【艦これリレーSS】朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

貧民街は文字どおり貧しき民の住まう地だ。寄る辺ない彼らは政府が許可していない土地に家屋を不法に建て、電気すら近くの発電所から違法に盗んで生活している。そういった輩が集まり改築し、増築し、繋ぎあわせた結果街になったもので、中はちょっとした迷路になっている。 #朝潮バレンタイン

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当然、まともな職に就くものは少なく、脛に傷のあるものも多い。とは言え日本のそれとは比べようもない、あちらのそういった輩は重火器で武装し、装甲車紛いのものまで所持しているグループもある。そして彼らはほぼ例外なく麻薬ビジネスに加担していた。 #朝潮バレンタイン

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麻薬一掃を謳った政治家が翌日鉛弾で体重を増やして見つかるような地だ。ノーマンズランド。そんな地に身なりがよい日本人の、それも少女が一人出歩けば、そうならない方が異常だった。 「何ですか！あなた達は！」 いつの間にか背後に群がっていた男達を前に朝潮は構える。 #朝潮バレンタイン

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だが彼らは答えないニヤニヤと笑いながらナイフや銃に手をかける。 「…と聞く方が愚かでしたね。失せなさい！今なら見逃してあげます！」 それを聞いて一瞬の空白の後に爆笑しだす男達。それはそうだろう、眼前にいるのはどう見たって小学生くらいの小さな女の子なのだから。 #朝潮バレンタイン

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「仕方ありません…ねッ！」 朝潮は近くの鉄製の水道管を素手で引きちぎると、グニャグニャに丸めて男達の足元に転がした。艤装は背負わずとも朝潮は艦娘だ。普通の人間とは身体能力が違う。 「私は日本国の艦娘です。手を出せばタダでは済まない上、国際問題になりますよ！」 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

朝潮のとったそれは、最善の行動だった。 男たちは動きを止め、目配せをし、朝潮に聞き取れない小さな声で囁き交わすと素直に道を譲った。 それは最善の行動だった。 最善の『営業活動』であった。 朝潮は一瞬で、男たちにとっての自らの値を、限りなく高めてみせたのだ。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

男たちは朝潮の、厚く膨らんでいるだろう財布が目当てだった。 男たちは朝潮の、まだ膨らみかけの肢体が目当てだった。 今では違う。 貧民街の住人にとって、麻薬カルテルに協力することこそが、惨めな生活から抜け出す最短の道であった。 朝潮を彼らに渡せば、未来が開ける。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

ナイフでは駄目だ。拳銃を。 拳銃でも足りない。山羊の角を。 朝潮の前を引いた男たちは、同じ蜘蛛の糸に縋る仲間に声をかた。男たちは手に手に山羊の角、AK47自動小銃を持って密かに、朝潮を包囲した。 そして集ったのは男たちだけではなかった。 子供にとっても、また。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

朝潮は自らを取り巻く情勢を、全く理解していなかった。 しかし、自分の周囲が戦場となったことは、直感的に分かった。 朝潮の視界から、人影が消えた。貧民街全体が、息を潜めているようだった。 「一体、何が」 朝潮は油断なく周囲を見回した。備えはすぐに報われた。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

細い路地から躍り出た人影。 その手に拳銃があることを見て取ると、朝潮は即座に反応し、回避と同時に足元にあった瓦礫を投げつける。 艦娘の膂力で投げられたそれは、いとも容易く襲撃者の骨を砕いた。 倒れ伏した襲撃者は、小さく呻いた。 「パーイ（お父さん）……」 #朝潮バレンタイン

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「え……？」 少年は死んだ。 まだ７歳くらいだろうか？　朝潮なんかよりずっとずっと幼く見える。痩せ細った手足に日に焼けた肌。ラテン系特有の黒い瞳を開けっ放しにして。その場に倒れ虫のように痙攣し続けていたが、それも、やがて、収まる。 少年は、死んだ。 #朝潮バレンタイン

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少年は死んだ。 口からゲボゲボと嫌な音をたてて、次から次に赤黒い液体が乾いた土に垂れ落ちていく。吸水性の少ない乾ききった土では受け止めきれず、周りへ周りへと拡がっていく。 少年は、死んだ。 拳大の石の塊は、まだ筋肉すらついていない柔らかな腹にめり込んでいた。 #朝潮バレンタイン

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艦娘は人間ではない。その数倍優れた身体能力が、投擲力が、鋼鉄の水道管を引きちぎる筋力が、その未発達の肉体を襲ったのだ。或いはそれが大人なら、数日は食事出来ないほどに、しばらくは動けないほどに無力化出来たかもしれない。だが幼い身体にそれは不可能だった。 #朝潮バレンタイン

