イモムシの夢を見ている
02.明晰夢というやつはとにかく残酷だと思う。 見ているものが夢だとわかっているのに、逃げることも叫ぶことも息を殺すことも出来ない。 今よりも綺麗な部屋の中で、夢の中で目を覚まして 本当にしたい事以外の自由を与えられている夢を見ている。
2016-03-18 21:05:3903.ここは自室、目を覚まして寝返りし、前にすすめる事を確認する。 うず高く積み上げられたダンボールの中には、小分けされた物資が詰まっていて 本当は半年余りの籠城生活の中で既に使い潰してしまった物で 頭の中では既に使い切り、食べ尽くしたと理解している物を、もぞもぞと確認している。
2016-03-18 21:09:5707.予想外に散財して、手持ちと残高が心もとなく 頼りの預金口座の数字が、月々の引き落としで自動的に目減りしていくのを見た事が有る。 胃の腑を摩り下ろされるような気分で一日一食で十日をしのいだ。 ソレ以上の恐怖を、半年余り続けた。
2016-03-18 21:15:5008.夢の中の様子は、部屋の中の家具や物資の数から見て恐らく十月ごろ 何も考えずに、ハンスから齎された情報から 『早く寒くなれば良い』と祈っていた頃だ。 まだ、デスクトップパソコンが”窓から捨てられていない”
2016-03-18 21:19:1209.あの後、あの日、10月10日。 フォーラムが纏めた『ケイン・レポート』が完成した日 タイミングを見計らっていたようにライフラインが死に絶えた。 しぶとく供給されていた電気・水道・通信回線はまるで示し合わせてそうしたように同じ日にストップした。 これは、その直前の夢だ。
2016-03-18 21:23:2510.回り続ける思考を無視して、夢の中の自分が物資の確認を終えて、のろのろと室内を動き回る。 動きは遅く、鈍い イモムシの夢、イモムシに成り果てた夢。
2016-03-18 21:26:4911.室内には刺激が乏しい 電灯は消えて、時計の文字盤が蛍光色に薄く光っている以外は 自分が動いて立てる僅かな音以外は何も外部からの情報がない。 この頃には慣れきっていた、叫びだしたく成る、気が狂いそうな静けさ
2016-03-18 21:31:1914.意識が喉を鳴らす、夢の中の身体の反応は鈍い。 意識は目を瞑ろうとする、夢の中の身体は窓を見る。 意識は叫びを上げる、夢の中の身体はもうイモムシで、だから叫ぶことも出来ない。
2016-03-18 21:35:4917.意識が回る、この部屋は六階 建物のワンフロアは高さ約3m、 この部屋の概算上の高さは地上18m だから、だから、だから だからだからだからだからだからだからだからだからだからだから
2016-03-18 21:40:1720.コツ、コツ、コツコツコツコツと、窓を叩いて 呼びかけるように、誘うように、窓の外から外に出ようと誘う 隣人の姿が有り得ないと、狂ったように信じる。
2016-03-18 21:45:1222.”地上六階、高さ18mに届いてしまう地を這う屍肉の積み重なり”が、窓の外に満ち満ちている。 一面、すきまなく、どこまでも、見渡す限りに
2016-03-18 21:49:1024.この夢にも馴れた、何度も何度も何度も何度も見るものだから馴れて馴れてしまって、もう現実との区別も曖昧なほどに馴れ切ってしまったっだから俺は平気まだ狂ってないこれは夢で俺はまだだいじょうぶでだから平気で生きていてかまれていなくて俺はイモムシじゃないんだだいじょうぶだ
2016-03-18 21:53:28