる同い年』#0~4

前作・当たり年( http://togetter.com/li/850706 )を生き延びた瞬間記憶能力を持つ少年が脳味噌ハックされる話。
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天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「貴様にかけられている脳力は七種類だ。 視神経情報を搾取するもの、 記憶を一時的に書き換えるもの、 人格を乗っ取るもの、 聴覚神経を麻痺するもの、 痛覚を不感症にするもの、 ネガティブな精神状態に傾けるもの、 そして貴様の視野から特定の物体を消すもの…」 驚くほどに、隙がない。⑦

2016-02-27 09:13:11
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

かなり緻密に俺の瞬間記憶能力を封殺している。それだけ相手は俺のことを知っていて、警戒する必要があるということだろう。つまり今の俺の状態は、俺が何を見て何を記憶しているのかが全て相手にお見通しで、都合の悪いものは消去できて、その気になれば簡単に俺を自殺させられるというとこだろう。⑧

2016-02-27 09:14:19
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

なんだそりゃ。 「スーパー大ピンチじゃん!」 一人じゃ詰みだ。笑うしかない。 というか、相当俺の存在をかなり厄介だと感じている相手らしい。手っ取り早く俺を殺しに来たりせず自殺させようとしてる辺り、慎重すぎるだろう。 つまり相手は俺をよく知る人物なのか。いや、それどころじゃない。⑨

2016-02-27 09:16:23
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

このままじゃ誰も気づかぬうちに俺は殺される。しかし…俺にはどうやら助けてくれる人がいるらしい。 目の前の、羽縦夜鷹が。 俺は泣きそうになりながら笑った。 「やっと事態が飲み込めたか」 「ああ…皆がヤバいって言ってた意味がよくわかった」 「皆?」 と、夜鷹は興味深そうに俺を見る。⑩

2016-02-27 09:19:13
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

そうか。クラスメイトだったシュウに顔が似てるからすっかり失念してたけど、出会ったばかりの夜鷹は俺に丁字路三咲という親友がいることを知らない。 しかし友達の話が気になるなんて、なんかコイツ俺の親父か何かみたいだな。 俺の父親は俺に殺されたらしいけど。 「あっ」 「どうした?」 ⑪

2016-02-27 09:21:00
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

そうだ、丁字路で思い出したけど、俺は職員室に倉庫の鍵を取りに行って螺子を補充しないといけないのだった。 鍋食ってる場合じゃねえ。 「…急いでる………けど……鍋食わないと命に関わる……」 「そうだな、白菜は熱いからよく冷まして食うと良いぞ」 急いでるっつってんだろこのドンタコス。⑫

2016-02-27 09:23:20
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺が熱々のまるごと白菜と格闘しているのを見ながら夜鷹は笑った。 「今日はとり急ぎ厄介な、「人格を乗っ取る」脳力群を解除した。これからは私が屋上を見張るのでこれで貴様はもう飛び降り自殺することはないだろう」 ありがとう。 これで少しは丁字路に心配をかけさせなくても済むことだろう。⑬

2016-02-27 09:25:02
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

けど白菜が全然冷めない。俺は少しずつ噛み千切って食べ進める。 「旨いか?」 味わってる場合じゃないけど鶏白湯もなかなかいける。俺は喋れないので空いた手で親指を立てた。そうか、と夜鷹は満足そうに頷いた。 ようやく白菜も半分になった。その頃合いに夜鷹は裏から追加の食材を持ってきた。⑭

2016-02-27 09:26:27
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「実は蟹もあるのだが・・・」 「だから急いでるっつってんだろこのニワトリヨタカ!」 *** ⑮

2016-02-27 09:28:09
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

白菜をまるごと一個食ってしまったのもあってかなり腹が満足な中、俺は急いで職員室から倉庫の鍵を借り、美術系倉庫から組み立て用の長い螺子を六本拝借して戻る。 かなりのんびりしてしまった。 一分一秒でも早く帰らないと丁字路介護福祉士により大幅に自由に徘徊できる時間が減らされてしまう。⑯

2016-02-27 09:30:28
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

せっかく脳力を解いてもらったのに…まあ解いてもらったと言っても俺の意識を乗っ取るものだけで実際厄介な物がまだたくさん残っている。赤信号を見間違えた「特定の物体を視野から消すもの」と「記憶を一時的に書き換えるもの」。左手をズタズタにしても気づかなかった「痛覚を不感症にするもの」。⑰

2016-02-27 09:32:30
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

しばらく高三春の要介護生活は続きそうだ。 「あー!!いたいた横様!」 と、遠くからでかい声で俺を呼ぶ誰かが走ってくる。 誰だかすぐわかった。確実に怒ってる。ヤツを見たくない。 しかしそんな俺の乙女心など吹っ飛ばすように、丁字路は疲弊している肉体で走り飛び膝蹴りをかましてきた。⑱

2016-02-27 09:33:45
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「あぶなっ」 俺はそれをかわした。瞬間記憶って瞬発力にも繋がるから便利。 丁字路は普段なら前転でもして華麗に着地するだろうが、そのままぶっ倒れた。 「大丈夫か丁字路」 「…ッきしょォ…大丈夫かじゃねーよ!お前なかなか戻ってこないから心配したんだぞ」 「悪い。ちょっと…トイレに」⑲

2016-02-27 09:35:01
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「…何、くそ長いクソ?」 「ひもQくらいはあったかな」 「ほんとかよ?また危ないことになってたんじゃねえの?」 普段なら言い訳しても言及してこないのに今日はやたらと気にしてくるな。それだけ今の俺に危なっかしさを感じているのだろう。今朝も丁字路が転んだだけで叫んでたし無理もない。⑳

2016-02-27 09:36:29
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

一刻も早く夜鷹に全ての脳力を解除してもらい、俺に脳力をかけた奴らを探さないと。 「…羽縦、夜鷹か」 アイツが何者かはわからない。ただ風見鶏秀を作った研究者で、脳力を見ただけで似たようなことができる、恐らく脳力の天才で、「急ぐ問題じゃない」と自分の正体もろくに明かしてこない変態。㉑

2016-02-27 09:37:58
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

ただ俺に味方だとだけ言ってきた辺りめちゃくちゃ怪しいものだが、唯一この俺の置かれてる状況を救済してくれる頼みの綱である。 彼は別に丁字路や急愛には自分のことは内緒とか言ってなかったが、変に吹聴して彼がやりづらくなってしまうと仕方ないので、黙秘してこっそり屋上に通うことにした。 ㉒

2016-02-27 09:39:28
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「…なんかお前、顔色悪くねえ?」 ふと丁字路が俺の顔を窺いながら言った。俺は口癖なのか「そんなことないぞ」と返したが、恐らく具合は良くないのかもしれない。 なんだかさっきからふわふわしてるし、考えまとまらないし。 さっき夜鷹と話してるときも、呂律が…。 あれ。 足に、力が。 ㉓

2016-02-27 09:41:01
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「あ?おい横様!?」 俺の体は魂を抜かれたように脱力し、やがて床に倒れ伏した。 腕に力が入らず、体を投げ出し手に持っていた六本の螺子が散らばる。 「横様っ!!」 丁字路の声が徐々に遠のいていく。 音の一切届かない、暗闇へ。 俺の意識はそのまま、奈落の底へと…落ちていった。 ㉔

2016-02-27 09:42:30
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