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石が発した衝撃は少年の柔らかな骨を砕き、未発達な筋組織を引きちぎり、その奥にあるハラワタを内部から滅茶苦茶に掻き乱した。結果、骨と肉と臓腑の歪なミックスジュースを作り出し、少年は死んだ。熱さのせいか、はたまた不衛生だからか、死体にはもう蝿がたかり始めていた。　#朝潮バレンタイン

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「え…あ……え…」 朝潮の思考力がバーストする。理解出来なかった。いや、したくなかった。 少年は死んだ。……血を吐いて。 少年は死んだ。……内臓を破裂させて。 少年は『殺された』。 ……朝潮によって。 「あ、あ…い、イヤアアアアアア！！！」 朝潮の悲鳴が響いた #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

艦娘とは強力な兵器である。 艤装を装着しておらずとも、冷静に対処さえすれば、完全武装の歩兵一個中隊を翻弄することすら出来る。 そう。冷静に対処さえすれば。 狂乱する朝潮には、じゃれついてくる子猫に対処するほどの余裕すら無かった。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

艦娘とは、歪な兵器である。 海あって砲火を繰り、陸にあってもただびとを寄せ付けない強力なハードに比して、脆弱な精神。 例えば運用者が父を擬し、情愛をもって操作しなければ、まともに機能しないような。 「偉いぞ朝潮」「朝潮は皆を守ってるんだ」「朝潮のおかげだよ」 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

「お父様は褒めてくださる」「朝潮のおかげで幾つもの家族が幸せに過ごせるのだと」 理解できなければ良かった。パーイという言葉が、父を示す語だと理解できなければ。だが艦娘の機能が理解を強い。朝潮の理性は繋がりをみてしまった。 自分は、壊してはならぬものを壊した。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

少年は初弾だった。 朝潮を捕らえんとする男たちが放った1500ドルの弾丸だった。男たちの予想通り、その弾丸は呆気無く砕け散り。男たちの予想を超えて、その弾丸は朝潮を深く抉った。 むしろ、何かの罠ではないか。そう疑いながら、襲撃者の1人は恐る恐る朝潮に近づいた。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

襲撃者の男はどうか針が通りますようにと祈りながら、朝潮の首筋に注射器を押し付け、その中身を彼女に注ぎ込んだ。 「いや……、いやっ……！」と。目の前の現実を否定したがっていた朝潮にとり、救いのように。強烈な睡魔が沸き起こり。朝潮はそれに抗わなかった。 #朝潮バレンタイン

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……闇の中を落ちていく。 溶かしたチョコレートのような、ドロドロとしたものが朝潮を足元から覆っていく。懸命に払い除けようとすればするほどそれはこびりつき、やがては胸元まで埋まる。そこに至って朝潮はそれの正体に気がついた。臓腑である。赤黒い血肉の塊である。 #朝潮バレンタイン

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「パーイ」 声が響いた。それがまるで反響するかのように１つ、また１つ増えていき、朝潮は大合唱に包まれた。 「パーイ」「パーイ」「パーイ」「ハ゛ーイ゛ィ」「ハ゛ァアイ゛ィィィ」「ハ゛ァアアアイ゛ィィィィ」 盛り上がった肉塊は喉元まで埋め、固まり、形を成していく。 #朝潮バレンタイン

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それが少年の顔になった瞬間、朝潮は悲鳴をあげた。 「ッッッ～～～……！！！」 跳ね起きるて全身を脂汗が覆っていた。急に起きたせいだろうか？　ハンマーでぶっ叩かれたかのように頭の中で鐘がなっている。朝潮はいつの間にか肌着にされ、ボロ布の上に寝かされていた。 #朝潮バレンタイン

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一息吐いた瞬間、記憶と悪夢がリンクし、朝潮はその場で盛大に吐いた。出発前に鎮守府で食べた食事すら吐き出しかねない勢いで吐いた。頭がガンガンする。目眩もだ。喉が乾く。喉が……。 「ようやく起きたか？」 バリトンボイスのポルトガル語が聞こえた。 #朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

日に焼けた肌、胸元まで肌蹴たシャツ、悪趣味な金のネックレス。サングラスから覗く眼は鋭くどんよりと淀んでいた。 麻薬カルテル……朝潮のノイズ混じりの頭にそんな単語が過る。 「流石カンムスだな。寝てる間にあんだけブチ込んだのによ、ヘヘ」 注射器を回しながら笑う。 #朝潮バレンタイン